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パチッと目が覚める。



吹き抜ける涼風。


煽られるようにして木々がサァーっと枝や葉を鳴らす。



どう見ても、どう考えても森の中だ。


「………………」


今度は自分の体を見てみる。


背後にある木に背を預けて地面に座っており、現代人としては考えられないほどゴワゴワした布の服と同様のズボンを身につけていた。


そして、普通の日本人だった俺は当然の如く黄色人種であり、黄色っぽい肌色をしていたはずなのだが……


記憶にある肌より随分白くなった肌。


自分の記憶より小さな指。


目を上に向けると僅かに見える前髪は焦げ茶だったはずが何故か金色だ。


「これは…………本当のことなんだろうなぁ……」

蒼い空を見上げて呟いた。


どうやら俺はまだ死後の世界には行けないらしい。


真っ白な部屋(?)から居なくなる?とばされる?前に思いだした記憶や知識。


それは、この世界で生きていた俺の前世のモノだった。


フェルテル・メイフレムとして魔王をやっていた頃の。


「ふぅ……とりあえず、力が使えるのか試さないとなぁ……」


何て言ったって、この世界には魔物がいる、魔法があるファンタジーな世界であり、この世界は死後の世界などではなく生きるものがいる世界だから。


何故そんなことが分かるのかというと、俺には3つほど前世についてとは違う知識が与えられた。


まず1つ目、今、俺がいる場所が前世の俺がいた世界であること。



何故なら、俺自身がそう確信してるからだ。


根拠なんかはない。


でも、そうだと確信してる。


凄く不思議。


まるでそう無理矢理思い込まされてるかのようで、どう俺がここが死後の世界であると自分に思い込ませようとも確信が揺らぐことはない。


不安すらない。


気味が悪い。


次に2つ目。


姿が変わっているらしいこと。


どのように変わってるかはわからないが。


このこともそうであると確信してる。


気色悪。



そして3つ目。



「ウィンドウオープン」

スッと空中に投影されたディスプレー。


そこにはステータスとアイテムが黒文字で書かれていて、パーティー、テイムモンスターが灰色の文字で書かれていた。


「便利すぎでしょ……」

何でこんなものが現れたのかはわからない。


当然前世の記憶にこんな便利なものは存在しなかったし。


でも、でるだろうと確信はしていた。


意味がわからなさすぎる。


でも、便利そうなので有り難く使わせてもらおう。


人間だもの。


とりあえず、ステータスと書かれた場所をタッチすると画面が変わった。



《名前》 ムツキ・メイフレム

《種族》 子魔族

《職業》 ―――

《年齢》 16

《称号》古の魔王 合法ショタ マザコン ファザコン シスコン 鈍感野郎 転生者


《所持スキル》


武装召喚魔法

治癒魔法

風魔法

魔力操作

魔力感知

総合武術

気配遮断

気配察知

身体強化

敏捷上昇

膂力上昇

体力上昇

暗視

鷹の目

忍び足

鑑定

テイム


まるでゲームだなぁ……


しかもスキルの数がかなり多い。



もしかして前世のスキルが引き継がれてる?


元々、前世は魔王やっていたんだからスキルの多さにも頷ける。


とりあえず、力に関しては心配はいらなさそうだな。


体がついていけるか、って問題はあるけれど、戦えないことはないどころかかなり戦えるだろう。


魔物がいるであろうこの森から出ることは叶いそうだ。


それと、メイフレムは確かフェルテルの姓だったはず。


フェルテルの時代では姓は貴族階級にしかなかった。


今はどうか知らないけれど、あまり姓は名乗らない方がいいな。


厄介なことになりそうだし。


それにしても、『古』か。


かなりの年が進んでそうだ。


フェルテルの常識使えるかな?


さてと、逃避はここまでにして言いたいことが多々ある。


まず――――




称号欄ふざけんなッ!!


なんだよ!合法ショタって!!


確かに小さくなってるけどさ!!


そう言う種族何だから仕方ないだろ!?


それにファザコン、マザコン、シスコンって何だ!!


家族を大切にしてただけじゃないかッ!!


俺はノーマルだ!!


それに鈍感野郎って何だよッ!?


意味わからないよ!!


それにまともなのが2つしかないじゃないかああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



「落ち着け、落ち着け。

クールになるんだ」


言いたいことは頭の中で叫んだので少し落ち着いた。


気を取り直してステータス画面の右上にあるバックのマークをタッチして最初の画面――――面倒なのでメニュー画面に戻し、アイテムの文字をタッチする。


横線が引いてあるだけだった。


まぁ、そんなもんだよな。

またもバックをタッチしてメニュー画面に戻って、今度はパーティーをタッチ。


変化なし。


つまりは灰色の文字は選択不可ということか。


なるほど。


テイムモンスターも同じだな。


モンスターをテイムしてないし。



もう見ることはないだろうから、左上にあるバツマークをタッチしてウィンドウを閉じる。


次にやるべきことは力が使えるかだな。


まずは、武装召喚からにしよう。


武装召喚とは己の中に眠ってる力を武器として召喚する魔法らしい。


だから、自分の内側に意識を持っていくと、自分が今召喚できる武装が分かるし、それがどのようなものかわかるみたいだ。


最初の召喚は呪文と名前を詠唱しなければならない。


2度目からは名前を言いながら召喚する武装を思い浮かべると召喚できるらしい。


手抜き感半端ないね。


よっし、やってみよう。


両手を前に出して、目を瞑り、自分の内側に意識を集中していく。


海中に沈んで行くかのように潜り込んでいくと…………あった!


目をキッと鋭く開け、息を吸い込み、力を体に込める。




「我が求むるは真なる力!

我の奥に眠りし力の根源よ!

今、武具となりて!

我が前に顕現せよ!

魔杖連理の杖!!」





言葉に魔力をのせて呪文を詠唱する。


魔法とは、魔力により世界の法則を一時的に書き換えて行使するものだ。


呪文はその書き換えの方向性を示し、導くそうだ。



要するに、魔法を車に例えると分かりやすいかもしれないな。


燃料が魔力でハンドルが呪文。


車本体を世界の法則。


魔法が車がたどり着いた場所。


燃料を消費し、車体を動かし、ハンドルで方向性を決め、目的地に到達。


うん。ちょっと微妙な例えかただな。


まぁ、自分が分かればいいし。


と、そんなことを考えていると手元に光が集まり、形となり、木の杖が現れた。


長さは約2メートル弱。


飾りはないがしなやかで漆を塗ったかのような綺麗な光沢のある黒色のまっすぐな杖だった。



その形はある意味、棒や棍といった方が正しいかもしれない。


だけど、これはフェルテル、魔王が使っていた武装だ。


もしかすると、俺が召喚できる武装は全てフェルテルと一緒かもしれないな。


ちょっと残念。


この連理の杖はフェルテルが武装召喚できるなかで一番ランクが低いものではあるがそんじょそこらの木の杖と一緒にしてもらっては困る。


まず、強度は鋼鉄とも普通に打ち合うことが出来るし、魔力伝導率が高い――――つまりは魔力を伝えやすいため、杖に魔力を纏わせて強度を上げれるし、魔法を行使する際に無駄な魔力を放出することなく、魔法を放つことができる。


要するに、魔法の発動を補助するのにも、棍棒として攻撃することもできるというわけだ。


それに他にも別の能力があるみたいだし。


まぁ、それについてはフェルテルも知らないみたいだけど。


武装は召喚すれば何となく能力が分かるはずだけれど、あんまりわからなかったらしい。


まぁ、能力がなくても普通に優秀な武装なので頭の片隅においておく。


今使えないのなら、必要ないし。


それじゃあ、どれだけ体がついていけるか試してみるか。


腰を落として、連理の杖を槍のように軽く構える。


そして試しにゆっくりと突く。


引き戻して、もう一度ゆっくりと突く。


今度は振り上げ、降り下ろし、横薙ぎをゆっくりと二通りやってみる。


うーん。



初心者にしては様にはなってる……のかな?


フェルテルの記憶にある構え方や動作の仕方を真似てやってみたけれど、正直遠く及ばない。


体に動作が染み込んでないから、ぎこちなさがある。


でも、記憶、つまりは経験があって、体が追いつけてないような状態だから体が動作を忘れてるようなものだし、ある程度やればまともにはなるかな。


とりあえず、使える程度にはしておかないとな。


そうと決まれば、今度はしっかりと構える。


そしてさっきよりも早く突いて引き戻してまた突いてを繰り返す。


50程こなすとマシな程度にはなったので、振り上げ、振り下ろし、横薙ぎもマシな程度までこなす。



それが終ると、動作を繋げてやってみる。


突きからの踏み込んで振り上げ、踏み込んで振り下げ、バックステップで距離をとる。


ぎこちない。


それでも、何度も繰り返すとマシにはなってくる。


実力的には初心者から脱却し、中級者でも上の方くらいか。


それでもまだまだだけど、これくらいでやめておいて連理の杖に消えろ、と念じる。


すると連理の杖が光となって消えた。


なんて便利なんだろう。


修練する必要があるけれどまたの機会に。


もう一度目を瞑り、意識を体の内側に持っていく。


フェルテルは複数の武装を召喚できる。


だから、他の武装も出来るか試してみないと。

連理の杖が一番最初に分かったのは連理の杖のランクが一番低いから。


もう数分粘れば別のを召喚できるかもしれない。





―――――――どうやら、他の武装は召喚出来ないみたいだ。


意識を潜らせても連理の杖があることだけしかわからない。


もしかしたら、連理の杖しか使えないのだろうか?


それは、戦力的にも気持ち的にも残念だなぁ……


フェルテルの本領は連理の杖以降の武装からなのに。


実際に、これ以降の武装便利で強力だ。


フェルテルが風魔法を全く使わなくなるほどに。


でも、力量が足らないと召喚出来ないみたいだし、まだわからない。


希望は持たないと。


母さんだって生きていくには少しばかり楽観的なほうがいいって言ってたし。



となると、次に試すのは魔法かな?


連理の杖しか武装がない現在、最も活躍するスキルのはずだし。


「舞えよ風よ吹けよ風よ『微かなる風』」


サーッと風が吹き抜けていく。


一応は成功してるみたいだな。


次。


右の親指を少し噛む。


右親指からツッーッと血がながれる。


ちょっと深すぎたか?


まぁ、治せればいっか。


左手を怪我から少し離した所で翳して――――


「苦痛を除き、傷を癒して治せ『治癒』」


詠唱すると流血は止まり、左手で触ってみても怪我はない。


流れた血は、水がないので舐めとっておく。


治癒魔法、風魔法ともに使えるっと。

軽い確認だけれど、安全じゃない所で魔力の無駄遣いは避けたいから仕方がない。


それに魔法は魔力と素養――つまりはスキルさえあれば後はイメージ力でなんとかなる。


だから、今無駄な魔力を使ってまでこれ以上確認する必要はない。


でも、まぁ、


魔法使えちゃったなぁ……


すっげぇ……


感動で体がゾクゾクした。


でも、この世界だと普通なんだよなぁ……


素養があってそのことに気づいていて十分な魔力があれば、の話だけれど。


この世界か……


また、生きられるんだなぁ……


家族も友達も知人すらいない、それこそこの世界の名前しかしらない世界だけれども。


なんか、考えるだけで寂しくなってきた……


人間ってのは群れて生きるものなので、やっぱり誰も知らない、というか、現在誰もいないところにいるとなると、心細くなるもので……


凄く不安だ。


こんなこと思ってると、絶対、「男が情けないこと言ってんじゃない!」って言って拳骨をお見舞いしてくるな。


父さんなら、「今は不安でもきっと、うまくやれるよ。睦月なら。だから、大丈夫」って言ってくれるかな。


だから、ここで誓おう。


元の世界と踏ん切りをつけて、この世界で生きていくために。


「親より先に死ぬような親不孝な俺だけど。

父さんや母さんに教えられたことを生かして今度こそ寿命を迎えるまで生きるから。

だから、今までありがとう!

俺、この世界で頑張ります!!」



1からの再スタート。


今度こそ悔いが残らないように生きよう。


悲しまないように悲しませないように。


「連理の杖」


名を呼ぶと光が集まり、黒色の杖が現れる。


両手ではなく左手で持って俺は歩き出す。


この世界、マグラリアで生きるために。








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