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走ること(俺は翔ぶこと)たぶん4時間くらい。
距離的にどれくらいなのか、わからない。
時間は陽を見れば何となく分かるけれど、距離までは流石に分からない。
速さ的にはカルマ達が朝日達の上に跨がっているためそんなに速さは出せないから、自転車を全力でこいだくらいの速さだと思う。
まぁ、自転車を全力でこいだ速さなんて知らないからあくまでそれくらいかな、程度の体感。
まぁ、街道があって良かった。
森の中を行くなら歩く速さくらいしか出せないし。
そして、ただいま休憩中。
馴れない旅だからね。
こまめに休憩しないと。
「はい、水」
井戸から汲んでアイテムにしまっておいた水瓶から水を木のコップに注いで二人に渡す。
「ありがとうございます」
「……ありがとう」
受け取った二人は少しずつ飲み始めた。
「アサカとアサヒも水いる?」
「「ガゥ!」」
欲しい!と言われたので広くて少し深めで大きめの皿に水を注いで朝日達の前へと差し出す。
それをペロペロと舌を使って飲み始めた。
なんかほっこりする。
他の人には3メートル近い朝日達は怖いだろうけど。
暫く朝日達を眺めて英気を養ってると、ピクッと耳が動き、顔を上げてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
「ガウッ!」
なにか来る!とアサヒが言った。
マジか。
俺の索敵範囲内にはまだ反応がない。
流石としか言いようがない。
「何処から来るの?」
「ガゥ!」
あっち!とアサカが見た方向はたぶん俺から見て右斜めの方向。
えっと東から来て、今俺が向いている方向は南だから南西か?
「どんな魔――ん?」
小さくドシーンドシーンと音が聞こえた。
この音は……なんだっけ?
ああ、重いものが地面にぶつかるような音に似てる。
それが何度もだから、何が歩く音か。
「オーガ?違うかな」
「「ガゥガゥ!」」
もっと大きい!だって。
「じゃあ、トロールか」
「「ガフッ!」」
そう!と朝日達のお墨付きを貰った。
トロールは確か小さくて8メートル大きいと10メートルを軽く超す魔物で確かランクはB。
大きいのとノロマなのと力強いのと馬鹿なことと皮が硬いのとデブなことで有名だった気がする。
半分は悪口だね。
だとしたら鴨だ。
風精霊の竹箒で完封できる相手だから。
「それじゃあ、ちょっと待ってて。
アサヒとアサカはカルマ達を守ってて。
俺はちょっと狩ってくる」
「「ガゥ!」」
わかった!と言ってくれた。
一緒に行くって言われるかもと思ってたけど、ありがたい。
いくら、周りが少し木が少ない森とはいえ、二人だけで残すなんて駄目だからね。
「ちょっと待って下さい!
戦うんですか!?トロール何でしょ!?」
ドシーンドシーンという音が徐々にだけれど近くなってくる。
「うん。
倒せばお金になるからね。
怖いけど、死にたくはないから」
「いや!でも!」
「ん?カルマ達なら大丈夫だよ。
アサカとアサヒがいるし」
朝日達さえいれば、Bランクの、しかもノロマといわれるトロールごときに追いつかれはしないし、そんじょそこらの魔物程度に負けはしないだろう。
俺にもしもがあっても、ミーアが会話できるから、街に連れてくれるだろう。
「そういうわけじゃなくて!
あなたが死んだら……どうするんですか……」
ああ。
そういうことか。
俺は死なれたら悲しくなる程の存在になれてたのかもしれない。
勿論、俺がここで死ねば自分達も死ぬ可能性があるから言ってる可能性もある。
でも、嬉しい。
心配してくれることが。
「大丈夫。死なない程度に頑張ってくるから」
地面に置いてある風精霊の竹箒を手に持って跨がり
「飛行」
呪文を唱え飛び上がる。
アサカが教えてくれた方向に加速する。
「ちょっと!待って下さい!!」
カルマの声が聞こえたけれど無視した。
本当にごめん。
俺は街につくまでにある程度魔物を狩っておかなければならないんだ。
俺は今無茶なことをしてることは分かっている。
でも、俺は強くなりたいし、今俺はお金を持ってない。
だから、俺は焦ってるんだ。
確かに、トロールが相手なら完封できる自信はある。
だって風精霊の竹箒に跨がって魔法を放てばいいのだから。
でもトロールかもしれないであって、トロールじゃない可能性だってあるんだ。
もし、対空戦闘できる魔物だったら?
もし、魔法が効きにくい魔物だったら?
俺の優位性は無くなってしまうだろう。
そうなると戦闘経験がほとんどない俺が勝てるのだろうか。
不安だ。
でも、やらないと。
ただその気持ちに突き動かされる。
暫く飛んでると敵が見えてきた。
10メートルはありそうな大きな体躯に顔以外を覆う茶色い体毛に間抜け面。
良かった。
トロールみたいだ。
俺現在高度約100メートルほどのところを飛んでいて距離は300から500メートルほど。
もう数十メートル位高度を上げればたぶんトロールは何もできないと、思う。
木を投げてもとどかないだろう。
木も所々にしか生えてないから見張らしはいい。
問題は命中できるか、強靭な筋肉や体毛を貫通できる位の威力をこの距離から飛ばせるか。
大丈夫。
きっとできる。
それにできなければ何のための力だ。
「ふぅ」
無駄な力を吐き出す。
よっし。
やろう。
「螺旋する風槍」
約5割もの魔力を込めた3メートルにも及ぶ長大な風のドリルがトロールへと襲いかかり、容易くその頭蓋をぶち破り、トロールの背後にある地面を抉り霧散した。
気づきすらしなかったのかトロールは2歩ほど歩き、崩れ落ちた。
風精霊の竹箒のもう1つの能力。
それは風魔法に限り詠唱を省略出来ること。
つまりはイメージと魔力と魔法名さえ言えばいい。
魔法使いの弱点の1つ詠唱する時間が長いを解消できる一握りの天才にしか出来ない技能。
その代わり風精霊の竹箒を持ってる間風魔法しか使えないというデメリットはあるけれど。
以外とあっけなかった。
でも、魔法無しだったら、風精霊の竹箒がなかったらと思うとゾッとする。
ただ今回は相性が良かっただけ。
自惚れてはいけない。
いくら強くても油断したら死ぬんだ。
この世界は死が身近にあるんだから。
そうフェルテルの記憶が教えてくれる。
あと少しだけ待ってから死体を回収して町へと行こう。