表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「久しぶりに江ノ島を訪れる」

作者: 夢野彼方

 久しぶりに江ノ島へとやって来た。何年ぶりだろう。

 江ノ島弁天橋は改築され、「動く歩道」になっていた。欄干に手を添えたまま、ツーっと滑るように橋を移動していく。

「便利になったもんだ。そのうち江ノ電も、島内に乗り入れをするようになるんだろうなぁ」江ノ電が島を1周する様子が目に浮かぶ。


 海産市場にある食事処へと入った。名物の「生しらす丼」を食べようと思う。

「生しらす丼を1つ」わたしが頼むと、店のおじさんはちょっと意外そうな顔をする。

「生しらす丼ですか? 今どき珍しいですねぇ」

 わたしは不思議に思い、

「江ノ島と言えば生しらすじゃないですか。それとも、今は時期じゃなかったですか?」と聞く。


「いえいえ。もちろん、しらすはたんと獲れますよ。それこそ、腐るほどにね。ですが、この島じゃ、しらすなんぞはもう古いんですよ」

「というと、何か別のものが流行ってるんですね?」わたしは察しよく尋ねた。

「ええ、よくおわかりで。今1番人気は、何と言っても『フナムシ丼』ですね。どの店でも、品書きの最初に載せてますよ」


 フナムシと言えば、磯をわが物顔に這い回る、あのゲジゲジのような生き物だ。「海のゴキブリ」などという異名を持っている。

「じゃあ、それにしようかな」驚いたことに、わたしはそれを注文していた。

「はい、じゃ、ちょっと浜まで下りて、何匹か調達してきますからねっ」おじさんはそう言うと、バケツと網を持って店を出ていった。


 ほどなくして、バケツいっぱいフナムシを捕まえて戻ってきた。

「さっそく茹でますから。あー、ゆで加減はどうします? じっくり煮るか、それともバリカタでいくか……」

 ちょっと考えて、わたしは答えた。

「アルデンテで」


 やがてお盆が運ばれてきた。丼の上で、山盛りのフナムシが、ほかほかと湯気を昇らせている。ぱっと見、石の下などでよく見かける、ワラジムシにそっくりだ。まったく抵抗がない、といえば嘘になる。

 試しに1匹箸でつまんで、おそるおそる口に入れてみた。

「あ、おいしい……」それがわたしの第一声だった。

「でしょ? 見た目の奇抜さからは想像がつかない、なんてお客さんにいつも言われるんですよ」おじさんは誇らしげだ。

 シャコとホタテを足して割ったような味と食感である。舌の上で、磯の香りがほのかに広がる。


 食後の散歩に参道を登る。

 展望台まで階段だけで行くつもりだったが、「エスカー」が「スーパー・エスカー」と変わっているのに気づき、久しぶりに利用してみることにする。


 エスカーというのは実はエスカレーターのことで、子供の頃、親に連れられて、初めて乗ったとき、ひどくがっかりした覚えがあった。

 名前からして、きっとすごい乗り物に違いない、そんな期待を胸にいざ乗車してみれば、ただのエスカレーターに過ぎないと知れば、それも当然のことである。しかも有料で、結構な値段を取られるのだった。


 今回も、(壁の色を変えたとか、またお色直しなんだろうな)と思いつつ、赤いお社のような「エスカー乗り場」へと入る。

 チケット売り場には、なぜか猫がたくさん集まっていた。それも普通のサイズではない。控え目に見積もっても、優に3倍はある。

「ははあ、食堂のおこぼれが、しらすからフナムシに変わったんで、栄養がついたんだな」そう推測した。おそらく、その仮説に間違いはないだろう。


 エスカーはやっぱり、エスカレーターのままだった。「壁のお色直し」すらされておらず、鶯色のままである。

「ほらね……」ため息をついてステップに足を乗せた。

 その途端、ぱっと景色が変わる。何が起きたのか、状況を把握するのに数秒ほどかかった。

 周囲には海が広がり、遠く三浦半島まで見渡せた。

「どうなってるのっ?!」


 ようやく、ここが展望台の中だということに気がついた。下からここまで、瞬時に運ばれてきたのだった。

「すごっ、ほんとにスーパー・エスカーだった!」

 江ノ島の、ここ数年の様変わりには驚かされることばかりだ。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ