9話
「ふう、助かったぞ力也」
「うぅぅぅ、お姉様ぁ〜」
「やっと落ち着いたか、はぁ」
「まったく、カリンが身体強化しだしたときはどうしてくれようかと思ったわ」
「そう、だな……はぁ」
「ちょっとアーロン、どうしたの?」
「いや?なんでもないよ……僕が悪いんだから……はぁ」
「何よ、あなたらしくないわね…」
「よし、やっとで目的が達成できるな。力也、手合わせだ!」
「戦闘狂かってんだよ姫さん、俺は別に了承したつもりはねーぞ?それにこいつらが誰なのかも知らねーし」
「ふむ、そうだったの……この3人は吾専属の近衛騎士だ。青髪の男がアーロン・シーカー、茶髪の女がサーニャ・サンピアゴ、そこの変態がカリン・スチュワートだ」
変態とはまぁ酷い言われよ…
「はぁぁぁん、お姉様ぁぁぁぁ、もっと罵ってくださいましぃ!」
「だまれぃ!!」
いや、妥当か
「ヨロシク、勇者のお二方……はぁ」
「こらアーロン、ため息なんて勇者様に失礼でしょ。よろしくお願いします、勇者様」
完全にこっち見てないぞ、もう英雄しか眼中にねーなこいつ
「こっちの、先に吾が連れてきた勇者が黒戸力也、後から来た方が瀬名英雄だ」
「……な、なんです?じっと見て…」
…英雄にしては珍しいな、女に興味持ったか?
「いや、前の世界にもお姉様お姉様言ってた人はいたけど、なんでそんなに慕ってるのか理由は聞いたことなかったなぁって。そういう人に限って力也みたいに言ったら、黙ってれば可愛い残念な奴、になるからさ」
俺はそんなこと言わねーよ
「可愛い……?」
いや、英雄の言葉にそこまで深い意味はないから勝手に敵対心抱くな茶髪……サーニャだったか
「フフフフフフフ!よくぞ聞いてくれました勇者よ!そこまで言うなら教えて差し上げましょう!まずはこの美貌!きらびやかな銀色に少し赤みの入った髪!無造作に伸ばしてるように見せて、その実毎日手入れを怠ることがなくとてもサラサラなのです!」
「お、おいカリン少しお「それに加えて!」」
「燐としたこの顔立ち!全てを見通さんかのような薄赤の目!高すぎず低すぎない鼻!ピンクで小さめの口!そして全てのパーツが美しく並ばれています!」
「おい英雄どうにかしろ」
「い、いや、どうしろと…」
「スラッと伸びた手足!豊満な胸!キュッと括れた腰!完璧とも言えるプロポーション!胸の柔らかさはしょっちゅう顔を埋めている私が言うんです!間違いない!凄い柔らかへぶらっ!?」
……へ?
「い、いい、いい加減にせんか!」
な、なんだ?まったく反応できなかったぞ……?
姫さんが殴ったってのは姫さんの体勢と吹っ飛んでったあれで把握はできるが……
「ふぅぅぅ、力也、それと英雄も、今のは忘れろ」
「お、おーけー」
「わ、忘れました!」
恐ええ……英雄が敬礼してるし
かくいう俺も両手をあげてるが
「あ、力也様、朝食の準備が出来たので……って、あれ?」
おおミーナ、探しに来てくれてほんとに助かった
…
……
あのあと朝食は皆で食べようとか言い出した英雄に押しきられてさっきのメンバーが姫さんの部屋から出られるテラスに集まってる
姫さんがいるからとミーナに同席を拒否され、メンバーは落ち着いてみれば周りが王女と勇者、萎縮して当然の3人……いや、2人とさっきまでのノリで復活してきた1人の近衛騎士、姫さんに何故か三女の奴が追加され、俺に英雄の6人となってる
三女は騎士と同席を嫌がるかと思ったが英雄が言ったらすぐ頷きやがった。こいつが落ちてるのはまぁバレバレだったが…
「……姫さん」
「……言うな」
姫さんの隣になれて恍惚とした表情を浮かべながらも虎視眈々と姫さんの箸を狙うカリン
英雄にしか意識が向いていなく3人でもはや別の空間を作り出す英雄、サーニャ、ルナ
その空間を羨ましそうに、肩を落としながら眺めるアーロン
……居心地悪すぎだ、さっさと食おう
「おい力也、そんなに急がんでも…って待てカリン!お主の箸はそれじゃない!!」
……さっさと食ってこのテラスから脱出だな
…
……
「ごっそさん」
…さて、さっさとこの場から逃げるかな
「あ、力也もう終わったのか。10時に軍関係者との会合があるから少し前までに部屋に戻っておれよ?」
「了解」
今はまだ8時前か…2時間もあるな
「力也様、何かご用意いたしましょうか?」
「んー、いーや。まだ借りてる本読みきれてないし、少しこの城散歩してくるから」
「分かりました。では私は片付けを終えたら部屋で待機しておりますので、何かあればお声をかけてください」
「分かった。俺の隣の部屋だよな?」
「はい」
「じゃ、また」
横目で軽く頭を下げるミーナとイチャコラしててこちらに気がつかない英雄達、姫さんとカリンの攻防を見ながら部屋へ戻り廊下へ出る
「……ここが姫さんの部屋ね、造りは俺の部屋と大差無いな…」
昨日走って確認した限りだとここら一帯が個室の集まりだったな
玉座やら応接間やらがある方は後で良いから……訓練所のある中庭も後で良いか。ならあっちだな…
…
……
ここは食堂か。もう人が減り始めてるな……それにしても、着ている服装が元の世界と大差無い…?こんな中世の城みたいな所だから鎧やらなんやら着込んでると思ったが……どこぞのサラリーマンかと言いたくなるタイプと私服が半々ってとこか
あぁ、訓練所ではあの三人は鎧着てたな。ここでは普段着で来てるのか
いや、そしたらあのスーツどもが…
「ん?見ない顔だな……新入隊者か?」
入り口から中を観察していたら丁度出ていく所のゴツいおっさんに声をかけられる
ってかこのおっさんの腕ふっと!?俺の太ももよりありそうだな…
「そんなところです」
「なんだ?飯の食い方がわかんねえのか?ならあそこの機械に金入れて券を買うんだ。それをおばちゃんに渡せば作ってくれるよ」
そういうわけじゃないんだが……そういうことにしといた方が良さそうだな
「あ、ありがとうございます」
「おう、がんばれよ」
……なんつー威圧感だよあのおっさん
てかこの券売機、元の世界の普通の食堂にありそうな……なんともアンバランスだなぁこの世界は
ここは軍の人間の食堂ってとこかな。
いや、どうみても戦闘向きじゃないやつも……魔法があるからなんとも言えないけど、文官もいると考えた方が納得できるな。そいつらがスーツ着てると考えりゃ俺が軍の新入隊者に見られたのも納得だな
次行くか
……食堂脇の渡り通路、その中から右手に見えるのが訓練所か。あぁ、やっぱ鎧着たやつらがいるな
左手には……?訓練所みたいなんだが……的か、あれは。遠距離攻撃系の訓練所かな。いくつも訓練所があるのかこの城は
「おい、何者だ」
渡り通路を抜けたところで声をかけられる
「あら、なんでこんなところにいるのかしら?勇者様」
「……あぁ、次女さんかい」