6話
「ああそうか、やけに部屋の中とかが近代的なのはその科学技術の進歩もあったから、か」
戦争で科学技術は進歩するからなぁ
「そうですね、過去、科学技術が廃れ始めたのは戦争、戦闘、兵器としての分野で、生活をより快適にする方向にはほとんど影響を与えませんでしたので。むしろ兵器の方に向けられていた分をそちらに向けたので急速に伸びたそうです」
「そっか……全ての家に電気は通ってるのか?」
「はい、地脈の魔力を電気へと変換する装置が開発されてからは各国都市部は皆それを用いていますね。国の都市は地脈に沿っていて、かつ魔物の危険の比較的少ない場所ですので」
発電所とかでは無いのか…まぁ似たようなもんだろ
「地脈の枯渇の心配は?」
「都市人口を賄って余りある量ですね。変に地殻変動や地形が変わって地脈が消し飛ぶなどしない限り問題ないかと」
消し飛ぶて…まぁ無いと信じたいね
「水道も完備されてるんだよな?」
「はい、海や川の水をろ過し飲み水にするだけの技術が確立されましたので」
…川は良いが………海?もしかして元の世界より技術進歩してないか…?
ちらりと窓から外を覗くとでかい通りを車が走ってるのが見え、さらに奥には電車…いや、元の世界で言う新幹線に近いフォルムのものが走ってるのが見える
……それも大通りだけ、裏路地とかは露店商がいるか……さらに暗い方は人がいないな、当たり前か
「…あれは車や電車か?どうやって動いてるのか分かるか?」
「も、申し訳ありません、専門的な知識は…ただ名称はその通りです」
「そっか…ならそっち系の本を貸してくれる?後は知識系ばかりじゃ疲れるから娯楽系の本も欲しいな」
「了解しました、少々お待ちください」
一礼して出ていくのを横目で見ながら飯の前に持ってきてもらっていた魔法についての本に手を伸ばす
…
……
「お待たせして申し訳ありません………あれ?魔法の練習、ですか?もう魔力を感じ取れているんですね」
やっとの事でかすかに魔力を感じれるようになったところでミーナが戻ってくる
「お、ありがと。少しだがな……魔力って感じるだけでも一苦労なのな」
「この世界の人は初めから魔力が周りにある生活を送っていますので感じ取りやすいんですが、力也様のような異世界のお方は魔力の無い世界なのがほとんどでこの世界に慣れるまでは魔力を感じることすら困難なはずです…凄い事ですよ?」
「俺でこんだけ早くってことは、あいつなら今ごろはなぁ…」
「あいつ…?英雄様の事ですか?」
「あぁ、あいつの事だからきっと『ズゴォォォォォォォン』………きっとこれだな、うん」
「爆発!?感じたことの無い魔力です、敵襲かもしれません!力也様、避難します!私に着いてきてください!!」
「あ、いや、だからこれは多分英雄が「勇者様!」………次から次へとなんなんだよ…」
騎士が何人か部屋に飛び込んでくるのを見て思わず頭を抱える
「他国の手の者かもしれません!護衛をしますのでこちらへ!」
「いや、お前ら俺の話を…」
「どうしてでしょうか…勇者の召喚については極秘事項、当分の間は国民にすら知らせてないはずなのに…」
「人の口に戸はたてられない…他国からしたら勇者は未熟なうちに討てというのが定石だからな。このご時世で実行するアホがいるとは思わなかったが……勇者様!ぼさっとしてないで早くこちらに!」
「だから話し聞けっつってんだろ!」
そう叫んだ瞬間何かダムのようなものが決壊する感覚が全身を走り抜ける
ビクッと震え、ミーナと騎士共が硬直する
………あぁ、これが魔力かい…まさかこんな良く分からんタイミングで完全に感じ取れるようになるとは思わなかった
さっきの爆発音の方向には……まぁ魔力によって人を判別なんで出来ないけど…理由なしに確信できる。何年も一緒にいたんだ………あれは英雄の魔力だな
「り、りり力也様…ま、魔力が……」
ミーナが青ざめている。飯の時とは違った感じ、完全にビビってるな…チッ、うまく操れない…自分の魔力なのによ。とりあえず少しずつ疲れてるような感覚があるからこれが魔力を消費するってことなんだろな
さっき見た本に載ってたことには魔力は人間の思念を受け動くらしい。思念……ゆっくり、体に留めるようにイメージを……
「な…魔力が集束を…?もうこんなに操れるだなんて…」
騎士が驚いたように呟くが、俺でこれだぞ?英雄なら……まぁさっきの爆発で予測できる…制御しきれなくて強すぎる魔法ぶっぱなしたんだろうな
「ふう、無駄に漏れるのは防げてるな……このまま体からの放出を抑えてっと。ああ、さっきの爆発音は気にするな、どうせ英雄だ」
「へ……?ど、どうして分かるんです?」
「ミーナは魔力を感じて人を判別してるような様子だったけど、あんたは出来ないのか?」
「は、はい…」
「力也様、彼は騎士隊の者ですのであまり得意とはしてないんです。詳しくはまた明日……それよりも、どうして英雄様だと言い切れるのですか?私の知らない魔力ですよ…?」
「この世界のメイドは騎士より強いんか?…てかお前が英雄の魔力知ってるわけ無いだろ、今日この世界に来たばかりなんだから」
「勇者様に付くメイドにはある程度の教養、実力が必要になるので。それを言うなら力也様も魔力についてつい先程感じられるようになったばかりじゃないですか、なんで英雄様のだと?」
ああ、それで俺がした質問にほとんど答えられてたのか。きっと異世界人が何聞くかってのはだいたい決まってんだろな
「なんとなくだ」
「なんとなくで命を危険にさらさせるわけにはいきません!相応の実力をつけてからにしてください!騎士さん!」
「は、はい、こちらです」
ミーナの剣幕に騎士が敬語になってるぞ…おいおい
「っと、失礼、部下からの連絡が………へ?」
虚空に向かって頷いてる……連絡方法は念話かなにかか?魔法が苦手でもできんのかね
ま、俺の予想通りだったな。騎士の緊張が消えた
「ほれみろ」
「…分かった、お前は他の隊長にも知らせてくれ」
「何がほれみろなんですか?」
「普通に考えろ、敵ならあんなでかい音たてて来やしない。音もなく暗殺しに来るだろ」
「……そういうことらしい」
「騎士さん?そういうこと、とは?」
「勇者様のおっしゃった通り、もう一人の勇者様が魔法の威力を誤って部屋を吹き飛ばしてしまっただけらしい。危険は無いそうです」
「な…」
「言った通りだろ?」
「な、なんで…?」
「幼馴染みだから、じゃねーの?ほんとになんとなくだからね」
「……そういうことにしておきましょう」
「事実だからあまり理由を聞かれても困るがな」
「そ、それでは我々は現場の片付けに向かいますので」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ミーナと少しやり取りして騎士が出ていく
…魔法が使えない?完全に使えないわけではなさそうだが…今のやつでも今の俺に勝てるかどうか…雰囲気がなんだろ、元の世界ではそうそういない…
「ふう、力也様…いきなりあんなり威圧されたら驚きますよ…騎士の一人が涙目でしたよ?」
「威圧?した覚えはないが……魔力か?」
「はい、やっぱり無意識でしか。先程力也様は魔力を放出なされましたよね?」
「ああ、気がついたら出てただけだが」
「あれは敵を威圧する方法の1つなのです。自分より圧倒的に強い魔力を感じたら怯える、言ってしまえばその程度ですね。力也様は流石は勇者と言いますか、先程のは既に魔力量だけで言えばこの国有数のレベルですね」
…どんなもんかは知らんがそれなりのレベルか。元々魔力のない世界みたいだが体内には含まれてたってところかな
「魔力の増やし方は……限界まで消費、だったよな?」
「はい、特に歴代の勇者様はその伸び率は突出していたそうですので力也様も例外ではないかと」
「なるほどね」
なら今のうちから魔力を増やす訓練でもしておきますかな
「魔力を増やすのは良いですが、制御もしっかり学んでくださいね?先程のように無意識で威圧されては困りますので」
「ああ、分かってる」
考えがばれたんかな…
……?
「…なんだ?急に目眩が…」
「おそらく急に魔力を放出したから魔力酔いしたのだと思われます。初めて感じたレベルなのに急に魔力を放出したのでしょうがないですよ」
「…チッ、制御以前に魔力に慣れなきゃならねえってか?長い道のりだなおい」
「今はごゆっくりお休みください」
「ああ」
窓際のベッドに倒れこむように体を預ける
……やべえ、超柔けえ…この……ベッ………ド