10話
お久しぶりです、ホント、申し訳ないです
「にしても勇者ってのは災難な存在だよな」
とりあえず座りなおして一息ついたらガイアがそう言ってくる
「災難?」
いきなり何を言うのかと顔をしかめる。この国に来てから初の感想だ
皆口を開けば勇者様は偉大だの素晴らしいだの、英雄にしてみれば別段自分を奮い立たせる材料にしかならねえから良いかもだが普通過去の勇者と比べられるってのはプレッシャー……は別に俺も感じねーが良い気分にはならない
「だってそうだろ、元の世界にも生活がある人間をいきなり全く違う世界に呼び出して俺たちの為に働いてくれってんだろ?俺だったら絶対嫌だね」
「あんたが勇者とかは絶対無いから安心していいと思うけどねん」
「そこは置いとけよリズ……」
へえ、ただの馬鹿かと思ってたんだが…
思ったよりちゃんと立場を変えた考えを考えてるから驚きだ。少なくともそんな異世界人の立場の感想を言う人間はいなかったな
「確かにその通りだよな、なんで呼び出されなきゃいけないのか……それこそ魔王がいて倒してくれってみたいな創作の世界よろしく切羽詰まってんならまだ理解できなくもないけどこの世界じゃ魔王が国のトップだしな」
「あら、あなた達の世界でもそういうモノがあるのね。この世界の創作物もいわゆる魔王討伐系は人気だしその点は会話が弾みそうね」
どうもこの世界じゃ作中の魔王と現実の魔王をしっかり区別してるみたいだしな
過去にそういう魔王も存在してるのが分かってるのも理由かね
「ちなみに二人にとっての勇者ってどんなイメージ?」
そういうとガイアはあからさまに迷ってみせる
「ん?……んー、なんつーか、いて当たり前みたいな?いない瞬間なんてほとんど無いし」
「そうね、死ねば代わりが来る便利な兵器かしらん」
「ちょ、リズさんその良い方は…」
抗議しようとするミーナを手で制し止める
「はっきりどうも、しっかし変な存在みたいだな勇者って」
「そうね、まあ私の考えは極端だと思うけど皆心の底じゃどう考えてるかも分からないものだし。それに状況考えたらすぐ代わりが来る化物よ、数年で私たち凡人の一生かかっても越えられないレベルまで行くなんてね」
リズははっきり物言う。これは楽でいい
しかし凡人か、この学園は同世代の中の最高クラスの人間しか通えないはずだよな?
「つっても関わり持つなんて初めてだし、どうしたらいいのかなんて分かんねーしな。俺たちの親の代、先代の勇者は学園通うような年齢越えた状態で召喚されたらしいし」
「そんなもんか。ま、勇者で想像するような奴が珍しいならもう一人の方をお勧めするぞ。俺はそんなたいそうなもんじゃないし」
「んー、別にもう一人の方は良いや、あの集団の中に今更ねえ?」
「ま、席が近いのも何かの縁だろ、よろしくな勇者様」
珍しいな、英雄に興味を示さないなんて
……ま、良いか
『しかし流石じゃのうあの男は、主の元には近場のこの二人だけじゃというにあの多数に囲まれるとる』
あいつはまあ話しかけやすいだろ、俺みたいに人相が悪くないし
「でもホントに良いのか、俺はこいつの主だぞ?」
「んー? ミーナに対する差別に巻き込まれる事でも案じてくれてるのかにゃん?」
「そんなの気にする程小さくねーよ俺は」
不思議な奴らだな、こいつら
『ま、主にとってはそうかもしれんがある意味普通の感覚じゃろう。笑ってメイドと話してるのを見る限り心配する必要は無いと思うがの』
だな、神経質になりすぎたか
「んじゃ、よろしくなガイアにリズ。俺んことも力也でいーぜ」
「お、いいねえ。よろしくだ力也」
…
……
………
「よーっす」
朝から元気なガイアの挨拶に手挙げる事で返す。この学園に来て既に一週間は経ったが特に変化は無い
強いて言うなら宮殿にいた頃と違って中々魔物相手に訓練する機会が無い。現状学園に来てからはゼロだ
どうもギルドから流される依頼を受けたら危険地域にも行けるみたいだが数が少ない上にレベルが低い。そりゃ学生に向けるモノだからあまりきついのは無理だろうがそれにしても低すぎると思う
それに授業だが宮殿にいる時に姫さんから教わった事や書物で学んだ事、そういうののオンパレードだ
更に重要視されて無い通常科目にしてもレベルがかなり低い、15まで学園に通うことは義務じゃ無いからなのか知らないが元の世界で言う中学レベルの内容だ。聞いた所によると魔力の少ない奴が通う学園は別にありそこではこういった一般科目が重要視された授業が行われてるらしい。ま、簡単な事に文句は無い、楽で
「やっほー力也君、またまた寂しく二人で登校かにゃん?さっきもう一人を見たんだけど女の子数人侍らせてたよん?」
「ほっとけ、アレと俺とじゃデキが違い過ぎる」
「でも番号持ちの第二位は力也、実力は上だろ?」
「今はね……来年もその状況でいられるかどうか」
「この一週間でもう分かってはいるけど力也君、彼の評価高いわよねん。確かにまさに彼こそ召喚されし勇者様って感じだしカッコイイし決闘で勝って今は第三位らしいけど高すぎるんじゃない?」
「褒めまくりじゃねーか」
ま、貶す理由も無いもんな
「まあなんだ、元気出せよ」
「うるせえ」
憐れむような顔で言いやがるガイアに不貞腐れるような返しをする
タイミングよく担任が入ってくるのでそっちに意識を向けると未だに三人ほど侍らせる英雄が目に入る
流石だよお前は……
…
……
午後の訓練、番号持ちは免除というのを良い事に俺は皆と一緒に参加してはいない
……とかやりたいのだがミーナはそうもいかず強制参加なので俺も参加してる
聞いた話によるとデイジリーは不参加らしいが当たり前か
「よし!今日もやるぞぉぉ!!」
等とガイアはやる気満々で叫ぶ、午後の授業前恒例の光景だ
授業はなんだかんだ緩い、各々目標は違うので勝手にやる事がほとんどで教師には教えを請えば教えてくれるという程度のもの。参加はしなきゃだしサボれば教師と決闘させられてボコられるらしいので一応は真面目にやる。俺はサボっても問題ないのだがミーナはそうはいかないので
ここ一週間は徒手格闘の稽古をつけている。俺の元の世界の技術だが一応免許皆伝だし問題ない
ガイアはリズと良く決闘じみた事をしてるが2人とも流石はSクラス、結構強い
「力也様、今日もよろしくお願いいたします」
ミーナはそう言って頭を下げる。初めは俺に教わるなど恐れ多いとかなんとか言ってたが「俺に付いて来るなら弱けりゃ困る」とか言って何とか言いくるめてある
ミーナは元々暗殺部隊にいた分動きは良かったためいくつかの動きを教えていくうちにみるみる上達する
狙撃だけじゃなくて拳銃を使って近接格闘もそれなりに出来るようになりそうだ
「はいよ。それにしても平和だな」
「…? そ、そうですね。特に何もされませんし……」
初めは何の事か分からなかったようだがすぐ気が付き返答する
編入前からの不安、ミーナに対する対応だが酷いものはまだない。というか全く無い
これほどまでに何も無いとむしろ違和感を覚えるほど
皆が皆ガイアやリズみたいな考えのわけもないし……
『杞憂じゃ、流石に考えすぎじゃよ主。それに何か起これば起こった後対処すればよい』
……それもそうかな
クロの言葉に取りあえずは納得しておく
まあ事実何もされてないのに気を張り続けて一週間、流石に面倒になってきてるしな
気を取り直してミーナに向き直ると考え事をしてた俺を心配するように見つめて来ていたので軽く笑ってごまかす
「始めよっか」
「はい!」
ミーナの良い返事を聞き構えを取る
『今は技能の向上に心身をささげるのじゃな』
等と言うクロをスル―しながらミーナの拳を受け流す
…
……
「依頼、お受けになられるんですか?」
授業終了後、依頼の張り出されている掲示板の前にいる。ミーナの言葉に生返事を返しながら一通り見るがめぼしい依頼が無い。実力主義ならばもっとレベルの高い討伐依頼を入れても良いと思うのだが、そうではないらしい
「よう力也、依頼に行くのか?」
「…ガイアか、まあ良いのがあったら受けたかったけど手ごろなのが無くてな」
「手ごろねえ、お前にしてみりゃなんでも足りねえんじゃねえのか?」
「まあな」
冗談めかして言うガイアに対し即答してやると呆れたような表情になる
流石の俺でもまだA級以上と単身やり合うのは御免被りたい。まあ、準備が出来てりゃ無理じゃないかもしれないけど、せめてB級の単体相手に留めておかないとキツイ
「ま、見た所最高でD級の魔物の討伐、これに意味があるのはもっと下位のクラスや1年、あと魔物の討伐経験のない奴だろうな」
「だな、流石に俺らSクラスの人間は去年のうちに何度か行ったら終わりだったかな」
「だろうな、あのクラスにこの程度の依頼を受ける奴がいるとは思えねーし」
「へえ、分かるのか?」
試すような、そんな目線を向けられる
「大体は。そうだ、気になってたんだが…」
「リズだろう?アレもアレで苦労してんだ、放っておいてやってくれ」
「…へえ、分かるのか?」
「何度その質問をされてきたと思うよ。まあ今まで触れてこなかったし、あいつがいない所で言ってくれたし、お前はまあまあ信頼できるのかな?」
ガイアは掲示板に背中を預けながら腕を組む。無駄に絵になるが…まあ英雄の方が上だな
「さあな、信頼とかいうのは良く分からん」
「はは、そりゃあ良い、俺も同意見だ」
「なら使うなよな」
「まあ良いって事で」
「しっかし、お前らどうやって鍛えてるんだ?依頼以外じゃ長期休暇以外出れねーんだろ?あの授業もまあ先輩や教師に教えを乞うのはいいが、そんなもんか?」
「やっぱ知らねえのか。この学園はまあ色々あるが、一番のそれはあれだろ、決闘制度。お前らが入った事で俺も順位が二つ下がったしな」
「なんだそれ、まさか全校生徒が順位付けされてんのか?」
「まあな。この学園で生き残るには純粋な強さが問われるぞ、特にお前らみたいなぽっと出のチート共はな」
チートねえ、確かにこの世界の人間からしたらチートだよな
こう言う場所は英雄に辛いか?守るものが増えすぎると厄介だぞ
『個人で強かろうが戦いようはあるからのう』
…お前起きてたのか
『まあの。何人か陰で構えておる様じゃから待っておったわ』
まあ流石に奇襲で決着とかは無いだろ、多分
『断言は出来んからのう』
「ちなみに、ルールはあるのか?」
「一応な。決闘したい相手に申し込む、受けられればステージを借りて決闘、時間制限や細かいのは個人同士で決める、くらいのものだけど」
「ちなみにその申し込みを断る事は?」
「可能だよ、やりたくなきゃやらなくていい。ただ多いのは人質取ったりするクソ共でな、俺やリズも何度か絡まれてる。何かある奴ってのは狙われるぞ」
何か…ね、やっぱこいつらにも色々あんのか
「めんどくさそうだな、今俺達の様子を窺ってるのもそれか?」
「恐らくな、どうする?」
「ここに来た当初は居なかったから安心してたんだけどな、最近増えてきててウザかったんだ。潰す算段でも立ててたのか。ミーナ、何があっても俺の許可が無い限り決闘を受けるなよ?」
「了解いたしました」
「ちなみに、ガイアの時はどうやって乗り越えた?」
「勝ったり負けたりを繰り返して、強くなった。ただそれだけだ」
やるしかねえのかね、めんどくせえ
『じゃがまあ良いではないか、お主はこういうの好きじゃろうに』
ミーナがいなけりゃあな、英雄は大体自分で何とかするだろうから自分の事だけで良い
ったく良くやるぜ英雄は、俺はミーナ一人でも手に余るってのによ
『まあ暫くはメイドから目を離さん事じゃな、お主は無理でも、メイドはまだ力を示していない』
分かってる。それにミーナが正面衝突したら…どこまで勝てるだろうか
『分からん、当面は主が蹴散らせ』
分かってるよ
「…今日もどっか訓練場借りてやるか、対面強化は最優先だ」
「はい!」
「お、んじゃ俺もお邪魔しよっかな。勇者ってものをもう少し見てみたいし」
「別にいいけどそんな面白いものでもないぞ?」
「まあそこは俺が自分で決めるさ」




