8話
「はあ、ったくマジモンの化物かよ」
部屋でコーヒーを飲みながらぼやく。シャワーを浴び決闘での汗は完全に流したがなんとなく嫌な感じが残っている。負ける事は慣れるほどじゃないが経験はした、だけどあそこまでの圧倒的差を見せつけられたのも、勝てないと思わされた、その事実だけが残る
その後の英雄との勝負もそれはそれでいい内容だったがまあ、引きずるなあ
「お気に病むことでは無いことかと思われます、相手はこの国最強の魔王、歴代最強をうたわれる闇の魔王に次ぐ世界ランキング3位の娘ですよ」
「でもなあ」
部屋は二人部屋、ミーナと同室……どうも姫さんが手配してくれたらしい
「ご安心ください、力也様なら数年あれば追いつけると思いますよ」
「……あれは、そんな次元の差じゃ無かった気がするんだけどな」
対面しただけで相手の力量を完全に把握する、そんな事は流石にできないし少し拳を交えるまでは相手の力量に対して決定は下さないようにはしている……まあ明らかに下な奴は除くが
でも拳を交えた相手ならその力量は十二分に測れる自信があった
それでも、測り切れなかった。いや、底が見えなかった……
「あいつにはまだ、何かがある。俺なんかじゃそれを使うまで無いほどの何かを」
親父や他の門下生、ガキの頃相手がどれだけ強くてもその差は直感で感じていたし、力量差も何となくでなら把握していた。そんな次元の差じゃない、こんなのを感じたのは初めてだ……正直、実力じゃ勝てないって分かっても戦おうと思えた獣人のアレンとは違う
感じたのは、圧倒的恐怖
「ま、無理ゲーは英雄に任せるか」
別に俺がやらなくてもいい事だしな
「無理ゲーですか、力也様らしい表現ですね」
そう言いながら笑うミーナは城の方でそうだったように普通に俺の対面に座ってコーヒーを飲んでいる。どちらかというと今後考えなきゃいけないのはこいつの事なんだよな
「で、俺が決闘してる間はどうだった?」
予想通りの質問がやっと来たという感じか、それとも予想外だったのかは分からないがピクリと反応を見せる。分かってはいたが、いい反応では無かったんだろうな
「基本表立っての攻撃行為や嫌がらせはありませんでした。ただ通りすがりに、なんでこんな所に獣人が?というニュアンスの質問は何件かと、殺気を感じる事は数回ありましたね。流石に自分に向けられた殺気には反応せざるを得ませんし、正直疲れましたね」
………初日からくるか、まあ予想の範囲内。初日から戦闘行為に走る馬鹿がいなくて安心した
「ま、気にするなってのは難しいと思うけどお前が自分で決めた事だしな」
「はい。むしろ力也様にかかるであろう負担を見越した上で私の我儘を聞き入れていただいて、本当にありがとうございます」
昔ならここで土下座レベルの姿勢をとってたよな、テーブルに額がくっつきそうなレベルまで頭を下げてるけどまあ許容範囲
「別に、俺は慣れてるしいいよ。とりあえず明日から俺のそばを離れるなよ?あと……やりすぎかもしれないけど一応部屋に防御系の魔具でも付けるかな」
「防御系の魔具でしたらリリス様に渡されたものがありますのでそちらを利用するつもりでした。流石に予想されていたみたいです」
「そうか、助かるな……となると問題は外でのお前の行動か。まあ俺に仕えていてくれれば良いし、担任にそこんとこ説明して席も近くしてもらえれば良いんだが、問題は下位クラスの人間だな……」
自分より上のクラスに獣人、人間至上主義なら許せないか…また厄介な状況になる
ありがたいのはこの学園は実力があれば手出しはされにくい……まあ感情的には納得できなくても表立ってのやっかみは少ないはず。俺が学園の第二位の時点でそう大きな問題は少なくなるはずだ
「後は、何かあったらちゃんと知らせろ。何も言わず呼び出しに応じたりするなよ?その後の方が厄介だし、お前一人で解決できることの方が多いのは認めるが出来なかった時のことを考えて報告は必ずな」
「肝に銘じておきます」
出来る事は多くない、今は考えられる事態を予測して対処法を考える事くらいしかできないしあ
「ならいい。明日から授業らしいし今日はもう休もうか」
「はい、寝所の準備は済んでおります。今日の疲れをしっかりお取りになられてください」
「ありがと、おやすみ」
この部屋は個室が二部屋にリビングにキッチン、学生の寮としてはかなり好条件の部屋だ
自室に入り魔具を起動する。外と内とを隔離し、魔力の探知を遮断する結界。この結界があれば外に攻撃魔法をぶっ放して結界を破壊しない限り中で何をしようが外から中で行われてることを探知は出来ない。高かったが必要経費だと思って買った
クロはとっくに寝ているようで反応は無い、自由な奴だ。この魔具は俺の送る魔力が途切れたら勝手に切れる。毎晩魔力切れで寝落ちして魔力を増やしてる俺としては周りに迷惑をかけず訓練と魔力の増強が出来るのは非常に助かる
そういえば、ミーナに驚かれたのは魔力の回復力だったな……俺はどうも一晩寝たら魔力なんて全快まで回復する。英雄も同じだと言ってたけど、こっちの世界の人間の常識から考えたらありえない速度らしい。少なくとも、含有魔力の点数が100点の人間はゼロから完全に回復するのに丸2日はかかるそうで、さらにそこからは魔力量と質に左右されるらしい。量が多けりゃ回復に時間がかかるけど、質が高いと体の方が魔力を優先的に作り出そうとして働くために早くなるとかならないとか……どちらにしろ異世界人(俺等)は異常なようだ
「今日も今日とてトレーニングっと、「魔刀創造」」
イメージは魔力無効化、一般的にはマジックキャンセルとか呼ばれてるらしいもの。元の世界の漫画では良くあったものだし行けると思っていたんだが、こっちの世界の魔法について良く知らないせいで中々苦戦している。後単純に魔力が足りない
陽炎を造るのなら魔力は俺の持つ全体の半分程度、まあ消費魔力を増やせば一回で消せる量が増えるんだけど身体強化に回せる分が減るから場合によって使い分ける必要があるな
だけど今目指すのは完璧な魔法無効化の付いた刀、現状の魔力全てですら足りない程の量を要求されている。熟達すりゃ必要魔力量は減るらしいがそこまでじゃないからいつも足りなくて魔力欠乏症になってぶっ倒れる。つまり寝るのに適しすぎて毎晩寝る前はこれをやってるんだが、一向に創造が成功する事は無い
流石に難しいな
意識を集中させて刀を創造、柄から始まり刀身が伸びはじめ……真ん中に差し掛かるあたりで意識が朦朧としだし、真ん中を越えたあたりで完全に失う
今日もまだ足りないか、そんな事を最後に思いながら
…
……
………
「行くぞー」
「は、はい……す、すみません、お待たせしてしまって」
「家事全部任せてるし、しょうがないんじゃないよ。ま、今日から学校だ……気張っていくぞ」
「はい!」




