37話
「ふう、お疲れさん」
「割と強かったが、あの虎と比べると大したことなかったな」
「あいつは別格だ、比べてやるな。それもアラルコスによって既に無力化されているがな。やはり裏のランキングに乗っているのと乗っていないのとでは全然違うわね」
……ああ、化け物みたいな強さだと思ったが裏ランキングに乗ってんのかい、流石魔王の夫と言うべきか
『あ、ありえんじゃろ……我らがあんな苦戦した奴を、赤子の手をひねるように…』
やってらんねえよなあ、どこまで上を目指せばいいのか
「力也もなかなか強くなっていたな、こいつらも結構な手練れ達だったが完全に無力化できている」
「うまく急所を外されたり思ってたよりタフで結構苦戦したがな」
模擬戦のタイマンなら問題なかっただろうが、殺し合いってのは気が疲れるな。もし全員が全員このレベルだと、英雄じゃまだ辛いか?まぁこいつらは敵の中でも強い方の集団だとは思うが…
「それにしてもリリス様が遠距離攻撃をするなんて思いませんでした」
「マールの魔具のおかげだな、あれがなきゃ我に遠距離は無い。大技の余波で吹き飛ばす程度は出来るがの」
「その魔具作るの大変なんだから大事にしてよ?姉様は戦闘になるとどうも配慮を忘れるから……」
「ああ、分かっている。さて、こいつらはさっさと兵に任せてもう一人の勇者の元に行こう、今倒した奴等の連携はどうも軍のそれに限りなく近いレベルだ。新入りの兵じゃ対応できんぞ」
「流石に大丈夫だと思いたいがな。急ごうか」
「ちょっと待って、これを着けなさい」
イヤホンか?
「なんだこれは」
「一応作っておいた小型の通信機よ。もう一つあるけど、これはあなたのメイドに渡しておくことね。あの娘の戦闘スタイルだと距離があることが多いでしょうし」
「なるほど、助かる。だがミーナはあの屋上にいるんだが?」
そう思って上を見上げる
「ん?見えないな」
「もう終わってるんだから降りてくるでしょ、何を言ってるの」
確かに、いわれりゃあたりまえだな
『どうしたのじゃ主、今日は調子でも悪いのかの?』
いや、そんなことはないと思うが……
「よし、マールは早く城に返すとして、ミーナにカリンと合流したら上に行こう」
「りょーかい、まあ動きは見られないし大丈夫だとは思うがな」
『にしては、変に焦っておるな』
なんか胸騒ぎがするんだよなあ、気のせいであってほしいが
『主は心配性じゃが、そういうのはよく当たるからのう……』
「お!ね!え!さ!まぁぁぁああああああ!!!!!」
「うるさいのが来たか……ようミーナ、お疲れさん」
「お、お待たせいたしました…申し訳ありません、あの男に対して何もできませんでした」
「いや、あれはしょうがねえよ、これからだ。あとこれ着けとけ、通信機らしい」
「は、はい」
「そろったな、そろそろ離れろカリン!!!……よし、とりあえず上の階の様子を見てから他への応援に行こう」
「了解です」「はい!!!」
しかし、中にミーナを連れていくべきかどうか
『上に置いておくよりはいいのかもしれんぞ?拳銃も使えることじゃし』
まあそうか。じゃ、索敵に重点おいて急ごう
『了解じゃ』
side out
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side デイジリー
……反乱を起こすくらいだから私たちに対してそれなりに策があるのかと思っていたのに、拍子抜けね
「デイジリー様、この拠点は制圧完了です」
報告をしてくるのは今回の制圧に出された大聖堂お抱えの女性
私の方が10は年下だと思うけど、普通に敬語で話されてもね……
「そう、次はどこ?」
お母さんは今回の件に直接関与する気がないみたいで、お父さんと私がメイン。それと一部の大聖堂組と呼ばれる、まあお母さんお抱えの軍みたいな人たちね
「それにしても、軍は何をやってるのかしら」
「しょうがありませんよ、一部の例外を除いて学園の上位陣やドゥーカの人間は私たち大聖堂組に入るせいで、軍と大聖堂の戦力差が広がってきているのは問題にもなってるんですから。あちらはあちらで、人手不足に悩まされていますしね」
「ま、勇者による栄華が霞んできていたしね。代変わりの時はいつもこんなものらしいけど、酷いものね」
「ですね…今報告が。拠点の一つにて、アラルコス様が今回の中心人物と思しき、主殺しのアレンを仕留めたそうです。流石ですね」
…お父さんは何考えてるかわからないからなあ、私たち家族の事は一番に考えてくれてるみたいだけど
「あたりまえよ。で、次はどこなの?」
「そうですね、一番近いファール家の屋敷がよろしいかと」
「わかったわ、すぐ向かいましょう……身体強化」
それにしても、獣人の数が想定の半分にも満たない?局所的にはかなりの数が確認されてるけど、獣人の目的が国の制度の転覆なら少なすぎる…
「確か、ファールの屋敷はあっちの方よね?」
「はい、跳びますか」
「もちろん、ついてこれるわよね?」
「私だけなら」
「他のものは他の屋敷に向かわせなさい、先に行くわ」
「分かりました、無理はなさらず」
ぐっとしゃがみ、反動をつけ
「じゃ、後で」
足元に魔法陣を展開し、それを足場に跳ぶ
「…あの屋敷ね」
あと一回で十分ね
風を切る感覚が少しゆるくなったところで前方に魔法陣を展開、着地してすぐに跳ぶ
「魔力的に、屋敷の全体にばらばらに散らばっているけど……ま、いっか」
着地の体制を整えながら詠唱を開始、狙いは一際大きな魔力を持つ奴のいる一階の中央
「……これで届くかな、「フォール・シャイニング」」
着地寸前の屋敷の屋根の上で魔法を発動、灼熱の光で屋敷ごと貫く
「っととと、危ない危ない」
勢いを殺しきれずに穴に落ちるとこだった
「……やりすぎたかしら」
屋根から自分のあけた穴を覗くとどうも一階の狙い以上に深くえぐってしまっているみたいだ
「ま、それはそれでいいわね」
「良くねえよ、このガキが」
「あら、左腕が無いみたいだけど、どうかしたの?」
「調子に乗るなよ、不意打ちくらいで…………え?」
怒鳴ろうとするライオンの獣人の目の前に移動すると、完全に見失っていたかのように驚く
「ごめんなさいね、今度は不意打ちはやめるわ。殴るわね」
この程度で、何ができると思ったのかしらね
ドガッと顎を殴り飛ばす
「…意識は刈り取ったし、結構な高さのここから落ちたら身体強化無しの彼は死ぬわよね」
それにしても、彼じゃ殺したところで価値は無い
「……デイジリー・シャイニーラか」
あら、思ってたより早く集まってきたわね
「歓迎どうも。ところで聞きたいのだけれど、あなた達みたいな大聖堂には入れなかったような者達ではなく、当主クラスの者たちはどこにいるの?」
「んなこと、素直に教えると思うか?」
まあ、そんなわけないわよね。それに死んでも口は割らないでしょうね
「なら、死んでもらおうかしら」
面倒なことは、お母さんに任せればいいか
side out
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「力也!!」
「おう、問題なさそうだな」
屋敷の最上階、そこでは獣人の全てを縛り上げ終わった英雄と、そのハーレムや兵士達がいた
「もちろんだぜ!て言っても俺はそこまで働けなかったんだがなあ」
「そんなもんだ、まあいきなりの殺し合いの場でよく無傷だったな」
「まあ、結構助けてもらったからね。そのせいで兵士の人に怪我させちゃったし」
……こいつはこいつで自分の実力の足らなさを痛感したみたいだな
「……屋敷の中はもう兵士だけでしたね」
「そうだな、今姫さん達が他の兵士から情報をまとめてるし詳しくはすぐわかるだろうが、まあここは終わったんだろ」
「そうですね」
ホッとしたように二丁の拳銃を持つ手を下げるミーナ
『このメイドもかなり気を張っておったのう』
だな、休ませねえとな
「力也、ここはもう敵はここで縛られているものだけらしいし、問題は無さそうだな」
「お、そうか。良かった良かった」
「どうも厄介だったのは下の集団でしたね、こちらはでかい奴はいなかったようで」
「あれもアラルコスさんが対処してくれたからな、俺らもまだまだだな」
「……ですね」
なんか英雄ハーレムが英雄はこうだったどうだったって言い始めたけど無視していいよな?疲れるもん
「ちょっと、聞いてるの?おまけさん」
……おまけ扱い、まぁそんなもんか
「英雄がすげーのは知ってるよ、わざわざ言われるまでもない」
「そっ、そう…」
しかし、死体が一つもないが……
『死者を出さずにこの人数を抑えられるかの?兵士の方は結構消耗しているようじゃが』
可能性的には、すでに外に出したか、英雄が関係しているか……
『出す理由は無いよのう』
だな、まあ飛び散っている血の量からみてもおとなしい戦闘だったとは思うが
『まさか一人も殺してないとは、おそれいるのじゃ………主!!』
な!!?
縛られていた獣人の侍女がナイフを片手に突撃してきやがった!?
「くそがっ!」
瞬時に足に身体強化をかけ狙われた英雄を後方に投げ飛ばしながらその隣にいたサーニャと突っ込んでくる侍女の間に割り込む
『主、ナイフじゃ!』
サンキュー、クロ!このナイフで侍女のナイフを受ければ……
「「バーニング・スラッシュ」!!!!」
な!?
『主ィ!!!』
瞬間炎を纏ったナイフ対応できずもろに食らい、右の肩に高熱を感じる
「くっ……そがぁぁあ!!!」
足に回す魔力を跳ね上げ接近を許した侍女を蹴り飛ばす!!
「かはっ、流石勇者……不意を突かれた上に片腕を切り落とされながらその反応」
言われて気が付く自分の状況
「ちっ、完全に焼き切られたんかよ」
「力也!?」「力也様ぁあ!!!!!」
姫さんとミーナか、心配かけちまうな……まあ焼き切られたせいで血が出てないのは不幸中の幸いか?
『そんなことを考えてる場合か!?』
うるせえ、まずはあの女だ…
「何を……」
痛む右肩を左手で抑えつつ、魔力を回して血の流出を抑えながら侍女を睨む
「少々状況が変わりましたが……起動、「テレポート」!!!」
侍女が壁に手を付け魔力を流し込むと魔法陣が発動する
「テレポートだと?とめっ」
「力也様!医療班です、下がってください!」
ミーナが俺の肩に手をかけ、前に出ようとする俺を止めた瞬間
目の前が真っ白に染まる
『まさか……』
「くそ、やられた…」
光が晴れた時には
……誰も残っていないよな、畜生め
『…完全にしてやられたのじゃ』
ん?いや、何かある?
「……?なんだあれは」
「まさか、ばく、だん……?」
ミーナの漏らした言葉で我に返る
クロ!
『なんじゃ!?』
箱だ、強力な箱、あれを覆って完全に抑え込むレベルの、造れるか!?
『主次第じゃ!!!我も全力でフォローするのじゃ、造れ!!!』
身体を支えるのをミーナに任せて先ほどまで獣人たちの縛られていた場所に変わりのように置かれていた機械に左手を向ける
思い出せ、爆発の危険は爆発の熱と爆風による殺傷……防ぐには鋼鉄で足りるか?
「頼む、成功してくれよ?…「鋼鉄創造」!!」
「全員外に逃げろ!!!」