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6月のサンタ

作者: くもり

サンタクロースなんて信じてない。

私はずっと前から。それこそ、字もかけない幼稚園のころから信じてない。

そんなもの、来たこともなかったし、

くるような家じゃなかったから。


私の家は両親が医者で、私は「将来のことを考えて」といわれてずっと勉強をさせられてきた。

はっきりいってうちは厳しすぎた。異常なまでに。

友達の家に泊まることも許されなかったし、

はやりのゲームやおもちゃを買ってもらうことも許されなかった。

窮屈な家より、私にとって学校が安楽の場だ。

だけど。私は友達から何か貰ったり借りたりすることも禁止されていた。

誕生日プレゼントさえもだ。

友達は私の家の厳しさを理解していてくれたから、こっそり何かを贈るようなこともしなかった。

それは私にとっても、無駄に怒られることもなくてありがたいことには違いなかった。

でも、それはさびしいことで。

だから、どこも窮屈なのには変わりはなかった。



「おはよう優!今日も雨降ってて嫌になっちゃうねー」

「おはよう春。ほんと、嫌になっちゃうよねー。もー制服びしょびしょ」

私の友達の春が話しかけてきた。


今日は雨だ。

6月の、梅雨の時期らしい長雨になっている。


春のショートボブはしんなりとしていつもよりおとなしく収まっていた。

私の髪は春のとは対照的に、広がってまとまりがなかった。

「ねぇ、優。転校生の話きいた?」

春が私の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

転校生が来たということは知っていたがそれ以外の情報は入っていない。

男だといううわさは耳にした。

首をよこに振って答えを待つと、春は楽しそうに言った。

「転校生の男子、名前が祐っていうんだって!上崎 祐!」

「祐?何、私と一緒なの?」

そうそう、と首を縦に大きく振って春は答えた。

私の名前は神村 優。優と祐なんて偶然。よくあることだ。

「なかなかイケる顔らしいよ?どう?優。みてみない?」

同じ名前の転校生。

興味がないわけじゃない。

「うん。行く!」





転校生がきたクラスに行ってみると、そこに彼はいなかった。

クラスの人の話だと、毎日のように彼を見に来るこの学校の生徒からいつも逃げ回っているという。

「そりゃー、こんだけ注目あびてると嫌になるかもねー。ちょっとかわいそうかも」

春と二人でそんなことを言っていたら、ちょうど通りかかったそのクラスの担任に、「お前らもその一人だろ」とつっこまれてしまった。

それもそうだ。


見つからないのでは仕方がないから、とりあえず戻ることにした。

次は移動教室で、別の棟で美術の授業だった。

「あ、ごめん。私スケッチブック忘れてきちゃった!先に行っててくれる?」

渡り廊下の途中で私は忘れものに気づいて、春にそう告げた。

「うん、わかった!じゃ、早く戻ってこいよっ」

春が小さくウィンクして私を見送ってくれた。


私は授業が始まる間際の廊下を走る。

教室へ駆け込んで、スケッチブックを手に取ったちょうどそのとき、始業のベルがなってしまった。

「あーあ」

私は軽くため息をついて、ゆっくりと廊下を歩き始めた。

美術室までは遠い。

どうせ遅刻してしまったのだから、もう急ぐ必要もないだろう。

窓にあたってはじける雨音が廊下に響いている。

2階から1階へおりようと、踊り場に差し掛かったときだ。


下から、真っ赤なリボンを纏わった男子生徒が駆け上がってきた。

一瞬私の心臓は高鳴った。

ずいぶんと走ったのか、服装は乱れて、疲れきった顔をしている。

リボンは被服準備室のものだと思われる。

あそこには学芸会用のリボンが山になって放置されているからだ。

そのリボンが全身に纏わりついて、まるでサンタの服をきているようだった。

どういう経緯でそうなったのかは知らないが。


「・・・大丈夫・・?あなた」

リボンの男子は私に気づいて足を止めた。

茶色っぽい髪とリボンの間から大きな目がこちらを見た。

「あ、あぁ・・・大丈夫・・・」

「もしかして、あなたが転校生?」

私がそういうと、彼はゲッという顔をして、目をそらした。

「・・・そうだけど・・・」

小さくそうつぶやくと、今度はこっちを睨んで声を荒げた。

「いっとくけど!俺はみせものじゃないからな!もう追っかけんのはやめてくれよ!」

彼は頭に絡みついたままのリボンを右手で取り払って、口をへの字に曲げた。

春の言ったとおり、皆が好みそうな顔立ちだった。

ずいぶんと追いかけられたらしく、額には汗が浮かんでいる。

「別に。追いかけてきたわけじゃないよ。忘れ物取りに来ただけ。それに、もう授業始まってるから誰も来ないって」

彼は「まじ!?」と叫ぶと、しばらく黙り込んで、ついにはその場に座り込んでしまった。

「うわー・・・気づかなかった。やっべぇ・・・」

「とりあえずそのリボン置いてきたら?手伝うよ」

顔がよかったからとかそういう理由じゃなくて、あんまりリボンにまみれた格好がおかしかったから。

私は彼の作業を手伝うことにした。

雨の音はさっきより激しくなっていた。


私が一通りリボンを取り払って、まとめて縛っていると、彼は拍子抜けたような顔をして

「ありがとう」といった。

そして、爽やかな笑顔を見せて言う。

「助かったよ。お前、いいやつだな」

「当然」

ちょっといたずらっぽくそう言ってやると、彼は高らかに笑った。

「うん、そうだな。名前、なんていうんだ?」

「優」

「ゆう?」

「そう。優しいって書いて優」

彼は少し驚いてから俺も、と自分を指差した。

「俺も、祐っていうんだ。カタカナのネに右っていう漢字で、祐!」

それから、奇遇だなともう一度笑って、ふと、まだ縛っていないリボンを一本手に取った。

雨の音がさっきより強くなる。


「同じ名前つながりなのと、」

祐が私の右手をとって、小指に器用にリボンを結んだ。

「手伝ってくれたお礼」

リボンでちょうちょ結びに結ばれた小指を私のもとへと返す。

小指に小さく結ばれたリボンはわずかに濡れていた。


「じゃぁな。俺、もう行くわ」

「え、うん」

祐は立ち上がって、残りのリボンを鷲掴みにすると、階段を上っていってしまった。

見えなくなりかかるところで、一度振り返って。

「ありがとな!優」

そして見えなくなった。


いつの間にか雨はやんでいて、静寂の中に私はいた。

濡れたリボンは冷たくて、そしてほのかに温かかった。

それは、私が初めて貰った贈り物で。


真っ赤なリボンをまとった、季節はずれのサンタクロースが、

私にくれた贈り物だ。







お疲れ様でしたv

季節はずれのサンタの設定で一度何か書いてみたかったのでこうして書くことができて嬉しいです。

まだまだうまく表現できていませんが、これからもっと精進していくつもりです。

ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 サンタの設定を生かしたほのぼのとしたお話がじんわりきました。リボンだらけは少し不自然で、主人公の設定も年齢を考慮したらそれほど厳しくはないのでは、等細かなところで…
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