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4.謎の娘

 先ほど公園から見えていた真っ黒なマンション、カンオケマンション。

 その四階にある四十番室に着いた俺は鍵を出して鉄製の黒いドアを開ける。机やらソファーやらが目に入るが、それ以上に目立っているのは漫画の山。相も変わらず、漫画ばっかの部屋である。この部屋を借りてる俺のせいだが。

 とりあえず、気絶しているこの銀髪少女を唯一広々としているソファーに寝かす。これで俺の任務は完了な訳だが、コイツが目を覚ますまで何をしとけばいいのやら。


 まあ、まずはタンスに入ってる服でも出しておこう。あの華奢さなら、俺が十三の時ぐらいの服でいいぐらいだろう。残して置いとくもんである。

 次に冷蔵庫を開けて食い物確認。昨日ドーナツ屋で買ったドーナツが袋に三つほどある。これでもあげておけばいいか。


 ……やること、もう無くなっちまった。


 壁を背もたれに座る。ドアの反対側にあるベランダの風景を見たあと、なんとなく眠っている銀髪少女の横顔を見た。整った顔だ、まるで人形かアンドロイドみたいに綺麗な顔をしている。


『その爆発した研究所からね、何かが逃げ出していたのを目撃したんだって。暴走ロボットかな、実は美少女アンドロイドだったりして!』


 菜切の言っていた発言を思い出す。……いや、まさかな。あの風を防いだ防御力も確かにアンドロイドじみていたが、無いだろそんな偶然。

 第一、魔法を使うロボットだなんて俺は知らない。防衛型のロボットは存在しているが、良くてミサイル装備型のロボットがいるぐらいだ。魔力内蔵型ロボットなんて聞いたこともない。それに魔力って言うのは生命体にのみに与えられる、不思議で驚異的な力の一つ、能力同様、天性の力だ。


 それを持った者が魔法を覚え、操る。現にこの鏡鳥町にもそんな魔法使いや魔女がうろついている。だからきっと、コイツは耐久力のある魔法使いに違いない。特にそれも珍しい話ではないし。


「……ここ、は……?」


 結論が出たと思ったら、銀髪少女が上体を起こし、辺りを見回す。どうやら起きたみたいだ。


「起きたみたいだな。びっくりさせるぜ、あの場にいたのが俺じゃなかったらどうなってたかわからなかったぞ」

「…………だれ?」


 首を傾げて、呟くように聞いて来る銀髪少女。そういえば、まだ名乗ってなかったな。


「俺の名前は牢島弥京、鏡鳥高校の二年生。喋ってたら倒れたアンタを家まで運んできた。お前、ボロボロだったからな」

「……それは、どうもありがとう」


 ぺこりと頭を下げてお礼を言われた。案外素直だ、なんか言われることぐらいは予想してたんだけどな。


「いや、気にすんな。ああ、あとそこに着替え置いといたから風呂にでも入って使ってくれ。心配しなくても今は使ってない服でちゃんと洗ってある。俺はもう着れないからもらっていいぞ」


 まさにいたせり尽くせり。俺って案外いい奴なのかもしれない。


「……親切だね、あなた」

「俺も自分でそう思ったよ。日本のニュースに感謝するんだな」


 俺の発言を聞いて、眠たげな目で怪訝な表情を見せる銀髪少女。やっぱりコイツも見てないのか。……実のとこ、俺も毎日見ている訳じゃないんだが、自分が見たときに限って見てない奴にやきもきしてしまう。我ながら傲慢っつうか、わがままというか。


「玄関の隣にあるドアがあるだろ? そこに風呂あるから、使っていいぞ」

「……うん、ありがとう」


 小さく声を発する銀髪少女。そんで、この場で服を――


「ってちょいと待て。なんでここで脱ごうとしてるんだお前」

「……あっ」

「あっ、じゃないっての! 俺に見せ付ける気か!」

「……それは、恥ずかしい」

「だったら風呂場で脱げっての!」


 俺がそう指示すると腹部まで脱ぎかけていた手を下ろし、着替えを持って風呂場へ向かった。あいつまだ寝ぼけてるんじゃないのか? くそっ、アイツにはドギマギさせられっぱなしだ。胸も意外にあるし……。って、だからそうじゃないだろ俺。これじゃあ鳥彦と何ら変わらないぞ。

 とりあえず落ち着け。落ち着いてテレビでも見て、気分を鎮めよう。


 俺は床に置いてあったテレビのリモコンを取り、電源を入れる。映った画面にはニュースが出ていた。日本ではなく、月裏のニュースのようだ。たまには見るか。


『次に、昨夜鏡鳥町近辺で起こりました研究所爆発についてですが、新しい情報が入りました』


 ちょうど良いタイミングで気になっていたニュースのようだ。新情報か。


『研究所付近に住んでいた方から逃げたと思わしき存在にあったということで特徴を聞いたところ、銀色の髪の女性と思わしい人物が研究所付近から飛び出してきたとの目撃情報が入りました』


 ……銀髪。


『その他にも、蒼色の瞳で小柄な体格だったと目撃者は証言しておりました。もし特徴に当てはまりそうな人物がおりましたら、落ち着いて冷静に、戦闘を仕掛けないように行動することをおすすめします。人違いで攻撃するのは大変危険なので、お気をつけください。また、研究所の家主であったドクターRさんも現在消息不明であり――』


 そこまで聞いて、俺はテレビのチャンネルを変えた。日本のロボットアニメーションがやっていた。ちょうど、ロボットがガシンガシンと変形しているシーンだ。……まさか、なぁ。銀髪なんてそこらへんに結構いるし。蒼色の瞳だっていないわけでもない、小柄で銀髪で蒼い目をした人間なんて、そこらに……。


 思考がつまりそうになったそんな時、家の電話がかん高く鳴り響く。携帯電話も所持してない俺からすれば唯一の通信器具だが、誰にも教えてないので鳴るはずがない。……ただし、一人以外。

 嫌な予感を脳裏に掠めつつ、ゆっくりと受話器を取った。


「……はい、牢島です」

『相変わらず気の抜けた声をしてるわね、牢島』


 声だけで威圧感たっぷりな女性の声が聞こえてくる。想像通り、昨夜俺に賞金首のことを教えておきながら自分で手柄をかっさらうという真似をしてくれた檻式おりしき 優音ゆうねさん。その人だった。


「どうかしましたか。心配しなくても、無駄な殺生なんてしてませんよ」

『してもいいのよ。殺すだけだから』


 えぐい。知人相手に殺すだの発するこの人はまるで悪魔だ。


「それで、何の用ですか」

『そうね、用件って程でもないけど』

「……なんですか?」

『公園で熊男を鎮圧させた銀髪の女の子を、アンタ家に連れ込んだわね』

「……ええ、それが何か」

『誘拐容疑でアンタを今から殺しに来るわ』

「いっ!?」


 マジかよ。助けただけなのに誘拐容疑で殺しに来るだなんて、最悪すぎる。

 そう、優音さんは警察と呼ばれる治安維持組織の人間だ。そして《警者》と呼ばれる、極悪人や狂人を裁く警察の中でも荒事潰しのエキスパート。危険と判断されたものを即潰しにかかってくる、悪人の天敵。


 月裏には強い力を持った者が多い。故に当たり前のようにそれを誇示するものが多く現れる。それによって無駄に殺しを行う連中を、止めるのではなく殺すのが《警者》と呼ばれる腕利き。悪意を殺すことを国から許されている猟犬とも言うべき連中。……まあ、一応投降しろと言ってくれるのだがそれで止まる奴なんてあまりいないから、ほとんど殺されてしまっているわけだが。

 優音さんも例にもれず、超人の部類。勝てる奴も何人いるのかわからんぐらいだ。


「ちょっと待ってくださいって! 俺はその銀髪少女が倒れたから助けただけであって……!」

『冗談よ』

「へっ?」

『冗談って言ったのよ。悪質だと認識していたら有無を言わず突入して、即座に撃ち殺してるわ』


 物騒すぎる。ただで胸を撫で下ろせないようなことをどうしてこの人は付け加えて言ってくれるのか。


『で、その銀髪の女の子のことだけど』

「もしかして、危険人物ですかアイツ」

『それなら電話せずにアンタと言う危険人物と一緒に滅ぼしてるわ』


 この人本当怖いんですけど。マジでやりかねないのが嫌なんだけど。


「じゃあなんで連絡したんですか?」

『恐らく、いえ、ほぼ確定して言えるけど、昨日のニュースで出ていた研究所破壊した人物って言うのがその銀髪の女の子よ』


 ……予感的中か。いや、あそこまで偶然重なるとむしろ必然でしかないってことでもあるか。


「ってことは、捕まえにくるんですか?」

『被害者が被害届を出さないから捕まえる気はないわ。月裏の人間は悪巧みする連中ばかりだからね、警察を利用しないのなんて当然ね』

「そんなもんすか」


 警察は月裏の人にとっては目の上のたんこぶ。まさしく、力を誇示できないようにするための抑止力に等しい。利用しようとすればそのツケが自分に向かって来るということも知っている奴は知っている。警察はどこまでも悪意の敵だ。

 まっ、とはいえ、一般人に迷惑をかけなきゃ自由に暴れて死ねって言うのも暗黙の了解で通ってるから殺し合いできないわけでもないし、何もかもぶっ壊したいって奴以外にはそんなに邪魔でもないんだけどな。


『それよりも、気をつけるのよ』

「何にですか?」

『その子に研究所を破壊されたドクターリバースによ』

「ドクターリバース?」


 変わった名前だな。ネーミング的には医者っぽいが、研究所の家主ってことは発明家なのだろう。


『現在は消息不明、けれどその銀髪の女の子に何らかのアプローチを行ってくると考えていいわ。だから、もし襲われたら連絡しなさい』

「優音さん……」


 もしかして、この人なりに心配してくれているのだろうか。なんだ、案外いい人じゃないか。見直したよ俺は。


「心配ありがとうです、けどそんなのが来たとこで俺はまけねぇですよ。」

『なんか勘違いしてるわね。アンタもろともその博士を殺すから私に連絡を忘れないよう気をつけなさいって言ってるのよ。超人と狂人の迷惑な殺し合いを潰したって報告するから、私のことは心配しなくても問題ないわ』


 ……見直す必要はゼロだった。いつも通り、俺ごと相手を殲滅することしか考えてなかった。正義ってなんだ。


「……まあ、視野には入れときます」

『牢島にしてはいい返事ね、期待してるわよ。それじゃあ』


 優音さんはそう言い切って、受話器から通話終了音が鳴る。知人殺しを期待って一体。誰だあの人を警察に引き込んだ大馬鹿野郎は。

 喋っただけでどっと疲れた。水でも飲んで落ち着くか。


 冷蔵庫を開けたと同時、風呂場のドアが開く。さっぱりした、と言わんばかりの表情――かどうかはわからないが、銀髪少女が湯気を出しながら出てきた。

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