23.戻ってきた新しい日常
――あの戦いから一週間後、俺の生活は変わりなかった――と思いきや、色々と変わった。
(いや、何がどうなってこうなったのかはわからないが、これはまずいだろ……!)
朝起きてみれば、どうにも左腕に何かがしがみついてる感覚を覚えて見てみれば、そこには青いパジャマ姿のロトナがいた。
おかしい、俺は床に寝ていてロトナはベッドで眠っていたはずなのに何故。何故ロトナまで床で俺の隣で寝ているんだ。それも抱きついて。
腕を動かそうにも、がっちりとロトナがしがみついてるせいで動かせない。腕に柔らかい何かが当たってる感覚もあるし、手もロトナの太ももに挟まれて全く動かせない。
そしてロトナ本人は気持ち良さそうに静かに寝息を立てて眠っている。起きて欲しいとは思うが、起きられたら起きられたでどう弁解すればいいのかわからない。
あ、甘く見てた。確かにロトナは寝相が悪いところはあったがここまでだったとは。男女が一つ屋根の下で寝るのは良くないとか言われてる理由がなんとなくわかった気がする。コレは凄く、危険だ。様々な意味で。
どうやっても、この腕に当たる柔らかさや手を包む太ももの柔らかさには意識せざる得ない。無理に動かそうともすれば。
「……んっ……」
などとどこか艶かしい吐息を漏らしてくる。ど、どうにかなりかねない。色々と限界が近すぎる!
頭がショート寸前になる、その時であった。
じりりりりりっ!!!
けたたましいぐらいの大きな目覚まし時計のベルが、部屋中に鳴り響く。
すると、ロトナはしがみついていた手を離し、おぼついた足取りで目覚まし時計の方まで歩いていき、ポチリとボタンを押してベルを止める。
そして、ロトナはこちらを振り向く。
「……おふぁよう、やきょう」
目も開ききっていない、まだ眠たげな口調で朝の挨拶をのんきに行うロトナを見て、俺は溜め息を吐いた。
+++++
「よぉ、おはようおまけ。そしてロトナちゃん!」
「誰がおまけだ馬鹿」
登校して教室についたなり、鳥彦のいつも通りのお調子者っぷりに俺は思わず溜め息を吐く。朝から相変わらずだな。
「いやー、にしてもいいね! やっぱり美少女の制服姿は実にいい! ちょっと携帯で写真撮ってもいいかなロトナちゃん!」
「だめっ! 鳥彦くんはいやらしいから!」
「なんだ菜切、嫉妬か? 大丈夫だ、俺はお前も平等に愛すぜ」
「ううっ、面倒くさいよぉこの態度……」
菜切にも呆れるように溜め息を吐く。ロトナが来て鬱陶しさがパワーアップしてしまってるな鳥彦の奴……
「それにしても、ロトナちゃんが学校に来るなんて思わなかったよ私! 嬉しい驚きって奴だよ本当にー!」
「うん、私も、驚いた」
そう、あの戦いが終わって三日後に俺は先生からロトナを連れて来るように言われた。
最初は先生を怪しんだが、話によると校長からの伝言をそのまま話しただけらしく、どうやら何者かがロトナをこの学校に転入させるように仕組んだらしい。
先生達もそれには引っかかり覚えてくれたのか、強制はしないと言ってくれた。
けれど、ロトナは自分も行くとあっさりと決めた。罠だろうとも、菜切や鳥彦もいる学校に行けるのならば自分も行って見たいと言う相変わらず計画性のない、そんな理由で。
まあ、だからと言って俺も無理に止めることはしなかった。ロトナが決めたのならそれでいいとも思ったし、もしそれが本当に罠だとしたら、俺はそれから守りきるだけだとも考えていた。
……少し、考えすぎな気もしなくはない。でも、ロトナをアイツらから連れ出した時点でそれは決めていたこと。ロトナの記憶が戻るまでは俺が手を貸してやると。
結局、ナンバータイプについてあれからわかったことはない。アレ以降、銀髪にーさんもボディコンの女も姿は現さない。ドクターRだけは相変わらずこっちに来てロトナを捕まえようとしてくるが。にしても、回復魔法も使われなかったくせに大した生命力だよなあのドクターも。
ちなみに、俺とロトナの怪我は優音さんの知り合いの魔法使いさんが癒してくれた。その治癒力はさすが警者の知り合いと言ったとこで、驚くほどに完璧な治癒だった。ただ、優音さんによって治癒代取られた。妙に高かった。
「弥京、じゅぎょう始まるよ」
ロトナの声にハッとさせる。そうか、もう授業か。朝の休み時間はやっぱり短いな。えーっと、朝は現代文か。非常に眠たくなりそうだ。いっそ寝てしまおうか。
そう考えてると、ロトナが俺の顔を覗きこんできて、言う。
「ありがとね、弥京」
微笑みと共に投げられかけた言葉に俺は、自分なりに笑顔を作って返した。