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18.研究所探索

「この辺りだ」


 ドクターRに着いていって数十分。俺はゴミ置き場にしか見えない場所に来ていた。


「……アンタここに何しに来たんだよ」


 見渡す限り機械のゴミばかりで、足元にまでゴミ。

 雪景色ならぬゴミ景色といったとこで、鉄くずやらテレビやら、色々な使い終えたと思われる機械が山になるほど捨てられている。まさか町の外れにこんな場所まであったとは。


「くっくっく、凡百の人と言うものはどうしようもなく愚かでな、使える素材があるというのにあっさりとモノを捨てる。故にそれを再利用しているというわけだ。我がアームパーツもここにある素材から作り出したのだ」


 ドクターRは腕を組みながら不敵に笑っている。こんなゴミであんなのを作ったのか、やっぱ割と凄い奴なんだなコイツは。

 けれど、なんでロトナの奴はこんなとこにいたんだ。この付近に研究所があるとは思えないんだけどな。


 真正面の天にそびえるスクラップのゴミ山を見上げる。巨大で、何かを包み隠さんとしている大きな山。

 ……もしかして。


「……このゴミの山吹っ飛ばしたら、少しは分かることがあるかも知れないな」

「何ぃ?」


 ドクターRは驚くような声をあげる。けれど今の俺になりふり構っている暇はない。

 アイツがどうなるかもわかったもんじゃないってのに、お行儀よくしらみつぶしに探す時間なんてありゃしないのだ。それにここは生憎誰もいないゴミ捨て場。だったら、少しは散らかしたって構わないよな。


「下がってなドクター。少し派手にやる」

「おい貴様、何をする気だ」

「見てればわかるさ」


 右手を前方へ突き出す。そして、紫光を右腕に集中……!


 外部、内部神経に紫光を巡らす。紫の揺らめく光が集まって腕に纏わり始める。けれど、それじゃあまだ足りない。


 更に紫光を腕部に増幅――集中。集中。集中。


「な、何をしているんだ貴様は」


 ドクターRの驚くような声が耳に入る。でも悪いな、終わったら話すからもう少し待っといてくれよ。


 光の濃度が上がり、纏う光も更に増えていく。光のエネルギーが高まるようなバチバチとしたノイズが聞こえてくる。

 それでも、まだだ。


 拳を軽く開く。そこから、切り裂く為の爪を光で形成……!


「っ……!」


 筋肉の軋みが音となって腕から聞こえてくる。気を抜くと紫光の力そのものに腕が圧迫されて潰されそうだ。

 まあ、でもそうさせる訳にはいかない。久々に力を思いっきり奮発出来るんだぜ? それで、腕が潰されちゃ元も子も無いし格好もつかない。


 子、薬、中、一差し、親。全ての指先に爪の光を展開。――よし、準備は万端だ。


 右手を覆う、紫光で創られた腕。

 最早幽霊の手などとは言えないぐらい色濃く眩い光を見せている、毒々しくて仰々しい、まるで必殺技の寸前。


 ――や、俺からすれば必殺技そのものか。格闘ゲームで言う、超必殺技って奴だな。生憎、本物のゲームじゃ適当に連打しなきゃ出せないが。


 そんなことを考えながら、思わず口元が吊り上がってくる。何せ本当に久々なんだ、ロトナの場所に行かなきゃならないってのになんて不謹慎なんだかな。


 けれど、理屈を本能が上塗りしてくる。

 知性を暴力が上回りそうになる。ああ――やっべ、さっさと撃ち放たなきゃ、頭の中が飛んでしまいそうになるほどの興奮が脳内を駆け巡ってしまいそうだ。


「さあて、それじゃあ――蹴散らすぜ……!」


 腕を伸ばし――振りぬく腕は一気――!


「いっけやぁぁぁぁっ!」


 喉の奥底から吐き出した声と共に、振り抜く。


 振り抜き、紫光の爪が裂く。

 最初に裂いたのは、声。

 次に裂いたのは、風。

 それと同時に、揺らめく紫色の光が爪痕となって飛び放たれる。そして――


 最後に、目の前にあるゴミの山を――――蹴散らした。


「ぬぁっ!?」


 突風と共に、蹴散らしたゴミが皮膚に当たる。後方からそれにビックリしたようなドクターRの声。


 そして、風が止み始める。そこに見えた風景は――


「――ははっ、こりゃ、壮観だ」


 溜まりすぎて山と化していた大量のゴミが綺麗に消し飛び、ゴミに埋もれていた正面の道が見えるようになっていた。


 それを見ると同じぐらいに、右腕を纏っていた僅かな紫光が消えていく。ふぅ、どっと疲れたぜ。張り切りすぎたな。


「き、きっさまぁー!」

「ん?」

「そういうことをやるなら先に言えこの大ボケめがぁ!」

「だから言ったろ、下がってろって。そんなことより、コレで探しやすくなっただろ?」

「大馬鹿か貴様はぁ! 今ので我が最高傑作がいた場所が壊れてたらどうするつもりだぁ!」

「安心しろって、ゴミの山吹っ飛ばしただけだしさ。それに、地下にある可能性だって無くはないだろ?」

「……地下、だと?」

「ああ。アンタも言ってたろ、ロマンだのなんだのってさ。だったらゴミの山の下にある可能性だって無きにしもあらず、だろ?」

「――ふん、そうかもしれないがな、じゃあお前はこの一帯の機械の山を片っ端から吹っ飛ばしていく気か?」


 ドクターRは両手を広げながら言う。ドクターRの言うとおり、周りには正面のゴミの山以外にも大量のゴミの山が存在している。その量は見ただけでも十は余裕で超えている。

 今の一撃は、そう連発できるものじゃない。それこそ、力の暴走でもさせない限りは連続で出来ないだろう。出来たとしても、体力切れでぶっ倒れるか死ぬだろう。


 けれど。


「まあ、そうするしかないだろ」


 そう、やるしかないのだ。

 やらなきゃ、アイツに借りを作ったままで、約束も守れないままだ。アイツのあの言葉に対して、当たり前なんて言ってしまったからにはそれを当たり前にしてやらなきゃならない。


 それに何より、負けっぱなしじゃ終われない。

 あのいけ好かない二人に勝たなきゃ、腹の虫が治まりきれそうにもない。あんな、胸糞悪い奴らに負けたままだなんてそれこそ許されない。許してしまうわけにはいかない。


 ――もしかしたら、後者こそが俺がここまで来た本命なのかも知れないな。


 だとすると、俺は全く薄情でロクデナシだ。

 でも、何だかその方が俺らしくていいのかも知れない。誰かの為に、だなんて俺らしくなくてむず痒い。


 けれど、それじゃあ何か治まりきらない気持ちもあるのは実感出来ているもまた事実なわけで。


 ……あー、もう考えるの止め。さっさと行こう。

 気持ちを切り替え、足を動かす。さてと、早速吹っ飛ばした辺りの地下にあるか探して――


「キケンジンブツ、カクニン」


 ……なんだ、今の声は。電子音声……?

 ドクターRではないだろう、こんな声出す意味もないしそんな茶目っ気あるような人間とは思えない。


 それに、聞こえてきた方向は真正面。今しがた、俺がぶっ飛ばして見渡しがよくなった場所だ。


「……ふん、なるほど。無駄に凝った真似をするではないか」

「どういうことだ、ドクター」

「目を凝らせばすぐにわかる。貴様が散らして出来た正面をよく見てみろ」


 正面を、よく……?

 真正面を見据える。けれど、そこに見えるものは特に――いや、待て。景色が僅かに揺れてる……?


 それだけじゃない、正面方向から景色を揺らしながら何かが接近してきている。……もしかして、さっきの電子音声の奴、か。


「クリアロボット、と言ったところだろうな」

「クリアロボット……?」

「そうだ、見えない姿のロボ。貴様のような馬鹿な能力者にわからんだろうが僕にはわかる。この機械の駆動音、間違いなく目の前からロボットタイプの何かが迫ってきている。ヒッヒッヒィ、ワクワクするなぁ、何が来ているのかぁ……!」


 ドクターRはそう言いながらポケットに手を突っ込んでスパナとドライバーを取り出す。ご満悦そうで何よりだが、俺からすれば嬉しくもなんとも無い。


「そして正面にはその機能を転用したのか、はたまたロボにこそ転用したのかわからないが研究所らしきものも存在している。凡百を騙せようが機械を関連させたものならばこのドクターRの目を欺くことなど出来ん! ハッハッハッハァ!」


 右手を前に出して悪の大王のごとく高笑いするドクターR。流石は世界征服なんてものを考えてるだけあってその姿は似合っている。

 そんなことよりも、まずは目の前の見えない敵を倒すことから始めるとするか。駆動音的には、四体程度だろうか。さっぱりだ。


 どちらにせよ、ドクターRの言ってる見えない研究所もまずはこの見えないロボを叩きのめさなきゃちゃんと調べられたものでもないしな。


「……見えない程度に負けてちゃ話にならないもんな、まずは――ウォーミングアップ代わりにさっさとスクラップにして研究所内に行かせてもらうぜ……!」


 拳を握り、構える。

 そして両拳に紫光を纏わせ――一気に、駆けた。

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