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17.研究所へ

 病院から出た俺はドクターRの研究所跡地へと走って向かっていた。


 あいつらの言ってた研究所という言葉。恐らくだがそれはドクターRの研究所、ではないと思える。


 それならアイツ本人がロトナを取り戻しに来るはずもないし、最高傑作とか言って大騒ぎするとも思えない。……これは非常にシャクだが、あの銀髪の男、タイププロトは強い。

 俺がまだ未熟だったと言っても強いことには変わりない。魔法陣をあんな自在に使う魔法使いもそうはいない。あれじゃあむしろ魔法陣使いと言ってもいいぐらいだ。


 なのにロトナを最高傑作ともてはやすのは疑問が浮かぶ。まあ俺じゃあ思いつかない程の思想があるとかだったら、俺が馬鹿でしたという話なのだが。


 何にせよ、あのドクターRの研究所付近には行く意味がある。ドクターR本人がアイツらと関連があるのならば手っ取り早いし、無かったとしてもふらついていたロトナをどこで見つけたかを聞くことが出来るはずだ。

 ただ、問題は拠点とやらが既に見つかっているかだ。見つかってなければこの付近にいてもおかしくはないんだが、見つかっていたらどこにいるかさっぱりだ。あー、くそっ! 俺って考え無しにも程があるだろ。


 けど、今はそれしかやることは出来ない。優音さんの力を借りれば、ドクターRの居場所なんてあっさりと見つかるだろうがあの人は警者だ。普段権力最高とか言ってサボってるような人だが、あの人はやることさえ明確に見つかれば真面目にやる。お願いだって、面倒くさがって聞いちゃくれないだろう。

 つまりあの人はやっぱどこまでも警者で、都合の悪いことだけに目をつぶって手伝ってやるなんて優しさはないのだ。だからこそあの人は警察が解決してやるか、俺が自分で解決するかの選択をさせてくれた、きっとアレが優音さんなりの最大の譲歩だった。


 だから、甘える訳にはいかない。既に俺はロトナに救われている、これ以上弱みを見せていられない。ここからは、意地っ張りを続けて自分で解決するしかない。


 そこで、足を止める。

 さっきまでは木や草が茂っていたのに目の前のその空間だけは荒れ地で、瓦礫の山が出来ている。間違いない、ドクターRの研究所の跡地だ。


 キョロキョロと辺りを見回す。特に変わったものは見えない。

 ……やっぱり、ここにはいないんだろうか。あー、くっそ! どうすりゃいいんだ!


「ふん、気でも触れたか蛍光灯」


 頭を抱えて苛立ったその時、憎まれ口を叩く声が聞こえてくる。その方向を見てみると、荒れ地の中からドクターRが出てきていた。


「……アンタ、地底人だったのか」

「ほざけぇい! 誰が地底人だ! ここは僕の地下研究所だ!」


 地下研究所?

 よく見ると、ドクターRは蓋のようなものを持っている。その蓋の表面は荒れ地の土と全く一緒の色をしている。


「ふん、驚いたか? 我が研究所、見かけだけ存在するにあらず! むしろ地下研究所はあって当然のものだ! それがロマン! 我が偉大なる先人が残してくれたロマンなのだぁ!」


 ふははは、と空に向かって大笑いするドクターR。けれど今はそれどころじゃない。


「そんなことよりもアンタに聞きたいことがあって来たんだ」

「聞きたいことぉ? ははぁ、それは奇遇だ!」


 とうっ、という掛け声と共にドクターRは飛び上がり、荒れ地の上に立つ。そして大見得切るようにこちらを指差す。


「この僕も同様だ! 蛍光灯! 今日こそ最高傑作を返してもらうぞ!」

「そう、それだ」

「……なにぃ?」

「俺はアンタにロトナのことを聞きに来たんだ。ロトナとどこで会ったか、それを教えてもらいにな」


 俺がそう言うと、ドクターRは片目を細めてくる。さっきの反応でわかった、やっぱりアイツらの言っていた研究所とドクターRの研究所は無関係だ。てことは、別に研究所があるはず。それを見つけるには、まずはコイツからそれを聞き出してその近辺を探るしかない。


「……どうしてそんなことを聞いてくるのだ貴様は」

「……ロトナを連れて行った連中の研究所に行こうと考えてる。それだけだ」


 俺がそう返答すると、ドクターRは考えこむような顔をしたあと、こちらを真っ直ぐと見てくる。


「……ふむ、いいだろう。僕がついていってやろう」

「はっ? いや、いいって。教えるだけで」

「そうはいかんな蛍光灯め! ようするに最高傑作を奪われたということなのだろう? ならば、僕がやることはさっぱり変わらん! 最高傑作を救出するだけの話だぁ!」


 などと言って握りこぶしを作って意気込むドクターR。……内容ぼかして言った方が良かったのかもしれないな。


「無駄に関わると命に関わるかも知れないぜ、ドクター」

「ほざくがいい蛍光灯め、貴様なんぞに心配される言われも無ければ一度取り逃がした貴様一人で行かせて上手くいくとも思っていない。所持者が変わっただけで最高傑作を返してもらうのは何も変わらん」


 ……確かに、な。俺一人で上手くいくかどうかと言われると少し不安になるのもまた事実だ。


「……わかった。そこまで言うなら協力頼むぜ」

「勘違いするな、協力ではない、一時休戦という奴だ」

「はいはい、んじゃそれでいいよ。それで、ロトナをどこで見つけたんだ?」

「ふん、今案内してやる。ついてこい!」


 ドクターRはそう言って駆け出していく。……アイツには言いたいことだってある。それまで、死んだりなんかするなよロトナ……!


+++++


 それは、ふるくてなつかしいときのことのお話。


『ロトナ、お前には――今叶えたいこととかあるか?』


 がれきの上に立っているおにいちゃんは唐突に、そんなことを言い出した。


『……かなえたいこと?』

『うん、叶えたいことだ』

『わたしは……と、ともだち、つくりたい』


 そう言うと、お兄ちゃんは笑い出した。そんなに笑うことなんてないのに。


『むっー、なんで笑うの』

『だってお前らしいっていうか普通って言うか、そんな感じに思えちゃってさ』

『おにいちゃんの、ばか』


 私はプクーっと頬を膨らませる。するとおにいちゃんは手を合わせて謝ってくる。でもやっぱり笑ってくる。


『それじゃあ、お兄ちゃんはどんなことをかなえたいの?』


 どんなことを言っても笑ってやる。

 私はそんな気持ちでお兄ちゃんのことばを待った。


 そして、お兄ちゃんは言った。


『俺? 俺は勿論――――お前を、母さんを、父さんも守ってられるような奴になることに決まってるだろ』


 ……そんなお兄ちゃんの返答に対して私は笑うことも出来なかった。


 その言葉を出した時のお兄ちゃんは――すごく、格好良かったから。


+++++


「……ゆ、め」


 ロトナは小さく言葉を漏らし、目を覚ます。そして、身体を起こして周りの風景を見る。


(……こっちは、夢じゃ、なかった)


 ロトナはガックシと肩を落として憂鬱な顔をさせたあと、天井を眺める。

 銀色の箱で出来た檻。昨日、謎の二人に捕まって入れられた部屋に対してロトナはそんな印象を感じていた。


(……ここ、やっぱりイヤだな)


 そんな端的な感想を浮かべて、自分の座るベットに手を置きボーっとその部屋を眺める。


「はぁい、おはようプロトナンバーちゃん」


 そうしていると、扉からウェーブヘヤーの女性が鉄製の部屋をヒールでカツカツと響かせながら笑顔で入ってくる。

 ロトナは彼女をキッと睨む。しかしウェーブヘアーの女性はロトナの怒気など軽くいなすようにクスクスと笑う。


「あらあら、怒った顔も可愛らしいわね。おねーさん羨ましいわ」

「……弥京は、本当に大丈夫なの」


 ロトナはそんな女性の態度に不快さを感じながら質問する。


「何度も聞かなくても大丈夫よ。ちゃーんと救急車を手配しておいたわ。――まあ、もしここから逃げようとしたらあのボウヤを次は確実に殺すって言うのはちゃんとわかってるとは思うけどね」


 女性は釘を刺すかのように言い放つ。その言葉を聞いて、ロトナは睨みながら悔しげに歯を食いしばる。


「そんなことよりもそっちこそ大丈夫なのかしら?」


 女性のその問いに対し、ロトナは表情を一変させて迷いを感じさせるかのように目を伏せる。


「あらあら、やっぱりバグを消してからの方がいいのかしらね? けれど、今回で不要ってわかったらバグの消去だなんて無意味極まりないしね」

「……なんで、私を捕まえたの」


 再びロトナは女性に質問する。女性はその問いに、口元を吊り上げる。


「さあ? 私はここの主人にプロトナンバーを連れ戻せって言われただけ。そして――タイププロトとプロトナンバーで戦闘させて、プロトナンバーの性能を再度確認しろって言われただけだもの」

「……私は、ロボットじゃ、ない」

「あら、プロトナンバーって個体名が不快? ふふっ、人間らしくなってしまうとなまじ可哀想ね。でも安心しなさい、戦闘テストで勝てばその感情は消せるし負ければ死ねる。もうちょっとの辛抱よ。それじゃ、あと数十分後にテスト開始するからよろしくね~」


 ウェーブヘアーの女性はあくまでも明るく笑いながら手を振り、部屋から去っていった。


 女性が去ると、ロトナはベッドへとうつ伏せで倒れこむ。

 どうして自分は今ここにいるのか、弥京達は今何をしているのか、あの銀髪の人は本当にお兄ちゃんなのか、一体過去の自分はどんな人だったのか。そんな思いがロトナの頭の中で渦巻く。何よりも、自分の名前もこの感情も本当に偽物なのか、それを考え込んでいた。


(そんなの、イヤだな)


 弥京と出会って、菜切と出会い、鳥彦と出会った。彼女にとってそれは楽しくて嬉しかったことで、大事なことだった。


(忘れたく、ないな……)


 ギュッと、ベットのシーツを握る。

 その時の彼女は、涙を隠すように声を殺して枕をにじませていた。

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