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14.平穏とバイオレンス

「あーあ、運が悪いったらありゃしなかった……」


 二階での騒動が終わって数十分。菜切達の買い物も終わり、俺達四人は一階のファーストフード店で飯を食っていた。既にドリンクもポテトもバーガーもテーブルの上に置いてある。

 ちなみに俺はその数十分の間に優音さんからこめかみをグリグリと拳で押されるという刑に処された。めっちゃ痛かった。くっそー、いつもは警察を自分の道具みたいな言い方してるくせに馬鹿にすると怒るってのはどういうことなんだよ。


「優音さん来てるなら言ってくれたって良かったのによ……」

「愚痴るなよ弥京。俺らだってちゃんと言おうとして声かけてたんだぜ?」


 鳥彦の言葉にうんうんと頷く菜切。それなら最初から来てると言ってくれれば……言える訳ねーか。


「あーあ、にしても優音さんも一緒に飯食ってくれたら良かったのになぁ。けど、あの去る時の台詞も良かったよな! 学生の面倒を休日にまで見る気はないわ、てよ! どこかクールな感じがしたよなぁ!」

「本当に面倒なだけだったと思うぞ、あれ」


 優音さん、基本的に建前とか面倒だから言わないタイプだし。横暴だし、隙あらば殺すってタイプだし。

 頭に殺人鬼のような優音さんを思い浮かべていると、ロトナがこちらに顔を向けていた。何か疑問のありそうな顔をしている。


「……ねぇ、弥京」

「ん、なんだ?」

「魔法陣、って何……?」


 ロトナは首を傾げて聞いてくる。サラリと銀髪も揺れる。


「魔法陣か……えーっと、あのドクターが優音さんの拳銃について言ってた魔法陣だよな」

「うん。なんとなく、気になった」

「それなら――」

「おお、やっぱ知ってんのか弥京? 流石はニュースの暴力沙汰は嫌いなくせに他の暴力沙汰は大好きな男!」

「い、今それ関係ないだろ」


 鳥彦の奴、昨日の朝の話を持ち出してきやがって。嫌がらせかよ全く。


「ともかく、魔法陣についてだろ? なんていうか、俺も詳しくないから詳しくは説明できないけど魔法を使うにおいて基本的な円、らしいぜ」

「えん……?」

「ああ、基本的に魔法陣って呼ばれる円は魔力を魔法にさせるための門として使うだのなんだの聞いてる。大雑把な例だと、食材を円にぶちこむだけで魚料理や肉料理が完成するみたいな感じでな。だから多分、優音さんの拳銃にも魔法陣が施されてるんじゃないか? 空気を取り込んで、空気の弾丸を生み出す仕掛けみたいなのがさ」

「それ、すごいね。魔法みたい」

「いや、だから魔法だって言ってるだろ」

「……そうだった」


 と言ったあと、誤魔化すかのようにテーブルに置かれているコーラを飲むロトナ。ちょいちょいどっか抜けてるなコイツは。

 にしても、魔法陣からの生成は魔力を使わなければ出来ないとも聞いた気がするんだけどな。あれか、警察という権力だからこそ支給される、科学と魔法の融合物質って奴か。


「それにしてもお前、魔法使えるのに魔法陣も知らなかったのか?」


 ロトナはこくりと頷く。ううむ、コイツの記憶喪失の度合いがさっぱりわからない。でも魔法は撃ってたしな……けして魔法が下手くそって訳じゃないと思うんだよな。あー、こういう時にその知識がないともやもやするな。


 ……あっ、だからロトナは魔法陣のことが気になったのか。一応、魔法使いみたいだし。


「えっ、ロトナちゃん魔法使えるの?」


 菜切が驚きの声を出す。ああそっか、まだ知らなかったな菜切は。


「うん。一種類しか、おぼえてないけど……」

「それでも凄いよ! わぁー、いいなぁ魔法! 憧れちゃうよね!」

「ああ、俺も透視魔法とか消える魔法とか習得し――あだぁっ!」


 笑顔で菜切に足を踏まれる鳥彦。ロトナからすれば突然悲鳴をあげた変な奴に見られているだろう。


「大丈夫……?」


 けど心配するロトナ。そんな気遣いに対して親指をグッと立てる鳥彦。


「あ、ああ大丈夫。ロトナちゃんの可愛ささえあれば俺は体力が自動回復!」

「そうそう、鳥彦くんは死んでも死なない変態だから大丈夫だよロトナちゃん」

「その変態って呼び名をロトナちゃんの前で公表しないでくれないかね菜切!?」


 何を今更。

 俺のそんな考えと一致したかのような顔で鳥彦を見る菜切。鳥彦はその視線から逃れるかのように目を逸らす。


「……へんたいは、よくないと、思う」


 だがロトナは追い討ちするような発言を鳥彦に向ける。すると鳥彦は戸惑うような顔をする。


「そんな! だ、だがロトナちゃんがそう言うなら俺は……俺は……! い、いやしかし! 俺から多大な欲望が無くなったら一体俺に何が残るのか……!」


 うぐぐ、と声を漏らしながら両手で頭を抱えて葛藤する鳥彦。……まあ確かに死活問題なのかも知れないな、鳥彦にとっちゃあ。


「でも洋服いっぱい買えてよかったねロトナちゃん。弥京くんもきっと可愛すぎて驚いてくれるよ!」


 そんな鳥彦を放っておいて話題を変える菜切。可愛すぎて驚くってお前な。


「別に驚かねーって、洋服だけでそんな変わるもんでもないだろ」

「……おどろいて、くれない……?」


 ロトナはこちらを向いて問いかけるように聞いて来た。それはどこか小動物を思い出させてくれるような目で、肯定する言葉なんて出したらしょぼくれてしまいそうだ。


「おやー、見てくださいよ菜切ちゃん、あの弥京が照れていらっしゃいますぜ。あのムッツリ弥京が」

「うーん、流石ロトナちゃんだねー」


 ヒソヒソニヤニヤと喋る友人二人。すっごく殴ってやりたい。それも照れてない、戸惑ってるだけだっての。


「あー、そんなことよりさっさと食おうぜ、ポテトもバーガーも冷めたら美味くないしな」

「あっ、話逸らした!」


 菜切のそんな声を無視し、俺はポテトやバーガーを食い始めた。


+++++


「それじゃあまたね弥京くん、ロトナちゃん!」


 食事が終わり、俺達四人はデパートから出て別れようとしていた。辺りはもう暗くなって夜になっており、光がところどころに点灯している。


「ああ、気をつけて帰れよ」

「うん、またね、な……なぎ、り……」


 言い慣れてないようなたどたどしさで手を振りながら菜切に言うロトナ。それを見た菜切は笑顔を見せてくる。


「うん、また遊ぼうねロトナちゃん! 絶対だよ!」


 菜切はそう言って、こちらに手を振りながら帰っていった。明るさだけならアイツも街灯に負けてないかもな。


「で、鳥彦、お前はどうするんだ?」


 俺はその場に残っている鳥彦に問いかける。何かを考えていたような顔をしていたが、声をかけるとすぐにこっちを向いた。


「俺か? ふっ……今から菜切とホテルで愛を確かめあうのさ」

「いや、今帰っていったぞ菜切は」

「ええっ!? なんでだよ!」

「なんでって、家に戻るからだろ」

「菜切が俺の愛人一号になるという話は!?」

「お前の妄想だな」


 さっき完全なまでに拒否られてたし。


「じゃあロトナちゃん、俺の愛人一号に――」

「……よくわからないけど、ごめんなさい」


 頭を下げるロトナ。その返答にショックを受ける鳥彦。愛人の意味がわからないロトナも鳥彦のやましい気持ちを察したんだろう。


「うぐぐ……この際だ、弥京! 性転換して俺の愛人になってくれ!」

「……鳥彦、お前もさっさと帰って寝とけ。疲れてんだよ、きっと」

「ああ疲れてるよ! だから愛を、いや女体をください! ペッタペタでもバインバインでもどっちでも俺ウェルカムだから!」

「だからもう帰って眠っとけって、お前の評価がどん底に落ちてくぞ」


 俺がそう諭すと、トボトボと帰っていく。その姿はどこか哀愁が漂っていた。……欲望に忠実過ぎるのも時に考え物だな。

 と思うと、こちらを振り返る鳥彦。


「また今度も遊ぼうなロトナちゃん! ついでに弥京もな!」


 歯を見せ、爽やかな笑顔を見せながら手を振って帰っていく鳥彦。ロトナは微笑みながら手を振り返した。俺も手を振り返す。俺はついでかよ。


「さてと、俺らも帰るとするか」

「うん」


 二人でマンションの方へテクテクと歩く。その帰り道にはスーツ姿の犬の獣人やカップルと思われる二人が寄り添いあいながら歩いている光景が見える。時折、ロトナの持っている洋服の袋が足に当たってガサッと音を鳴らしたりもしていた。


「……これが、日常なんだね」


 唐突に、ロトナは嬉しそうに呟いた。記憶喪失だってんだから、こういうのも覚えてなかったってことだろう。


「さあな、俺は毎度毎度野次馬しに行ってるし頻繁に遊ぶってわけでもないから日常かどうかは断言できねーよ。まあ、平穏な日常って言うんならあってるとは思うけどな」

「……また、みんなで遊べるかな……?」

「何を子供みたいなこと言ってるんだか、お前これから居候するってのに。まだまだ会う機会なんてあるに決まってるだろ」

「……そう……かな?」

「そうだ。だから変に気にするなよ、お前の実力だってそう悪いもんじゃないし、殺されるだなんてことも早々無いだろうからな」


 俺が言うと、うん、と納得したように頷くロトナ。


 そうして、てくてくと歩いていく。

 大通りを抜けて、木と建物がいがみ合うように両端にある薄暗い路地に入る。大通りと比べて、格段に人の数が減っている。それでも、街灯の光が暗がりを点々と照らしてくれている。


「ねえ、弥京」

「ん、なんだ」


 素っ気無く返答して、目をロトナの方へ移す。



「また、みんなで遊ぼうね」



 ロトナは頬に赤みをおびさせながら、穏やかな笑顔を見せてそう言ってきた。


 それを見たとき、時間が止まるようにも、感じた。

 滑らかな銀色の髪を揺らしながら見せる、その幼げで純粋そうな笑顔は――――正直言って、すごく可愛かった。


「……どうしたの……?」


 ジッと見つめていると、ロトナが不思議そうに聞いてくる。

 それで俺はハッとして、なんだか恥ずかしくなって顔を背けた。


 不意打ちだ、こんなのはズルだ。女の子ってこんな可愛いと思わせる力があるのかよ、ズルにも程があるだろ。あのクソ姉妹のせいで植えつけられた女子の悪印象が薄れるレベルだぞこれ。


「もしかして、何かへんなこと言った、かな」

「い、いいや、言ってなんかいないって。さっき喋ってる途中で舌を噛んじまっただけだよ、ははは」


 なんでこんなに俺は言い訳も下手なんだろうか。荒事以外は苦手なこと多すぎだろ俺。


「さっ、帰ろう帰ろう。暗くなりすぎると危ない奴が出ないとも言えないからな」


 言い訳を感づかれる前に俺は足を早める。あー、本当恥ずかしいな、今からロトナが家に居候するってのにこんなんで大丈夫か俺は。

 と、浮ついた気持ちで歩いてしまっていた俺は、


 ――気配を感じ取って、意識を切り替えた。


「……誰だ、そこにいる奴」


 殺気混じりの視線。若干の殺気に何の感情も乗せていない視線をこちらに誰かが送っていた。

 辺りを見ると、運が悪いか良いのか、まばらにいた人すらいなくなっている。そこで突然気配を出してきたってことはつまり、俺達を待っていたか俺達を見張っていたってとこだろう。


「……誰か、いるの?」


 ロトナは問いかけてくる。だが、その問いには答えなくていいと感じた。


 何故なら――気配の主が物陰から姿を現したからだ。


「……アンタは……!」


 その姿を見て、俺は語気を強めてしまう。


 肩にかからないぐらいに伸びた銀色の髪に、印象的な空虚な瞳。そうだ、さっきのデパートで見た銀色の髪の男!


 銀色の髪の男はゆっくりとこちらを――いいや、ロトナを指差す。



「プロトナンバー、貴様の最終評価を行う」



 淡々とした抑揚のない声で、銀髪の男はそんな言葉を発した。

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