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13.変態と変な人

「って訳で、こいつが橋間鳥彦だ」

「おっす、オラ鳥彦。よろしく!」

「わー、よろしくねー。じゃないよ!」


 2階に戻った俺はさっそく鳥彦のことを紹介した。すると、ロトナではなく菜切が鳥彦の言葉に反応し何故か俺に詰め寄ってくる。


「なんで鳥彦くん連れてきたの!?」


 菜切は怒鳴るように聞いて来る。なんでと言われてもな。


「会いたいって言ってたんだよ。会わせてやるのは友人として当然だろ」

「会わせてあげないのがロトナちゃんの為でしょ!?」

「どうしてだよ?」

「変態なんだよ!? 弥京くんの何倍も! 普通のと赤いのぐらいの差で変態なんだよ!」

「例えがよくわからないが、どうしてそこで俺を引き合いに出して来るんだよ」


 まるで俺まで変態みたいな言い方しやがって。そりゃ、間違って裸見てしまったり、間違ってパンツのことを直に聞いたり――いや、十分そう言われるに値することしちまってるなこの数日間で。気をつけないといけねー……。


「ともかく、鳥彦くんの変態はロトナちゃんには毒過ぎるよ!」

「まあ、そんな心配する必要はねーって。鳥彦は発言こそは変態だが変態的行動はしてないしな。それに初対面のロトナにそんな失礼な真似をするほどアイツも切羽詰ってないさ」

「ほんとかなぁ……」


 怪しい目でロトナの前に立っている鳥彦を見ている菜切。まあ、見ていればあいつが案外まともだってことがわかるだろう。


「やー、始めまして! 名前聞いてもいいかい!」

「……ろ、ロトナ・プレグリンス……です」

「ロトナちゃんかー、いやー、名前に似合っていて可愛いね! その銀髪って地毛?」

「う、うん……」


 鳥彦の気安すぎる態度に少し物怖じしてるロトナ。傍から見てればナンパっぽいな。


「突然だけど、ロトナちゃんってなんか好きなのある?」

「好きなの……?」

「ああ。俺はさ、おっぱいとかお尻とか大好――!」


「何言ってるのーっ!」


 拳を握って変態発言を早速かまそうとした鳥彦に菜切の横入りの飛び蹴りが入った。見事に鳥彦の背中に命中し、鳥彦は地面に伏した。……どうやら菜切のほうが鳥彦についてちゃんと理解していたようだ。こんな初っ端から変態発言するとは。


「な、何をする菜切。はっ、もしかして嫉妬か!?」

「違うよ! 死んでもないよそんなの!」

「ふっ、照れるなって。けどまさか菜切にそんな思われてるとは思わなかったぜ……ようし! 俺の愛人一号になる権利をやるぜ、菜切!」

「なんでそんな自信満々!? 絶対いやだよ! それならまだ弥京くんの愛人になるよ!」

「な、なにぃ!? や、弥京貴様ぁ……いつの間に菜切を手篭めに……!」


 鳥彦の鋭い眼光が俺に突き刺さってくる。それは菜切の例え話だってのになんで真に受けるんだお前は。


「あいじん……?」


 と思えば、もう一人真に受けてしまいそうな寝ぼけ眼の娘さんもいるしよ。


「じ、冗談だよロトナちゃん! 愛人だなんてそんなのになる気ないよ!」


 そんなロトナの態度を見て両手を振って必死に否定する菜切。だったらそんな例えしなきゃ良かっただろうに。


「じゃあやっぱり俺の愛人に……」

「だから鳥彦くんの愛人になんかならないってば馬鹿っ!」

「馬鹿!?」


 驚く鳥彦。ああ、まごうことなく馬鹿だと俺も今回で確信したぞ。


「ふ、ふふふ……ああ、馬鹿さ! だからもっと色っぽく、肩を見せてセクシーポーズしながらもう一度その発言を頼むぞなっぎりちゃーん!」


 しかし、鳥彦はむしろその発言で興奮したようで、両手を前に突き出して握ったり閉じたりしながら鼻息を荒くしている。どう言い訳もしようもなく、その姿は危うい人である。


「うわあああん! 鳥彦くんの変態馬鹿! ばかばかっ! 弥京くんも馬鹿ぁ!」

「なんで俺まで馬鹿扱いしてくるんだよ……」


 とばっちりにも程があるだろ。つうかこんなうるさくしてたらつまみ出されるぞ。

 俺のそんな心配を他所に、本格的に言い合いを始める二人。はあ、割り込むのも面倒だしロトナの方へ行こう。


「ったく、鳥彦も鳥彦だけど菜切も菜切で慌てふためきすぎだっての。悪いなロトナ、呆気に取られたろ」

「……うん」


 ああ、やっぱりな。まさか鳥彦を連れてきただけでここまでうるさくなるとはな、個別で会わせるべきだったか。


「でも、楽しいね」

「……楽しい?」

「うん、楽しそうで、楽しいよ」


 声は最初とほとんど変わらないぐらいに淡々としている。けれど、じゃれて遊んでいる鳥彦と菜切を見るロトナの表情は緩んで、本当に楽しそうに二人を見ていた。


「……そう思ってくれたんなら、何よりだ」


 友人が褒められるってのはやっぱどこかしら嬉しくなるもんで、俺も嬉しくなる。ただ――



「げほぁっ! 痛い! でもなんかいい! なんか嬉しい! なんでだろう! へーい!」

「うわああん! なんで踏んでるのに喜んでるの鳥彦くん! ほんとに変態すぎるよぉ!」



 ……こんな姿の友人を見せたいとは、さっぱり思ってなかったんだけどな。ああ、もう本当に。


 さてと、もうこのままだと友人二人が変な性癖に目覚めかねねーから止めないとな。


「おい、もうその辺で――」

「ええい、うるさいぞガキんちょどもぉ!」


 怒声が聞こえる。その声を聞いて二人は動きをピタリと止める。あっちゃー、ついに怒られたか。


「すみません、うちの連れが暴れてしまっ――」


 謝ろうと思った。ああ、思ったのだ。

 けど、声が喉元につっかえた。本当はつっかえてないけどそんな気分だ。


「……あ」


 ロトナの気付いたような声が聞こえる。そうか、やっぱりこの人は――コイツは。


「……あー、っと……何をしてんだ、アンタ」


 爆発しているような髪、薄汚れた白衣、獣のような目つき。――どうみてもそれは昨日あった科学者、ドクターR、その人が目の前にいたのだ。

 ドクターRも俺の声を聞いて思い出したかのように目を見開く。


「……む、貴様はあの蛍光灯能力者! それに我が最高傑作まで!」

「誰が蛍光灯能力者だ」


 まるで光で辺りを照らすのが得意みたいな言い方してくれやがってこいつ。


「えっ、誰だこの爆発してるおっさん、知り合いか?」

「誰が爆発してるおっさんだ! この凡人馬鹿ガキめ!」

「何ぃ! 誰が馬鹿だ! 失敬なおっさんめ!」


 鳥彦は怒りながらそう言う。お前さっき自分を馬鹿って認めてなかったか?


「もしかして、ロトナを追ってきたのか?」


 話が脱線する前にドクターRに尋ねる。


「ヒッヒッヒ、そうだ――と言いたいが違う、今回は服を買いに来ただけだ。白衣をな」


 ああ、汚れちまってるもんなそれ。


「しかし――」

「ん?」

「見つかったと言うのならば話は別だ! 僕の最高傑作を返してもらうぞ蛍光灯能力者ぁ!」


 突然、白衣の袖を巻き上げて右腕を掲げるドクターR。なんだ、何がしたいんだコイツは。


「はあああっ! いでよ我が武装! アーームパァーーツ装備ぃっ!」


 そして、右腕に巻かれていた腕時計に向かって左手を伸ばしたドクターR。その瞬間だった。――前回と同じような機械の腕が、ドクターRの右腕に装着されていた。


「これがR式青色スピードバーストアームブレイカー! 前回と同じと思うなよ、蛍光灯能力者!」


 前の奴と名称も造形も変わってやがる。前の奴は橙色で大柄の機械の腕だったが今回は青色で腕の一回り分程度しか大きく無い。もしかして腕時計を押してあの青い機械の腕を出したって言うのか? おいおい、こいつ本当に凄い科学者なんじゃないのか?


「わ、わぁ。手品師?」

「こ、このおっさんヤバい奴だったりするのか……?」

「……すごい」


 三人も色々な感想を持ち、危険性を感じてるのが鳥彦のみ。けどどうすっかな、ここで暴れてしまうのは簡単だが一階に優音さんいるんだよな。それに流石にデパートで暴れると後が面倒だしな……。ここは、穏便に事を収めよう。


「まあ落ち着けよドクター。こんなところで暴れたらすぐに警察来るぞ。アンタ色々まずいことやっちゃってるんじゃないのか?」

「ぬっ……!」


 苦虫を潰したような顔をするドクターR。よーし、いいとこ突いたっぽいぞ。このまま説得していこうではないか。

 戦う場所の、な。


「戦うなら近所の倉庫内とかどうだ?」

「……何?」

「あそこなら場所も広いし、警察の目から届きずらいぜ」

「ほぉ……そうか、ならば――」

「後は、深夜の公園とかもいいな」

「……なにぃ?」

「案外バレずらいんだぜあの場所。んで、戦闘の好カードも見られるんだよ。やっぱ公園ってメジャーなだけあるなーと思わせてくれるぜ。けど最近は警察も監視の目を強めてるみたいでよ、やっぱ生き死にかかってると例え月裏でも駄目なもんは駄目ってなってるようでな。建前でしか殺し合いするなって言ってる割にはその辺厳しくて鬱陶しいと思うんだよな警察って。前なんて魔法使いと超能力者の好カードだったってのに……」

「……おーい、弥京ー」


 鳥彦の呼ぶ声が耳に入る。しかし今俺はドクターを説得中だ、意識を鳥彦の方へ向けるわけにはいかない。


「まあ深夜まで待てないってんなら仕方ないけどよ、だったら倉庫内と――ああ、そういやこの付近のメイド喫茶、穴場だけどいい場所だぜ。問題点ってのは、こうちょっと入りずらいってのがある。俺も最初は知らなかったけどそこにいる鳥彦の誘いで行って正解だったよ、警察の目を気にせずにバトルの見れる場所ってのはあんまり無いからな。ああ、メイドさんも強くていい感じだったぞ。掃除道具を使って戦ってた時には馬鹿かと思ったが、そのユニークな武器での戦闘だからこその良さってのもあってなー」

「や、弥京くーん、あのー……」


 むっ、菜切まで口出ししてくるか。全く、二人ともせっかちだな。まあいいや、ちょっと語り足りないけどそろそろ決めてみ――って。


「なんだよドクター、そのポカンとした顔は。そっちが戦うっつうからせっかく場所を提示してやったってのによ」

「じ……冗長すぎて……」

「え? なんだって?」


「冗長すぎて耳に入らんわボケェーっ!」


 指をこちらに向けて怒鳴ってくるドクターR。冗長……でもないだろ。


「はあ? 情報量的に全然語り足りないぐらいだぜ? 警察からの監視を逃れる絶好のスポットから名勝負を行われた場所まで全部語ってやりたかったぐらいだ。ただ昼間ってあんまりその辺利用されてないから行く機会がほとんどないんだけどよ。まあ、俺だってそんなに興味があるわけじゃないんだよ、行きたいなーって思った時ぐらいしかそこに行かないニワカな奴だしな。本当は警察さえいなきゃそういうのも気にしなくて済むんだけど……まあその辺は仕方ないか。勝負自体アンダーグラウンドなことだしな。それでもやっぱ鬱陶しいなーと、勝負見るのが好きな俺にとっては思わざるえないんだよな警察ってのは」

「へえ、私を通して賞金稼ぎだなんて真似しといてよくもまあそんなことを言えたものね」

「そりゃー別問題だよ優音さ――」


 ……は? 優音さん?


 …………その事実を認識させるような冷気的な威圧感が俺の背中を通してガンガン伝わり、身体が硬直させる。……後ろ、振り向きたくない。


「……ぬっ? どうした蛍光灯能力者、僕の叫びを聞いて震え上がったかぁ? ヒッヒッヒ」


 何故だか笑い出すドクターR。俺も笑う、空笑い。


「だがその恐れこそが命取りぃ! さあ食らえ! 我がR式青色スピードバーストアームブレイカーの高速鉄拳を! そして我が最高傑作を返してもら――」

「うっさい」

「へぶらぁっ!?」


 ドクターRの顔が衝撃らしきものでやや上向きになる。今のは多分後ろにいる優音さんがやったのだろう。さっき俺を撃った空気弾とかいう変なので。

 そんな空気弾を食らったと思われるドクターRは額をさすりながら俺の後ろにいる人を睨む。何も知らないってのはいいことである。


「……ぐっ……大気中の空気を弾丸へと変形させることの出来る魔法陣を組み込んだ銃を扱っているとは……貴様何者だぁ!」

「魔法だかなんだかは知らないけど、檻式優音よ」

「そうか! 鉄砲女か!」


 名前聞いた意味無いだろそれ。


「ヒッヒッヒィ、蛍光灯能力者に鉄砲女。我が最高傑作の前には邪魔な虫がとことんつくようだな! いいだろう、我が科学の髄を持って貴様らを滅ぼ――」

「ついでに、この人警察で警者だぞー」


 呟くように言う。途端、ドクターRの動きがピタリと止まる。表情も真顔に変わる。


「……本当か、蛍光灯」


 真正面を向いたまま聞いてくるドクターRのその問いに、俺は頷いて回答する。というかついに能力者とも言わなくなりやがったなコイツ。


「ふん……そうか。なら仕方ない――」


 青い機械の右腕を、後ろにいるであろう優音さんに向けている。まさかコイツ、戦う気――


「覚えていろ蛍光灯! 貴様を滅ぼし、いずれ最高傑作を取り戻しに来るからなああぁぁっ!」


 ……かと思ったが、ゴシュウ、と右腕から火を吹かせ、その加速を利用しながらドクターRはまさに颯爽と去っていった。……やっぱ警察と関わり合いになるのはアイツも避けた――ごりっ。


 首が曲がる。いいや、首が曲げさせられた。正面を向いていた顔は背後からの手によって強制的に左を向けさせられた。


「情報量の足りないとか言っていたさっきの話、沢山聞いてあげるわよ牢島」


 そしてその方向の先には目のきっつい鬼警察おねーさんの顔。……あれだな、恩を恩と感じずに厄介と思って話すとこういうことになるんだな、ははっ。



 自分の発言には気をつけよう、そんな言葉が頭によぎった。

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