思わぬ再会
吉村は大学が始まり新たな友人もできた。1年生なので授業は早いがキャンパスでの生活は楽しかった。
その吉村だが鳥取砂丘でのあの女性との出会いが脳裏をよぎっていた。1言だったので彼女の声は覚えていない。しかし、かわいい声だったというイメージはあった。
4月の最終土曜日、吉村は再び鳥取砂丘に向かった。自分でも何をやっているのか、また再び会えてそれでどうなるのかとも思った。だが、少し期待もしていた。
しかし、残念なことに彼の期待は外れた。あのみやげ店に彼女はいなかった。
「はあ。」
・・・少し歩くか。
吉村は鳥取砂丘を歩いた。その1面に広がる砂はやはり美しかった。
「こんにちは。」
不意に声がした。
声の先を見ると、あの女性が立っていた。
「この間、たまごを買ってくれた方ですよね。」
吉村は思わぬ再会で動揺した。しかし、彼女の声はしっかりと吉村の心に残った。
「よく覚えていましたね。」
「私、記憶力だけはいいんです。おいしかったですか。」
「はい。」
「それはよかったです。」
2人の間にはしばらく間が置かれた。
吉村は意を決して言った。
「もしよければ、少し1緒に歩いていただけますか。」
女性は少し黙った。
「いいですよ。」
女性は笑った。
こうして2人は砂丘を歩いた。