出会い
吉村義人が鳥取砂丘に初めて足を運んだのは大学1年の春だった。
以前は東京に住んでいた吉村だが、高校3年のとき父親の仕事の都合で鳥取に引越しをした。そして地元の大学に進学し、経済学部に入った。
入学式を終えまだ新しい友人もなく時間のあった吉村は、鳥取砂丘に行ってみようと思った。鳥取の有名な観光地で1度は行ってみたいと思っていたのだ。しかし、今までは受験勉強に明け暮れる毎日だった。勉強は得意な方ではなかったが予備校に通い地道に頑張った。その結果この大学に進学が決まったのである。
4月のある休日、吉村は鳥取砂丘に向かった。その日は晴れていて春らしい陽気だった。桜は見ごろとなっていた。桜前線はもう関東に移っていると気象予報士が言っていた。
今流行のアイドルグループの歌の歌詞にも桜前線というフレーズがあったと吉村は思っていた。
鳥取駅からバスに乗り鳥取砂丘に着いたのは、午後3時をまわっていた頃だった。休日とあって入り口には大勢のお客がいた。
入り口にはみやげ店やラクダに乗れるというコーナーもあった。
「いらっしゃいませ。」
みやげ店にいた1人の人物が声を掛けてきた。声を聞き振り向くとそこには美しい姿の自分と同年代くらいの女性が立っていた。
色白で、髪が長くて、美人で、小さい顔で大きな瞳・・・。
吉村はその女性に1瞬、見とれてしまった。
女性は小さく、くすりと笑った。
・・・きれいな人だ。
吉村はその場から離れた。そして、砂の上を歩き始めた。しかし、彼の心は観光目的で来た時の心とは明らかに違っていた。
1目ぼれ。
気づいたら、吉村は浜辺に来ていた。
「あれっ、もう海?」
振り返る吉村、砂が1面に広がっていた。
それからしばらく浜辺を歩いた。
そして、あのみやげ店に戻ってみた。少し時間を空けて・・・。
始めはさりげなく店の前を通ってみた。女性はまだ店にいた。
吉村は店の前で商品を見た。
店には鳥取砂丘で蒸したたまごと、鳥取砂丘で育てたらっきょうが売っていた。
吉村はたまごを手に取りレジに向かった。
レジで対応したのはあの女性だった。
「110円です。」女性は言った。
吉村は110円を出した。
「ありがとうございました。」
女性は笑顔を浮べた。
彼女の笑顔は吉村の心に強い印象を与えた。
その後、吉村は鳥取砂丘を後にした。
吉村が鳥取砂丘を出るとき、大きく風が吹いて砂が舞っていた。
帰りのバスの中でも吉村はあの女性のことを考えていた。
・・・また会えるだろうか。