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わがまま姫の専属騎士  作者: RINA
本編
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第4話 だいきらいの日


―――――すごいのね!ノアは、すごくつよいのね!


――――そんなことありませんよ、ヴァージニア様。もっともっと強い人はたくさんいます。


――――でもおとうさまがいってたよ。ノアはつよいって!これからもっとつよくなるって!


――――そうですか、それは光栄ですね。では、もっと頑張ってもっと強くならなくちゃいけませんね……。一人でも、陛下やヴァージニア様を守れるくらいに。


――――うんっ、やくそくよ!ずっとずっと、ジーナをまもってね!ノア、だいすき!


……そう、大好きだったのだ。あの光景を見るまでは。


――――お前、陛下に引き取られた孤児なんだってな。どこの馬の骨とも知れない卑しいガキに住む場所を与えるなんて陛下は何てお優しいんだろうって、お父様が言ってたぞ!


――――お情けで王宮に置いてもらってる分際でヴァージニア様と親しくしやがって生意気なんだよ!身分を考えろ身分を!


――――何へらへら笑ってんだよ!気持ち悪いんだよ!


――――こいつ、突き飛ばされても笑ってやがるぜ、救いようのない弱虫だな。……行こうぜ、同じ空気吸ってると貧しさが移る!


パタパタパタ……


――――ノア。


――――うわっ、ヴァージニア様?見てらしたのですか?


――――なんで、なんにもしなかったの!やっつけてやればよかったのに、あんなやつら!


――――ヴァージニア様……そんな言葉、どこで覚えてきたのですか。


――――やりかえさないなんて、いくじなし!よわむし!……よわむしなノアなんて、


“――――だいっきらい!!”


泣きながら顔を真っ赤にして喚く私に彼は目を見開き、それからやっぱり、困ったように笑った。


……そうして。


物心付く前から憧れていた私の王子様は、その日から、私の下僕になった。



***



「……ゆめ……」


ゆっくりと目を開くと、天井が見えた。

後味の悪い夢を見た。ここしばらく忘れていたのに、昨日久しぶりに彼と話したせいだ。薄れていた記憶が上書きされて再び鮮明に蘇る。


(今日は……あいつに会いたくないわ……)


いつも以上に不安定だ。自覚できるほどに。

こんな時にノアの顔を見たら、またひどく当たってしまいそうだった。

鬱々とした気分で部屋のドアまで歩き、目をこすりながら特に何も考えず扉を開け、外に一歩踏み出す。

と、


「あ、おはようございます、ヴァージニア様」


「な、なんであんたがここにいるのよー!」


笑顔のノアと目が合い、反射的に両手で顔を覆い部屋の中に逃げ帰る。

必死に手櫛で髪を整えながら喚くと、背後からノアの戸惑った声が答える。


「何故って、副隊長以下幹部が両陛下の護衛に付き、隊長は単独で姫の護衛に付く、これが慣習だからです」


「そっ……そうだけど……っ」


不意打ちだった。

ヴァージニアの寝室のある区画は王族以外は近衛隊の幹部しか立ち入らず、しかもこの2年間はセルフィエルが隊長を務めていた為普段は完全に身内のみの空間だった。

昨日からノアがヴァージニアの専属護衛騎士になったことを完全に失念していた。


「姫?本日の予定ですが……」


ノアが遠慮がちに話し始める。

何故ヴァージニアがそんなにうろたえるのかわからないといった顔だ。

それに苛立ちながら、彼の鼻先で音を立てて扉を閉める。


「わかったから、ちょっと待って。今着替えて顔洗ってくるから」


支度を済ませて恐る恐るドアを開けると、先程と同じ柔らかい笑みを浮かべたノアがいた。

優しい瞳の色にどきりとし、思わず顔を俯ける。


―――ノアなんて、だいっきらい!


夢の中で叫んだ台詞が頭の中で反響する。

大っ嫌い、そう叫んだ時、ヴァージニアはまだたったの4つだった。

ようやく物心がつき始めた頃で他の記憶は朧気だが、その場面だけは何故か鮮明に記憶に残っている。

時を前後して父が身罷り、ノアは12歳で王室師団に入団した。

ヴァージニアの教育も本格的に始まり段々とノアとの接点は薄れていったが、それでも城の中で会えば辛辣な言葉をぶつけ用事を言い付けた。


それから10年間、幼い頃に築かれた二人の関係は変わっていない。


今思えばノアは大人だった。

いくら王女の命令とはいえ、思春期の男の子が幼い女の子の命令に諾々と笑顔で従っていた。

自身の10歳の誕生日を迎えた頃から自分の子供っぽさに気付きながらも、最早態度を変えることなど出来なかった。

ノアだけが成熟したまま大人になり、ヴァージニアはいつまでも同じところで立ち止まっている。


「……姫?」


顔を覗きこまれ、頬が熱くなる。

昔はヴァージニアの方が背が高かったのに。

しばらく間近で接する機会がなかったから気付かなかった。

もうとっくに、追い越されていた。




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