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わがまま姫の専属騎士  作者: RINA
本編
24/50

第23話 優しく囁かれた、その答えは



「…………」


再び室内に静寂が戻る。

しかし今度は先程のものとは質が違った。

毅然と顔を上げ、鼻の頭を赤くし据わった目をしたヴァージニアと、彼女の正面に跪いたまま呆けたように碧眼を見開くノア。


「……何よ。……びっくりした?」


少々やけっぱちに言い放てば、彼女の専属騎士はゆるゆると頷いた。


「…………しました」


「ああそう。……じゃあ、改めて言うわね。ノア、私はあんたが好きよ」


さらりと言うはずだったのに、今度は少し、語尾が震えた。

冷静になるにつれて心臓が早鐘のように鳴り出す。

……言ってしまった。


(……でも)


勢いでしてしまった告白だったが、いい機会だ。

彼の気持ちを聞きたい。


しばらく固まっていたノアだったが、ようやく我に返り、二、三度ぱちぱちと瞬きをして、

ゆっくりと立ち上がる。

そうして、


「……ありがとうございます」


いつも通りに。

穏やかに微笑んだ。

そう、あまりにもいつも通りに、柔らかく笑って、平然と返すから。

ヴァージニアの心臓が、嫌な音をたてて、どくん、と鳴った。

動悸が激しくなり、不快感が胸から喉にせり上がる。

……気持ち、悪い。


「……お礼なんて、いらない」


そう搾り出すように呟けば。


「そうですか。では……光栄です?」


惚けているのか真面目なのか読めない口調。


「違うわよ……!」


もどかしい。すれ違う問答に、ヴァージニアは歯噛みした。


「ねえ、ノア。……ノアは、私のこと、どう思ってる?」


「大切なお方ですよ」


「そうじゃなくて、異性として、一人の女として、どう思っているの?」


あくまでのらりくらりと躱すノアに、しつこく食い下がる。

と、ノアが吹き出した。

まるで、考えたこともなかった、というように。


「―――っ」


その笑い方に、ヴァージニアは少なからず傷付いた。

しかし、さらに追い討ちをかけるようにノアは続ける。


「おんな、というには、まだ少し可愛らしすぎるような気がしますが」


わずかにからかいの混じる口調に、ヴァージニアの頭にかっと血が上った。


(なによ……っ)


告白、しているのに。

意味、わかっているくせに。

私が本気なのも、何を訊きたいのかも知っているくせに!

感情が、制御できない。

苛立ちが最高潮に達し、ヴァージニアは両手を握り締めて声高に叫んだ。


「そんなこと言ってるんじゃないわ!わかってるんでしょう?私があなたの恋愛対象になれるか訊いているの。私はあなたにとって、女性として魅力的?かわいい?色っぽい?恋人にしたい?奥さんにしたい?キスしたい?抱きたい?」


息を継がずに一気に吐き出す。


「……ヴァージニア様」


さすがにノアの顔が険しくなる。

当然だった。

こんなことはとても、王女の口にしていい言葉ではない。

誰かに聞かれたらどうするのか。暗にそう言っているのがわかる、咎めるような、諌めるような声音。


しかし今のヴァージニアにとって、そんな彼の分別臭い態度がどうしようもなく癪に障った。


どうしてなの。

恥も外聞も捨てて真正面からぶつかっているのに、どうして伝わらないの。

絶望的な無力感を感じ、その場に膝をつきたくなる。


「……なんで……」


荒い息と共に漏れた声は、どうしようもなく弱弱しくて、情けなかった。

こんなの私らしくない。

だけど、そんなの構っていられる余裕はない。

縋るように黒髪の騎士を見上げる。

少し近づけたと思っていたのに。

今は、こんなにも遠い。


「何で、ちゃんと答えてくれないの。私が王女だから?仕えるべき主だから?だとしたら、そんなのひどい。そんなの、私にはどうしようもないことじゃない。それを理由にしてはぐらかすなんて、そんなの……卑怯だわ……」


こんなに、好きなのに。

ず、と鼻を啜る。

ああ、なんてみっともない。


「…………わかりました」


しばしの沈黙の後の小さな声に、ヴァージニアは顔を上げた。


「へ?……、わっ」


いつの間に近づいたのか思いの外近くにノアが立っている。


「……ノア?」


無表情にヴァージニアを見下ろす碧眼を見つめ、不安げに名前を呼ぶ。

いつもと違う雰囲気を感じ取り、背筋がわずかに震えた。

無意識に後ずさると、とん、と固い壁の感触が背に当たる。

表情を変えないまま身を屈めたノアの顔がヴァージニアの顔に近づく。


「ノ、ノア、え、ちょ」


(なになになに、何なの!)


「ヴァージニア様の真剣な想いに応えて、私も本音で答えましょう」


「…………っ!」


顔を真っ赤に染めてぎゅっと目を瞑り、全身を固くしたヴァージニアの耳元で、ノアはこれ以上ないほどに優しい声で囁いた。


「あなたの想いは、迷惑です」




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