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わがまま姫の専属騎士  作者: RINA
本編
19/50

第18話 少しだけ素直に



「……どうって。……いいんじゃねぇの?」


「へ?」


砕けた口調で返された言葉の意味を理解できずに、中途半端に腰を上げた姿勢のままヴァージニアは静止した。


「いいですか」


ノアが男の言葉をそのまま返す。

男は困った顔で瞬きをし、頭を掻いた。


「いや、会ったことも見たこともねぇし、正直あんまり考えたことねぇけど……。あれだろ、あの森の外れの孤児院、あれ建てたのは王女様だろ?」


「そうですね」


「難しいことはわかんねぇけど。……俺、この季節になると定期的に都にくるんだけどさ、時々見かけてたんだよ。一目で異国人だってわかる子供たちの集団を。みんなぼろぼろの服着てさ、おどおどした、それでいて卑屈な目で周りを窺ってた。坊主たちが時々大人に追い掛けられてるのも見たしな……」


盗みかスリか食い逃げか。

そう呟いて、男はぐいっと酒を煽った。


「だけどな、去年から、ぱったり見なくなった。いよいよ捕まっちまったか、人買いに目を付けられて売られちまったか、なんて心配してたんだけどよ。こないだ森を抜けた先に新しい孤児院が建ってるのに気付いて、そこの庭で、あいつらが遊んでるのを見つけたんだ」


「そうですか」


「別に言葉を交わしたことがあるとかじゃないんだ。向こうは俺のことなんか知らないだろうしな。全く赤の他人のガキどもなんだけどよ。……ほっとしたんだよ。ああ、元気なんだな、ちゃんと住む家が見つかって、楽しそうに笑えてんだな、って」


「…………」


「まあ、だから、俺にとって王女様は、あの子供たちが安心して笑って暮らせる施設を建ててくれた人、かな」


「わがままで気が強いって、専らの評判ですが」


「そうだなあ、ま、王女なんだから多少はわがままだろ。だいたいが噂だろう、偉い人は大変だな、いろいろ言われて。とりあえず、俺は国の子供たちのことを考えてくれてる優しい人なんだなと思った。……あんた、その制服、近衛騎士の人か。王女に対する世評調査か?大変だな。どうだい、実際、どんなお方なんだ?」


立ち上がったまま俯いているヴァージニアの肩がぴくりと震える。

そんな彼女をちらりと見てから再び男に視線を戻し、ノアはにっこりと笑みを深めた。


「……ええ、あなたの仰ったとおりです。いつでも自分のことより他人のことに一生懸命で、感情豊かで聡明な、誰よりもお優しい方ですよ」


愛おしげに、誇らしげに紡がれる声に、ヴァージニアは真っ赤になった顔を上げることが出来なかった。



***



「ね、私が言った通り、なかなか人徳があるでしょう、我らが王女殿下は」


「…………」


孤児院への帰り道。

嬉しそうなノアの声に返す言葉がない。

恥ずかしい。いまだに耳まで真っ赤なのがわかる。

混乱した頭のまま、ヴァージニアは感情に任せて口を開いた。


「………………な」


「な?」


小首を傾げるノアをキッと睨み上げる。


「生意気なのよ!ノアのくせに、さっきのあれ、まさか、私を元気付けたつもりじゃないでしょうね!」


「あははー、すみません」


全く悪びれずにへらりと笑うノアの態度が、さらにヴァージニアの神経を逆撫でする。


「すみませんじゃないわよ!人望なんてないとか、本気で思ってるわけないでしょ!あんたなんかに心配されるまでもなく、私は人気者なのよ!余計なお世話よ!全く何様のつもりなの!」


「はいはい、そうですね。あ、ほら、急がないと、騎士たちが戻ってくる時間ですよ」


「ちょっと、聞いてるの!」


先を歩くノアを小走りに追いかけ、顔を覗き込もうとすると、


「聞いてますよ」


急に足を止めて振り向かれ、予想外に優しい視線に正面から射抜かれた。


「―――っ」


「私なんかが心配するまでもなく、ヴァージニア様が誰よりもお優しいことは、みんな知っています」


柔らかく細められた碧眼は思ったよりもずっと真剣な色をしている。


「…………そ、そこまでは、言ってないけど」


改めて言い直され、ヴァージニアは思わず語尾を濁した。


「自信を持ってください。国民はたかが噂を鵜呑みにするほど愚かではありません。ヴァージニア様。あなたはあなたが思うよりもずっと、皆に慕われているのですよ」


静かで心地良い低音が、すっと胸に染み込んでくる。


(…………反則、だわ)


あくまで真っ直ぐなノアの声。

悔しい。

だけど、早まる心音が何故か心地良い。


(これ以上、好きにならせないでよ)


強がってはみたけれど。

王女としての自分に自信がないのも、さっき食堂で傭兵風の男に言われた言葉が嬉しかったのも、その機会を作ってくれたノアに、本当は少しだけ感謝しているのも……事実だから。


ちらり、と上目遣いにノアの顔を見上げて、彼が変わらず微笑んでいるのを確認すると。


「…………うん」


ヴァージニアは、まだ僅かに火照る熱を頬に感じながら、小さく一つ頷いた。





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