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わがまま姫の専属騎士  作者: RINA
本編
12/50

第11話 いつか、必ず



「……ん……」


ふと気付くと完全に陽が落ちていた。

泣きつかれて眠ってしまったらしい。喉と頭が痛い。

右頬に何かがさらさらと触れ、重たい瞼を上げ視線をずらすと、すぐ近くにノアの顔があった。


「…………!」


驚きの声を何とか飲み込む。

いつの間にかノアの立てた両膝の間にヴァージニアは座っていて、頭をノアの胸に預けて眠っていたようだ。

寝息は聞こえないが、目を閉じて動かないところを見ると彼も眠ってしまったらしい。


「…………」


彼を起こさないようにそろそろと頭を上げ、長い前髪の奥の無防備な顔を静かに覗きこんだ。


(……ほんとに寝てる……)


信じられない。

どこの世界に護衛対象の王女が寝ている時に一緒になって眠る騎士がいるのだろう。

昼間見た鬼のような強さと今の間抜けな姿との差異に、こみ上げて来る笑いを噛み殺す。

これまでだったら、護衛中に寝てるなんて、と怒って叩き起こしていたけれど。

今は不思議と不安はなかった。

だって、例え眠っていても、どんなに遠くにいても、何をしていても。

どんな時でもヴァージニアが危険にさらされたら、絶対に守ってくれる。

何故か無条件にそう思えた。


ヴァージニアの危機には絶対に掛け付けてくれる、ヴァージニア専属の騎士。


(……騎士じゃなくても、私専属だったらいいのに)


ほんの少し、顔を近付ける。

情けない顔、困った顔、真剣な顔、……優しい笑顔。

この10年間でノアのいろんな表情を見てきたけれど、寝顔を見るのは初めてだ。

そう思ったら、少し心拍数が上がった。

これからこの顔を見るのが、私だけだったらいいのに。

ふと視線を落とすと、ノアの両手がヴァージニアのお腹の前でゆるく組まれていた。

まるで、後ろから抱きしめられているみたい。

実際には眠ってしまったヴァージニアが寒くないように夜風から守っていてくれていたのだろう。

きっと他意はない。

今はまだ、それでいい。

見込みはほぼないに等しい。理想のロマンスには程遠い。

それでもこれは、ヴァージニアにとって初恋だから。

遠い昔に始まって、終わっていたと思っていた想いだから。

このままただひたすらに忘れようとするなんて、全くヴァージニアらしくない。


「……ふふっ……」


口元が弧を描き、微笑が浮かんだ。

泣くだけ泣いたらすっきりした。強気な自分が戻ってきた。

今なら何でも出来る気がする。

その勢いのまま、ゆっくりと身体の向きを変え、上体を少し伸ばして。

僅かに顔を上向けて、目の前の閉じた薄い唇に、そっと口付けた。

吐息を落としただけのような、一瞬のキス。

感触などわからないくらいに淡いものだけれど。


(……宣戦布告よ、ノア)


顔を離し、ヴァージニアは悠然と笑んだ。

叶わない恋でも、何もしないまま諦めるなんてごめんだった。

叶えるために出来るだけの、精一杯の努力をしたい。

でないとこの想いが可哀想だ。

だからといって媚びるようなことはしない。それでは意味がない。

生意気で、わがままで、勝気で、意地っ張りで。

それがありのままのヴァージニアだ。

14年間、変えたくても変えられずに生きてきた。

だったらそれを、貫けばいい。

息を深く吸い込み、


「ノア、起きなさい!全く、あんたまで寝るなんて!護衛の自覚が足りないんじゃないの!」


凛と響いた声にゆっくりとノアが目を開ける。

現れた深緑を見上げ、ヴァージニアは心から楽しそうに声を上げて笑った。


覚悟しなさいよ。

好きとか嫌いとかじゃない、なんてもう言わせない。

いつか必ず、私自身を好きにならせてみせるから。



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