海溝の奥底
これは作者がカフカに影響されて数分で書き上げたのをそのままうつしただけの詩です。
気持ちが滅入っていくかもしれませんことをお許しください。
いつのころかわからないが
ここは見覚えのある海嶺であった。
それが真であるか、
それともそのような気がするだけなのかは
太陽の光すら届かない暗い海底ではさすがの私も知る由もない。
ただ、このような暗い海底で長い間過ごしていたのは確かであった。
そんな私に太陽を教えてくれたのは他ならぬ同志であった。
ともに過ごし、ともに遊び、感情を共有しあった仲間である。
いつの日も、あの煌々とした海面近くまで遊びに行っては、海面の向こうはああだこうだと日が暮れるまで思慮を重ねた。
そんな彼がおかしくなったのはつい最近のことである。
たわいもない話をいつも繰り出していた彼は、最近突然深刻な顔で「白いやつ」のことを話し出すのである。
隣の海に住んでいるというその「白いやつ」に彼は心を落とされたように、熱烈に語り出すのである。
そしてつい昨日のことになるが、
彼はいつもの待ち合わせに「白いやつ」を連れて、やってきた。
その「白いやつ」というのは、一目見たらわかるが、とてもいびつな形をしていて(というのも、他から見れば私のほうがいびつなのかも知れないが)、薄汚れた白に暗い山吹色の斑点がついた体で、お世辞にもいい女とは言えなかった。
だがしかし、彼はそれに気づかない。
呂律が回らないらしい彼が何か言ったかと思うと
「白いやつ」を連れてどこかへ行ってしまった。
今思えば、私だってついて行ってもよかったのかもしれないが、
彼は「白いやつ」に夢中で、私のことなぞどうでもいいのだ。
ただ取り残された私に、ただ大きな波が来て、
私はどんどん海底へ引きずり込まれていく。
彼は、どこへ行っただろうか。
「白いやつ」を連れて、海面の向こうにでも行ったのだろう。
もう、私なぞどうでもいいのだ。
私は、ただ海溝の奥底へ引きずり込まれていく……