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何も言わないで

作者: 尚文産商堂

高校を卒業する日。

僕たちは恋人同士になった。

それから、僕は大学へ進み、彼女は専門学校へと進んだ。

近所にあるおかげで、帰り道も一緒に帰ることができる。


「あら、今日は電車止まってるんだ」

いつものように、駅で待ち合わせをしていると、彼女が電光表示板を見ていった。

僕は既にポケットをまさぐって、JRの定期券を出そうとしていた。

「なんで?」

「人身事故。ここ最近多いね」

「不景気だから仕方ないさ。振り替え輸送は」

「始まったところ。そっち乗る?」

「しかないだろうな」

どちらにせよ定期はいるから、僕は彼女と一緒に振り替え輸送になる、私鉄の駅へ向かった。


私鉄駅では、かなり込み合っていた。

JRからの分と、いつものっている人の分が混じっていて、のったりと動くような生き物を思い浮かべさせるような人の動きを形成していた。

「振り替え輸送はこちらへ来てください!」

駅員がメガホンを持ちながら、流れてゆく人並みに叫び続ける。

振り替え輸送に乗る時には、その区間の乗車券と引き換えに、振り替え輸送証を発行してもらい、それを乗る時と降りる時に見せる。

だから、振り替え輸送証をもらわないと、振り替え輸送として乗ることはできないのだ。

「振り替え証もらっておかないとね」

彼女が笑いながら僕に言った。

「そうだね」

僕も彼女に笑いかけながら言った。


人の波にもまれながら、どうにか定期を提示して振り替え証をもらい、電車に乗り込むことができた。

3分に1本ぐらいのペースで来る誰も乗っていない電車だったが、どれも満員になって駅のホームを離れていく。

僕たちも、はぐれないように手をつなぎながら、一緒に乗り込んだ。

会話することもままならないような、押し詰状態の車内でも、彼女とたまに目が会い、それで十分によかった。


「それじゃあね」

「ああ、またな」

降りる駅へと着くころには、ずいぶんと人は減っていたが、それでも座ることはなかった。

僕たちは、また明日と言いあって、互いの家へ向かった。

これから、全部うまくいく。明日もあの人に会うことができるという期待に胸を膨らませながら。

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