第八話 走る
樹とかおりは闇の中進んでいた。
しかし、二人はふっと立ち止まった。
「人が増えてる」
かおりが周りに目をやりながら言った。
その視線の先には闇に溶けかかった人間がいた。
まだ、顔が判別できるものもいるが、大半はすでに形すらあいまいだ。
「…そうだな…ここまで来れる術者がこんなにいるはずは無い」
樹もかおりの視線の先を見た。
最初に人を見かけた場所は言わば入り口だ。
それなりの『力』があれば入り込めないことも無い。
しかし、ここは中心部に近すぎる。
もはや人間には入り込めない。
「だとすれば…」
もし、入れたとしてもこれほどの人数になるはずが無い。
ならば、ここに大勢の人間の『成れの果て』がいる理由は幾つも無い。
「ここに『力』を集めるために利用させたのかも知れない」
「何らかの形で生贄にされた」
『人間』は最高の呪具となる。
『組織』では禁忌とされているが、裏を拠点としている術者はその禁忌に縛られずにいる。
「断言は出来ないが、恐らくはな」
「樹、まだいける?」
中心部に近づいたため、かなりの『良くない力』が充満している。
「無論だ。お前こそどうだ?」
「大丈夫。いける」
二人とも自分の周囲に結界を張り、邪悪なものを近寄らせてはいない。
しかし、圧は感じている。
結界がいつまで持つか。
圧にいつまで耐えることが出来るかが、問題だ。
「頼もしいことだ」
「そっちこそ」
「まだ、先は長そうだ」
「うん、でも、時間が無い」
「なら、行こう」
「うん」
二人は走った。
暗闇の更なる奥へ。
「来たぞ、来たぞ」
暗闇の中、一つの人影が動いていた。
「あの二人ならここまで来れる」
そこは広い空間だった。
いや、実際の広さは分からない。
ただ人影の周りに幾つかの炎が浮かんでいた。
それが周りを照らし、光の届く範囲内には壁の無い場所だと分かった。
そしてそれは、人影を照らしていたが、人影の周りはなぜか暗闇に包まれていた。
「予定より早いが、流石、と行っておこう」
人影は満足そうに言った。
人影の前には手のひらほどの大きさの水晶が浮かんでいた。
そして、それにはかおりと樹が映っていた。
「さあ来い。ここがお前達の目的地じゃ」
人影から不気味な笑い声がもれていた。
「ん?」
走りながらかおりは周りを見回した。
「どうした?」
一歩後ろを走っていた樹が聞いた。
「…なんか、見られていたような…」
「ここに埋まっている人間か?」
まだ意識のあるものがいるのか、と、樹はすでに人の形を失いつつあるもの達を見回した。
「…違う気がする。それにここにいる人たちはもう生きていない」
「気になるようなら調べるか?」
僅かに速度を緩めながら言った。
「いい。もう感じない。気のせいかも」
「そうか、でも気をつけるんだぞ」
「分かった」
目的のために他に構っている時間が無い。
二人は走る速度を段々と早くしていった。
「…あ…」
そして、夢うつつから目覚めようとしている者がいる。