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第七話 水鏡

 水鏡越しに二人は向かい合っている。


 水鏡とはその名の通りに水が鏡のようになっていいる。

 しかし、鏡に映っているのは自分ではない。

 水の前で呼びかけに答えた相手だ。


 卓也が一人で『組織』の仕事をしている隙にかおりが呼びかけ、樹がそれに答えたのだ。


「つまりは『場』なだけなんだろう?」

「そう、でも、人工的に『創られた』ね」

 かおりは集めた情報を樹に伝えた。


 偶然耳に入った、普段なら気にならない話。

 しかし、かおりはなぜかその話が気になり情報を集めた。

 その結果、無視できない話となった。


「問題は『誰』が何の『目的』で、か…」

「…『場』の規模や集まっている『モノ』の様子から見るとかなり大きなことに使うことが出来る…」


 かおりはその場所、『事』が起こっている所には行ってはいない。

 しかし、『気』を飛ばし気配を探ってみたのだ。


「この世界を終わらせるほどか?」

 情報は確かだが、不確定部分が多い。

 そのため、かおりが持っている情報が全てだ。

「そこまでじゃないよ。せいぜい日本が半分無くなるぐらい」

「…その程度か」

 二人にとって大切なのはこの世界ではない。

 樹は所詮違う世界の住人だし、かおりは『創られた』存在だ。


 卓也と樹以外の人間からまともな扱いを受けたことが無い。

 よって、二人以外はどうでもいいと考えている。


「うん。…この『国』にいなかったたら何もしなかったかも」

 半分とわいえ、卓也に脅威が訪れる可能性がある。

 だから、自ら動くのだ。

「…そうか」

 樹も、そんなかおりの考えが分かっているのだ。

「うん」

「で?」

「ん?」

「どうするんだ?」

「ほっといてもいいけど、このままじゃいつか『組織』に依頼が来る」

 しかし、並みの術者では近づくことも出来ないだろう。

「そうなれば最終的には…」

「卓也に依頼が来る」

 卓也は若いがゆえに軽視する者も多いが、実力は『組織』内でトップクラスだ。

 それゆえ、卓也には危険な任務ばかり回ってくる。

 その死を願う『組織』の人間によって。

「何人かの犠牲を出した後に…」

 そうなれば卓也は任務を断れない。

「でも…」

「卓也でもこの件は対処できないかもしれないな」

 大きな『力』をかおりは感じた。

 その『力』は今まで感じたことのない邪悪なものだ。

「情報が正しければこの『場』はすでにこの世界とは切り離された『モノ』となっている」

「ただの人間は近づいただけで、生きていくことは出来ない」

 並みの術者では近づく事もできない。

 しかし、それ以上の実力を持つものなら近づくことは出来るかも知れない。

 その命と引き換えに。

「対処できるのは…」

「『ヒト』ではないもの」

「この『世界』のものではないもの」

 問題の『場』は邪悪で大きな『力』が集まっている。

 そして、それはこの世界に収まりきれるものでは無いようだ。

 その一部が異次元に漏れ出している。

 いや、異次元とこの世界が繋がって二つの世界にまたがって存在しているようだ。

 しかし、大元の『力』『核』と思われるモノはこの世界にある。

 それは、飛んだかおりが良く分かっている。

「そんな存在は…」

「ここにしか居ない」

「この世界でたった二人の」

「異質なもの」

「『組織』が気が付く前に片付けないと」

 情報を集めるのに時間がかかった。

 『組織』が気が付くのも時間の問題だ。

「ああ」

「『創られたモノ』」

「『異世界から来たモノ』」

「それに感謝する日が来るとはね…」

 この世界の人間とは異質なモノ。

 次元移動を体験したモノ。

「まだ、対処できる可能性が人間より高いだけだ」

「私達で対処できるかは」

「行ってみないと分からない」

 自分達でもわかっている。

 生きて帰れる可能性が少ないことを。

「なら、行こう。出来るだけ早く」

「そうだな」


 それでも一人は初めて受け入れてくれた人間のために。

 もう一人は無意味な『生』を意味あるものにしてくれた人間のために。


「…つき合わせてごめんね」


 行くのだ。

 生くのだ。


「イヤ、お前の情報収集能力はたいしたものだ」

「うん。自分でもそう思う。米粒みたいな小さな情報から良くぞここまでって」

「自画自賛か」

「うん。卓也のために一生懸命アンテナ広げた結果だもん」

 卓也と卓也の世界のために、それを守るために出来るだけの事はするのだ。

 これまでも、そして、これからも。

「そうか…」

「うん」

 『組織』に無断で大掛かりなことをする。

 卓也の立場が悪くなるかも知れない。

 しかし、『組織』が知る前に行かなくてはならない。

 二人にこの任務が依頼される可能性は、ほとんど無いのだから。


 かおりは『組織』から取りあえずの信用は得ているが、こんな大きな任務を任せられるはずが無い。

 樹はこの世界で「暇つぶし」で『組織』に所属し、依頼を受けているため簡単な任務しか回ってこない。


「決行日はかおりが決めろ。それから卓也への説明は任せる」

「面倒ごとは私なんだね」

「そうだ。俺はサポートだ。今回はお前の『仕事』だ」

 かおりが情報を集め調べ、樹に助力を依頼したのだ。

「…分かった…おって連絡をします」

 時間は掛けられない。

 しかし、慎重に誰にも気がつかれないようにしなくてはいけない。

「ああ。了解した」

 二人は水鏡を閉じた。

 辺りは静寂に包まれた。


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