YKZの日常
エイプリルフールのつもりが実話を書いてしまった(ホント)。後悔はしていない。
「おぅ、そうだぁ……奴にはオトシマエつけさせにゃあ、あかんけんのぅ」
俺がスーパーに買出しに行って、特売のカレールーをしこたま手に入れてきたときだった。
駐輪していた原付の前まで来ると、ドスの効いた声で誰かが話している声が聞こえてくる。
それは丁度非常階段の辺りらしく、俺は恐る恐る近づいてみた。
「それでぇ、カチコミいつにするんよぅ? 数はそろっとんか?」
そこにはパンチパーマをあて、楕円レンズの茶色のサングラスを見事身につけ、銀色のジャージを纏った、どう見ても堅気には見えないオジサン。
彼は何かきらきら光る縦長の物体に自分の顔が映るように話しかけていた。
最初俺は、それが何なのか分からなかったのだが、きらきら光る、縦長、話しかける、から推理を始めた。そう、名探偵であったばあちゃんの名に掛けて、俺がこの謎を解いてやるんだと。
ピキューン! ←(ニュータイプの額から出るアレが出た音)
「そうか、この人はヤ○ザ的な人達とテレビ電話で話しているんだな!」
最近のヤ○ザは進んだものだ。こんなド田舎でもテレビ電話で作戦会議をするとは。
そんな風に感心した俺は、危険ながらもそのオジサンへと近づいていった。YKZな人達は一体どんな会話をするのか、今後の知識のために聞いておきたかったのだ。
「ちくしょうあの野郎め! 俺らを何だと思ってんだぁ。なぁ、お前もそう思うだろう」
なにやら話がヒートアップしている。非常階段を通る人達は滅茶苦茶ビビリ、半径四メートルぐらいのATフィールドを展開している。いや、もしかしたらディストーションフィールドとかイナーシャルキャンセラーかもしれないが。
俺はそのオジサンの背後からゆっくり近づき、彼の携帯のカメラの死角に入り込むように歩を一歩一歩進めた。
「あぁ? 誰か後にいるだとぉ?」
と、速攻バレてしまった。目ざといぜ、電話の相手!
YKZのオジサンはゆっくりとこちらを振り向いた。
俺は結構テンパった。かなり焦っていた。どれくらい焦っていたかというと、携帯電話を取り出し、555と番号を押してベルトに差し込もうとするぐらいだ。
もちろん差し込む場所なんてないし、ライダーに変身できるわけもない。
そして、俺はおじさんとたっぷり一分は見詰め合った。見詰め合っても素直にお喋りはできない。
そこで俺は気づいた。オジサンの顔が赤いことに。も一つ気づいた。オジサンが持っているものが携帯ではないことに。
きらきら光っていた、でもそれはガラス製品。縦長だ、けどよくみたら円筒。話しかけている、がどう見てもワンカップの酒瓶。
そう、このオジサンは酒と話していた。つまり、酒がエア友達。
Y、K(この人)、Z(存外危ない人)!
オジサンはなかったかのように酒と話を再開し始めた。
俺はこの時思った。この人も苦労してんだなあ、と。
帰りの原付が、悲しそうにエンジン音を響かせた。