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八月九日。午前十時四十九分


 どうか…。貴方…。だけは…。


 僕は勢い良く屋上の扉を開ける。惨憺さんたんたる光景が其処には在った。炎と煙がユラユラと周囲の輪郭を曖昧にさせている。先程の爆風に巻き込まれ肉体が欠損し、埃と血液で染まり倒れ込んでいる村人達。ある一箇所の上空から降る雨に紛れ、数え切れない程の【何か】が舞い降りてきている。


 ソレは折り紙で創られた鶴だった。


 僕は雨の降る場所へと向かう。倒れている夏希を抱き起こそうとした時、この手の平に生温かい感触があった…。僕の手の平は真赤に染まっていく。


 「夏希?なぁ…。夏希…。」

 「良かった…。無事だったのね…。」


 その言葉は呼吸の途切れ途切れで…。

 紡がれていく。


 「ゴメンね。」

 「何を謝ってるんだよ…。」

 「約束守れなくて…。」

 「何だよ…。約束って…。」

 「帰ってきたら結婚するって約束…。」

 「こんな時に何を云ってるんだよ…。」


 コプリ…。と夏希の唇から真赤な液体が溢れていく。僕は彼女の頬をそっと触れる。


 「私は…。もう…。ダメみたい…。」

 「冗談は止せよ…。僕達ずっと一緒だったじゃないか…。これからも…。」

 「どうか…。貴方…。だけは…。死な…。ない…。で…。ね…。」


 ユックリと紡がれた言葉は…。

 その後を語ってはくれなかった…。

 

 雨がピタリと止んだ…。途端に僕の腕に夏希の重みが伝わってくる…。何度、呼びかけても夏希は眼を開けてはくれない…。絶望だけが僕を覆っていった。


 ギリッ。っと僕は歯を噛み締める。上空を視ると…。あの肉塊の化物は頭部をグニャリと卑しく歪めた。


 『嗤っているのか?』

 『何がそんなに愉しいんだ?』

 『何で御前…。嬉しそうなんだよ…。』

 心が叫ぶ。

 慟哭が僕を満たしていった。

 『殺してやる…。』

 ソレは殺意へと変わっていく。

 『殺してやる…。殺してやる…。』

 抑え切れない程の殺意だった。


 【生きたいか?】

 誰かが僕に問い掛ける。


 『もう僕に生きる意味は無いよ…。』


 【何を望む?】


 『僕はどうなったって良い…。命が欲しいならくれてやる。だから…。夏希を殺した彼奴に報いを…。』


 【ならば共に逝こう。私の手を取れ…。私の名は…。】


 

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