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八月九日。午前十時四十三分


 戦争は飢えと渇きの戦いでもあった。


 【空を無くす】で強化された瞳で確認出来る程の距離となった時、校舎屋上の一部が崩れ落ち、小学校の屋上に村人が集まっているのが解った。


 「どうなってるんだ?」

 淳弥が叫んでいる。

 「何が何だか…。」

 僕は言葉を並べようとしたのだが…。視界に映った異常事態に気付く。


 校舎の入口付近に、襤褸襤褸の服を纏った人間が複数いた。虚人うつびとなのか、近辺の村の住民なのか判断しようとして、瞳に意識を高めると…。その纏っている服に見覚えがある事に気付いた。四郎爺ちゃんが教えてくれた知識だった。かつて、此の世界で二度目の大戦があった頃、日本が大日本帝国と名乗っていた頃の軍服である。


 厭な予感が膨らんでいく…。観察を続けるとソレは、ある一定の方向から校舎へと向かっていた。次はそちらへと視軸をずらす。其処には四郎爺ちゃんの亡骸があった。亡骸とは云ったモノのソレが何であるかは当時の僕には解らなかった。【迷宮化】は七日で崩れ去り、その後は迷宮から化物が溢れ出す。


 「な…。何だ?」

 二人が同時に声を漏らした。


 四郎爺ちゃんは十字架に掛けられたかの様に地面から数センチ程、空に浮いている。その観音開きに左右に開かれた肋骨の奥、その奥で脈を打ちながらも右心房と左心房で切り開かれた心臓から、日本兵と思われる其れ等はユックリと産み堕とされていた…。


 その大日本帝国の軍服を身に纏う日本兵の顔は半壊している。銃剣を持ち、虚ろな眼で校舎へと迷う事無く進んでいく。


 何故?どうして?


 疑問符だけが空を行き交う。


 日本兵はユラユラと肉体を左右に揺らしながら…。み、水を…。と呟いていた。【戦争は飢えと渇きの戦いでもあった。】四郎爺ちゃんの声が記憶から這い出てくる。


 校舎の屋上の一部。夏希の【咎】【フェザー・ソング】の能力で激しい雨が激しい音と共に降下していた。


 「水を求めてるんだ…。」


 僕は校舎へと向かうべく、脚を向け駆けようとした時…。淳弥は云った。


 「水なら少し持っている。俺が彼奴等あいつらを引き付けるから御前おまえは行け。」


 淳弥は背負っていたリュックからペットボトルを取り出し…。水なら此処にあるぞ。と叫ぶ。すると日本兵は血走る双眸を淳弥へと向けていったのだった。

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