第7話 「心」で会話したい
クラウディアが双子のもとへ向かった時には、ちょうど日が傾き始めた時だった。
夏の終わりの少しひんやりした空気がカーテンを揺らしている。
「アクア様、レオ様……」
「なによ」
部屋に入って近づくクラウディアの足がその言葉で止まる。
彼女の「拒絶」を含んだ声とこちらを睨んでいるレオの視線を受けたから。
(やっぱり、私に心を閉じてしまっている……こんな時はまず相手の……)
そこまで考えをあれこれと巡らせた時、クラウディアは思考を止めた。
そして、今考えた自身の考えを振り切るように首を左右に振る。
これまでの彼女であれば、今のように相手の心理を考え最適な答えを探し出していたのだ。
しかし、今日の彼女は違った。
ジベルから聞いた二人の過去が彼女の心を動かし、二人には「心」で会話したいと考えた。
彼女はアクアとレオから少し距離をとったところで二人の視線に合わせるように膝をついた。
クラウディアのその様子にアクアは驚く。
彼女たちと距離をとったところから、クラウディアは床に頭をつくほどに深く謝罪した。
「なっ! なにしてんのよ、あなた!」
「アクア様、さっきはせっかく作ってくださったクッキーに毒が入っていることを疑ってしまい、申し訳ございませんでした」
その言葉はあまりにストレートでアクアの心に刺さる。
「アクア、聞かなくていいよ、この人の……君を疑う人の言葉なんか」
レオは姉の耳を塞ぐと、彼女をクラウディアから守るような視線を向ける。
(やっぱりレオ様の「恐れ」が明確に「敵意」に変わった。最初に見えた内気な雰囲気とは違う。きっとこれは姉のアクア様を守りたい一心から……)
レオに耳を塞がれながらアクアの気持ちは揺らぎ始めている。
すると、アクアはレオの手を外して口を開く。
「アクア……?」
「レオ、私なら大丈夫。クラウディア、あなたはどうして謝ったの?」
アクアは真っ直ぐな瞳を向けながら、クラウディアの返答を待った。
クラウディアは頭を上げて、小さな彼女のまん丸い瞳を見つめながら言う。
「アクア様の心を傷つけたと思ったからです。私は自分が毒殺されかけた過去から人を疑ってしまう癖があります。でも、それでもあなた様が好意で差し出してくださったものをあんな風に疑っていいわけがなかった……ごめんなさい」
「毒殺……」
アクアはクラウディアがなぜ自分のクッキーに毒が入っていることを疑ったのかを知り、ショックを受けて俯いてしまう。
「アクア、もう行こう」
彼女をこれ以上傷つけたくないと思ったレオは、アクアの手を引いて部屋を出ようとする。
しかし、アクアはその手を離した。
「アクア……?」
「クラウディア、あなたは殺されかけたことがあったの?」
アクアの言葉にクラウディアは答える。
「……はい」
「あなたも家族も無事だった?」
「はい、私も両親も生きております」
その瞬間、アクアはクラウディアの胸に飛び込んだ。
「アクア、様……?」
「よかった。死んじゃったんじゃないかって思った」
その言葉を聞いた時、クラウディアはアクアの「心」を理解できた。
(もしかして、お母様を亡くされたから……だから、「死」に敏感なのかもしれない。自分たちだけじゃない。生きていることで安心してくださった)
そのことを理解したクラウディアは、自分の胸に飛び込んできたアクアの頭を撫でようとした。
しかし、その手を止めてそっと背中に回して言葉をかける。
「アクア様はお優しいですね。ジベルにノア様のことを伺いました。辛かった……と慰めるのは簡単かもしれませんが、それでもあなた方は頑張っていると思います。私なら、寂しくて泣きわめいてしまいます」
「ほんと……?」
「ええ」
そこで俯いて立っていたレオにもクラウディアは声をかける。
「レオ様が弾いていた曲はノア様がお作りになったものだと伺いました」
「そこまで聞いたの……」
「お母様も、そして殿下もいないのは不安ですよね。今の私ではあなたたちを見分けることはできないと思います。ですが、アクア様とレオ様と一緒に過ごしたいと思えました」
彼女の言葉にアクアとレオは目を合わせて、しばらくした後静かに頷いた。
そして、アクアが口を開く。
「あなたが私たちを見分けられるとは思ってなかったの。無茶苦茶なこといってどうするか見たかったの。試すようなことをしてごめんなさい」
(やっぱりこの二人は私を試していたのね。でも何のために?)
クラウディアがそう疑問に思ったところで、彼女はアクアに手を引かれる。
「さあ、おままごとするわよ。ほら、今度はレオも!」
「僕も!?」
(ああ、そうか。「心」で接していいんだ。疑うことなんてしなくていいのかもしれない。この子たちには真っ直ぐな気持ちで接したい……)
おままごとをしながらすっかり眠ってしまった三人を見つけたジベルは、白い髭を揺らして笑った──。
そして、翌日クラウディアが支度をして双子たちと共にリビングに向かうと、「彼」がいた。
「ライベルト殿下……!」
「久しいな、クラウディア」
行方不明だった旦那様は帰ってきていたのだ──。




