第4話 「敵意」と「恐れ」の瞳
「このお屋敷から出て行く……」
それは明らかな拒絶の言葉であり、クラウディアに心を許していないという証であった。
アクアの瞳の奥には「敵意」が潜んでおり、レオの瞳の奥には「恐れ」が見え隠れしている。
(出会って間もない双子の子どもを見分ける……かなり難易度が高い、いえ不可能に近いわね)
確率論ではなく、単純に彼女と双子の信頼度の問題である。
今日であったばかりであり、男女の違いはあれどまだ幼い子どもであり見分けるのはかなり難しい。
クラウディアはそう考え、一つの条件を提示した。
「わかりました。でも、私とあなたたちは会ったばかり。せめてあなたたちと触れ合う時間がほしいの。三日いただけないかしら?」
じっと彼女の言葉に耳を傾けて、アクアは考え込んでいる。
そして後ろに隠れているレオとひそひそと話し合うと、彼女はクラウディアに告げた。
「一日」
「え……?」
「一日だけなら待ってあげる。私たちはなるべくあなたといるようにする。これでどう?」
「ええ、もちろんです。お願いします」
アクアの返答にクラウディアはにこっと笑った。
しかし、背中に汗が流れていく。
(三日と提示すれば、二日は与えてもらえると思ったけど。意外と彼女らは厳しいわね。いえ……)
クラウディアはずっと気になっていたことに考えを巡らせる。
それと同時にさっきアクアがレオとひそひそと話し合っていた光景を思い出した。
(アクア様が表立っているけれど、恐らく二人の間で「頭脳」なのはレオ様のほう。彼は内気ながらも冷静に状況を把握して姉であるアクアに助言している。この二人は、「二人だからこそ」手ごわい)
すでに二人の観察を始めている彼女の様子に気づいたのか、レオはクラウディアに背を向けて去っていく。
「じゃあ、僕はもう行くから」
「あ……! 待ってください!」
クラウディアの制止も虚しく、彼は部屋を出て行ってしまう。
焦りの表情を見たアクアは、微笑みながら告げる。
「大丈夫よ、レオはピアノ部屋よ」
「ピアノ部屋……?」
「レオはピアノが得意なの。ほら」
直後に遠くからピアノの音色が響いてくる。
(すごい……)
旋律はとても細やかで繊細、流れるような心地よいリズム。
「綺麗……」
アクアの呟きがクラウディアの耳に届くも、彼女の感想は意外なものだった。
(綺麗だけど、悲しい旋律……何か心の中の虚しさが感じられる……)
その虚無感はどこから起こっているものなのか。
(母親がいないことへの悲しさ? それとも、殿下がいないこと?)
いくつもの可能性が考えつくが、まだ彼と言葉をほとんど交わしていない彼女にはわからない。
(耳に残る……切なさの理由を知りたい……)
クラウディアはレオへ思いを馳せる。
一方、アクアはというと無邪気な様子でクラウディアの手を取って引っ張った。
「うわっ!」
「ねえっ! 私とおままごとしましょっ! こっち!」
そう言って連れられたのは隣の部屋だった。
おもちゃやぬいぐるみがたくさんあり、カーペットの上には小さめのベッドやキッチンのようなものが置かれている。
(手作りのおままごとセット……)
貴族の家ではこうしたおままごとのセットが王都に売られている。
それを買って遊ぶのが大半の貴族の令息や令嬢たちの遊び方であるが、この子達は手作りのものを使用していた。
「これはね、ジベルが作ってくれたのよ」
「そうなのですね……」
クラウディアはアクアに告げられた後、アクアの手を確認してみる。
(やっぱり。手にわずかに傷がある。これは木の板や紙を切ってこれを自分で作った証拠。さっきまでそれをしていたのかしら。わずかに接着剤が腕についている……)
「さあ、あなたは私の犬ね!」
「犬……ですか……」
(人間じゃないんかいっ!)
クラウディアの心の中の声がアクアに届くことはない。
(ひとまず、何か二人を見分ける手がかりを探す。そのためにはアクア様とのおままごとを完璧にこなしてみせる!)
クラウディアが旦那様である『幽霊騎士』に7年ぶりに会うまで、あと23時間──。




