第2話 嫁いだら旦那様は行方不明でした!
婚約破棄されて嫁いだ先にて、すでに旦那様となる人が行方不明であった。
この事実を知らされて、クラウディアは執事長であるジベルに詰め寄る。
「殿下が行方不明とは、どういうことなのですか!?」
「それが、ミシール峠への遠征から戻られた翌日に急に姿を消してしまわれたのです」
それ以上は何もわからないといった様子でジベルは険しい表情をしている。
「叔父様は!? パトリシオ叔父様が殿下のお傍にいたはずでは!?」
「パトリシオ騎士団長も殿下についていったっきり、戻らないのです」
「そんな……」
ミシール峠の遠征は隣国との作戦の情報漏れを防ぐために内密におこなわれた境界線防衛であり、その指揮を執っていたのが『幽霊騎士』こと第二王子ライベルトであった。
彼は弱冠十六歳で初陣を飾り、それ以降一度も負けたことがない戦上手。
今回の遠征も見事に勝ったと叔父から手紙で聞いていたクラウディアだったが、まさかその遠征から一週間も経たず指揮官と側近が行方不明になるとは思いもよらなかった。
「殿下はお戻りにはなったのですよね?」
「はい……しかし、その三日後に『用がある』と言ってパトリシオ様と出たきり、お二人とも戻っておりません」
(なんてことなの……)
クラウディアは自分が嫁いだという事実よりも彼らの安否が気になり、ジベルに質問を続ける。
「ジベル、このことを陛下は?」
「ご存じです。しかし、殿下の捜索をするような素振りは……」
(どういうことなの……? 陛下は殿下が失踪なさったことについて何か知っていらっしゃる? それとも何かよくない陰謀が……)
現国王と王妃の間には第一王子ルイディードと第二王子ライベルトの二人の息子がいる。
社交界では「国王陛下は第一王子を次期国王にと考えている」と囁かれているが、芯が強いルイディードは何かと貴族院と意見の対立をしてしまっていた。
また昨今の王国弱体化の波も受けて、建国当時の強国に戻そうとしている強国推進派の貴族がライベルトを時期国王にと推す動きもある。
(もしかして、ライベルト殿下を推す勢力を削ぐために、陛下が何かしら策を……?)
クラウディアの脳内に内政紛争の構図が思い浮かぶ。
その紛争にライベルトと自分の叔父は巻き込まれているのではないか。
そのような推測がよぎり、クラウディアの表情はどんどん暗くなっていく。
(私の結婚を殿下が承諾したのは、失踪直前のはず。でも、本当に殿下が承諾した?)
確かにポール伝いで『幽霊騎士』とクラウディアの結婚が承諾されたと聞き、屋敷に赴いたものの、確かな証拠はない。
むしろその確認も兼ねて実際にこちらに足を運んだということもある。
(殿下と叔父様に一体何が……)
真剣な面持ちで考えている時、クラウディアの足に小さな男の子がしがみついた。
「お母様……?」
「え……?」
その子はうさぎのぬいぐるみを持って、クラウディアにすがるような目を向けている。
六歳くらいだろうか。
外はねとミルクティー色の髪にまん丸く青い瞳が目立つ、可愛らしい子どもだった。
「男の子……?」
困惑していた矢先、クラウディアの背中に誰かがのしかかった。
「うわっ!」
「えへへ! なに!? 新しいお母様ー?」
活発で明るい声を響かせたその子は、目の前にいる男の子と似た容姿をしている。
小さなドレスに身を包んだ女の子は、クラウディアの背中に飛びついた後、その場に勢いよく降り立った。
「お母様……?」
どういうことなのかわからずジベルに困惑の視線を向けると、彼は頭を下げて告げる。
「このお二人は、レオ様とアクア様で双子の御姉弟でございます」
「双子……」
「彼らはライベルト殿下のお子でございます」
「……へ?」
ジベルは手を胸に当てて答える。
「殿下に嫁いでいらっしゃったクラウディア様には、このお二人と共に過ごしていただきます」
(私、旦那様の顔も見ないままにこの子達の母親になるの……!?)
姉の影に隠れてじっと見つめるレオと、にっこりと笑って堂々と振舞うアクアの二人に見つめられて、クラウディアは動けなくなる。




