『トンゾウの速記』
掲載日:2025/10/12
佐平という腕のいい鉄砲撃ちが、宮の沢というところに鹿を夜撃ちに行ったが、この日に限って鹿の影すら見えない。もう夜明けになろうというとき、生き物の影が見えたので、そうっと近寄って見ると、四つ足なのに腕があって、顔が人間のような妙な生き物が、速記をしていた。佐平が腰を抜かしてじたばたしていると、その不思議な生き物が、佐平をじろっとにらんで、速記をしているときに音を立てるとは、とんでもないやつだ。この山へ来て騒ぐと、このトンゾウ様が許さんぞ、と低い声で脅すように言うので、佐平は逃げるように山を下りて帰った。周りの者にこの話をすると、それは、速記の創始者である田鎖綱紀先生ではないか、と言う者があったという。
教訓:たくさり、たんさり、たんざり、たんぞり、たんぞう、とんぞう、という変化だというのだが、相当に無理がある。




