それぞれの一日
ぱちりと目が覚める。
それと同時にスマートフォンから無機質な機械音が鳴り響く。
二度寝したい衝動を抑え、アラームを止めようとする。
何回か手は虚空を切って、ようやくスマートフォンを掴んだ。
ブルーライトの光に目を細めながら、画面をいじって音を止める。
寝ぼけまなこをこすりながら、こたつの上のペットボトルの水に口をつける。
春になって日の出もずいぶんと早くなったが、鍋島が起きたこの時間帯はまだ薄暗い。
水を飲み干し、寝る前に用意しておいたシリアルバーに口をつける。
ナッツのざくざくとした食感がするチョコレートのバーを噛む頃には目はハッキリと覚めていた。
時刻は5時。
早い時間に起きて、シリアルバーを食べることと300mLの水を飲むことが毎朝の日課であった。
顔を洗うために洗面台に行き、鏡に映った自分の顔をまじまじと見つめる。
少し睡眠が浅かったのか、目の下にはうっすらとクマができている。
人相の悪い目つきが、クマによってさらに凶悪に見える。
そんな自分とにらめっこしながら、短い髪を適当に整えて洗顔と歯磨きを済ませる。
寝間着からジャージに着替える最中に、今日の予定をぼんやりと頭の中で整理する。
(授業は午前に一つと午後二つ。塾はいつも通り夜の部で準備はしてある。急ぎの課題も予定もなし。よし)
前日に準備したカバンの中身を見て、今日必要な道具が全て揃っていることを確認してから玄関に向かう。
かかとがすり減ってラバーの一部が剥がれたランニングシューズを見て、そろそろ買い換えた方がいいなと思いながら靴ひもを結ぶ。
ドアを開けると段々と日が昇ってきたのか、薄暗い空が青紫色に焼けてどこか現実感のない色合いになっていた。
青と赤が混じり合ったようなぼやけた淡い光が、重々しく雲を照らしているこの時間が好きだ。
空気は澄んで、人の気配がなく、曖昧に色が変わり続ける空模様は毎日体験しても飽きることがない。
そう思いながら鍋島は深呼吸をする。
新鮮な空気が肺を満たし、もやのかかっていた脳が段々と明瞭になっていく。
軽くジャンプを数回繰り返して、走り始める。
走る距離は決めていない。
調子が良ければ20kmは走るし、気分が乗らなければ10kmも走らない日もある。
自身の筋肉や骨、内臓と会話するように確認しながら、その日その日の体調で距離を決めている。
鍋島のアパートの近くにある大きめの公園をグルグルと回り続ける。
コンクリートの上を、軽快にリズムを刻む。
摩那と並走したときとは比べものにならないペースで淡々と走り続ける。
体の調子はいいようだ。
特定の区間を全力で駆けたり、ゆっくりと大げさに体を動かしたりしながら確かめる。
いつもより自然と速くなったペースに、体調以外の要因を見つけて小さく笑いが漏れた。
(トラック、インハイ以来だったからな。昔を思い出してるのかもな)
足がうずうずとして収まりがきかない。
現役の頃に使っていたスパイクを見たせいもあるかもしれない。
まだ走り足りないと、体がそう訴えているようだった。
もっと速く、もっと長くと体が訴える一方で、頭は少し冷めていた。
(摩那さん、どうしようかなぁ)
自分はもう現役ではない。
いくら体が熱くなろうが、それを発散する舞台に上がる機会がない。
今も毎日走っているのはあくまで健康が目的であって、競技用の体作りはしていない。
現状を維持するだけの運動。
それが鍋島にとってのランニングだ。
だから優先されるべき思考は、自分ではなく摩那のことだった。
未来があって、目標がある少女の顔を思い浮かべる。
そして、昨日の摩那の走りを思い出して、気が重くなった。
釣られるようにずしりと体も重くなって、ペースが自然と落ちた。
摩那は100mで優れたタイムを叩き出した。
半面、その後に計った1000mは散々なタイムであった。
初めてなのだから仕方がないのだが、ペース配分というものがないのだ。
最初の一周を軽快に飛ばしたかと思えば、残りはヘロヘロになって走っていた。
『ひぃ、ひいっ、1000mって、長いですね、コーチ』
『最初から全力で走ったらそうなるに決まってるでしょう』
『でも、これが一番速く走れる方法じゃないですか?』
『100m世界最速の人間がマラソンを走ったら一時間ちょいで走れる理論はやめてくださいよ。無酸素運動の限界は40秒前後って決まってるんですから、もっと抑えてください』
覚悟はしていたが、リズム感の欠如がここまで足を引っ張るとは思っていなかった。
リズム感がないから、ペースを作れない。
ペースを作れないから、適切な体力配分ができない。
短距離なら体力配分などできずとも問題ないが、中距離ではそれは許されない。
摩那のイケイケな性格と合わさると、柔軟なレース運びというものは期待できないだろう。
陸上の世界は想像以上に駆け引きがある。
タイムを競い合う前に、人と人の対戦なのだ。
意図的に遅いペースを作り出したり、無謀なほど早いタイミングで仕掛けたり、様々な要因でレースは形成される。
瞬く間に変わるリズムに、摩那が適応している姿は想像できなかった。
(気が進まないけど、スパルタに教えるかぁ)
適応が見込めないならどうするか。
その答えは簡単だ。
適応しなければいい。
レースは駆け引きであるが、駆け引きをぶち壊す方法が一つだけあるのだ。
それを習得できるかどうかは摩那次第だが、勝ちたいと思うなら覚えてもらうしかない。
楽しく走りたいと願うだけだったならば、時間をかけてフォームを修正すればいい。
ただ、それだと摩那のオーダーに完全に応えることはできない。
勝利を希望しているのだ、それ相応の努力は摩那にもしてもらわなければならない。
左手首に巻いたGPSウォッチの機械音で我に返り、足を止める。
ディスプレイを見ると18kmと表示が浮かんでいた。
考え事をしている間に、だいぶ走ったようだ。
ポタリと垂れる汗がアスファルトに吸い込まれていくのを少しだけ眺めてから、しっかりと呼吸をするために空を仰ぐ。
曖昧だった空の色は今はハッキリと青く染まって、太陽が高く昇り続けている。
息を整え、水道水で少しだけ喉を潤して家にクールダウンをしながら戻る。
(座学を一度入れて、あとはひたすら実践だな)
摩那への指導方針を改めて決める。
結局のところ、走る能力は走ることでしか身につかない。
怪我だけは十二分に気を付けて、練習をつけていくしかないのだ。
日課のランニングの様子を見るに、摩那は繰り返すことで体に覚えさせたことしかできないタイプだ。
大会までの短い期間で覚えられるかどうかは怪しいが、それでもやるしかないだろう。
そう考えながらゆっくりと走っていると、自分のアパートが見えてきた。
特徴のないどこにでもあるような二階建てのアパートだが、今は少し様子が違った。
鍋島のドアの前に人がもたれかかっている。
おでこをくっつけてぐったりと全体重をドアに預けている人影を見て、大きくため息をついた。
少し走る速度を上げて、その人の元へと駆け寄る。
ベリーショートの髪型はぼさぼさで、健康的な小麦色に焼けた肌が寝息に合わせて揺れている。
その肩を揺すって小声で話しかける。
「立花さん、起きてください」
「ぁ?」
「毎度毎度、俺の部屋の前で寝落ちするのやめてください。心臓に悪い」
「......ハジメ、汗臭い」
「張り倒すぞ」
「んぁー、いいからメシぃー」
「朝飯ぐらい、自分で用意しろよ」
「メシぃ」
「あー、もう。分かったから、早く起きてくれ」
揺すってもしっかりと起きることはなく、締まりのない口調で立花はご飯の催促をしてくる。
それに思わず砕けた口調になるが、これは昔の癖だ。
立花は一つ上の先輩であるが、同時に幼馴染でもある。
地元の家の近くでは年が近い子どもがおらず、ガキ大将気質であった立花にはよく振り回されていた。
鍋島は主体性のない人間であったから、振り回されることが決して嫌ではなかった。
高校も大学も立花が誘ってきたという理由で決めたし、今のアルバイト先の塾も立花の紹介だ。
それだけ付き合いが長いにも関わらず、敬語で話しているのは周りの目が面倒くさいからだ。
年の近い男女が、親しい様子であればそう言った関係だと周りが邪推するのは仕方がないことだとは思う。
少しでもそういった誤解の目を減らそうと思って、いつの間にか人前では丁寧な口調で話すようになったのだ。
それでも今のように二人きりのときは、昔のようにため口になってしまうことがある。
自分で立とうとしない立花に肩を貸すと、とても嫌そうな声が聞こえてきた。
「くっせぇー。汗かきすぎだろぉ」
「リッカも運動した方がいい。太っただろ」
「女はちょっと肉付きがあった方がいいんだよ。可愛らしいだろう?」
「肉付きがいいと太ってるはイコールではないと思うが?」
「こまけぇ男はモテねぇぞ。ほら、さっさと鍵開けてくせぇ汗流してから飯作ってくれよ。あ、焼き鮭となめこの味噌汁がいいな」
「要望が多いんだよ......」
鍵を開けると、立花は勝手知ったる他人の家といった様子で部屋に入っていく。
当たり前だ。
同じアパートの棟に住んでいるのだから、間取りが変わるわけがない。
立花の勧めで住むアパートを決めたのだが、今は少し後悔している。
部屋が近いせいでご飯はねだられるし、車を持っているから都合のいいように足代わりに使われる。
その分の金はもらっているし、大学での人付き合いを助けてくれたりしているので文句は強く言えないが、年頃の女がこれでいいのかと思わなくはない。
シャワーを浴びて着替えた鍋島が見た光景は、鍋島の寝袋にくるまって寝ている立花の姿だった。
彼氏とかできたらどうするんだろうか。
生活能力の低い立花を横目に、鍋島はご飯を作り始めた。
この後の大学も、彼女にいいように使われることを思うと少し億劫であった。
いつものことといえば、それでおしまいなのだけど。
今日もまた、変わり映えのない一日が始まるのだろう。
……いや、変わり映えはするか。
悩みの種が、一人分増えたのだから。
***
「お母さーん! 行ってくるねぇー!」
「いってらっしゃ~い」
玄関からキッチンにいる母に向かって叫ぶ。
気の抜けたお母さんの声が返ってきたのを確認して、玄関から外に出た。
私はいつも高校への通学は自転車を利用していたけれど、今日からは歩いて通うことになった。
いつもよりきつく結んだ靴ひもが、足の甲に強く感じて違和感がある。
それに、自転車の時は気にならなかったが、スニーカーは歩くにはクッションが薄いのか足裏に感じる石がやけに気になる。
不慣れさに戸惑いながらも、通学路をのんびりと鍋島コーチの言いつけを思い出しながら歩く。
『普段から体の使い方を意識してください。例えば、歩くときとかですね。綺麗な歩き姿は綺麗なフォームにもつながります』
『体の使い方って、何を意識すればいいですか?』
『......とりあえず今は、姿勢を良くしておいてください。次までに何か考えておきます』
苦しげに呻いたコーチの顔を思い出して、くすりと笑う。
きっと、腕の振り方や足の動かし方など、言いたいことはいっぱいあったのだと思う。
ただ、運動音痴な私が一人でできそうなことはその場では思いつかなかったようだ。
必死に絞り出した言葉は、幼児でもできそうな内容で少しおかしかった。
(明日からはランニングシューズで登校しよう)
そう思いながら軽い足取りで歩き続ける。
明日から。
次までに。
今までは漠然とただ体を動かすだけの日々であったが、もう違う。
行動した自分がいて、教えてくれる人がいる。
明確な目標ができて、その道筋を支えてくれる人がいる。
不機嫌そうな表情の男性の顔を思い浮かべ、また笑いがこぼれる。
まだ短い付き合いだが、私はコーチをいい人だと思っている。
ひどいことを言うしあまり笑わないし気を許してはくれないし、言いたいことはたくさんたくさんある。
それでも、ありのままの私を見て、等身大の姿で接してくれることが嬉しい。
私がどうしようもないほど運動音痴であることは、十分に自覚している。
子どもの頃からずっと、体育の時間では誰も組みたがらずにずっと余ってきた。
学校の先生から、『運動なんてできなくても生きていける』と謎の励ましを受けたことすらある。
誰も私と運動を結び付けたがらないなか、コーチは違った。
楽しみながら、勝つ。
私はまだ子どもだけど、夢だけを見るほど幼いわけではない。
世界の厳しさもなんとなくは理解しているつもりだ。
そんな私でも甘えたことを言ったと思っているが、コーチは私の願いを受け入れてくれた。
その道は険しいと、辛いと忠告するだけで否定はしなかった。
それが、私にはとても嬉しかった。
私の周りには、私が運動することを肯定してくれる人はいなかった。
私が走りたいと言うと、兄は無言で首を振り弟は腹を抱えて笑った。
母は口にこそしなかったが、心配そうに私を見つめていた。
だから、金銭で得たつながりでも、コーチが私に真剣に陸上を教えてくれることは何にも代えがたい喜びであった。
「ふんふーん」
できもしないスキップなんかしてみたりして、住宅街を抜けて市街地に入る。
この辺りになると人通りも増えて、似たような制服を着た学生や足早に歩くスーツ姿の人が多くなる。
交通量の多い交差点には軽い人だかりができて、その中には私と同じ制服の人の姿も見えた。
「おや、摩那っちじゃん。朝から機嫌いいね」
「ゴウちゃん、おはよう!」
人だかりの中、一人の女子が私を見つけてゆっくりと寄ってきてくれた。
目を隠すように伸ばした前髪が特徴的なクラスメイトがそこにいた。
私と比べて身長は小さいが、体にメリハリがあってゴウちゃんの方が女の子らしい体型だ。
……私も大きくなるように食生活には気を付けているのに、どうしてこんなに一本線のような体なのだろう。
じろじろとゴウちゃんの姿──主に胸──を見るが、その不躾な目線には慣れているのか反応はない。
「そんだけ機嫌がいいってことは、例のコーチかな?」
「うん、本格的に練習始めたんだ! 見て、もも上げ教わった!」
「同じ側の手と足が出てるじゃん」
「姿勢は?」
「めっちゃ綺麗。動きちぐはぐなのに姿勢がいいから脳がバグる」
「姿勢がいいならいいんだよ!」
「えぇ……まぁ摩那っちは確かにそのレベルか」
「あ、私を低く見積もってるでしょ。ゴウちゃんも運動できない仲間なのに」
「私は運動欲求無いから。漫画とアニメがあればそれでいいのさ」
隣を歩くゴウちゃんも実は運動音痴で、高校に入ってからはよく二人して体育で余っている。
彼女の場合、センスがないというよりも体力がないから動けないタイプだ。
学校に行く以外では滅多に部屋から出ないらしく、50分しかない体育の授業が終わる頃には死にそうになるほどの貧弱さだ。
いつも余りものでペアを組んでいるうちに、クラスで一番仲良くなったのだ。
他愛もない日常会話をしながら通学路を人混みの中歩き続ける。
人混みを歩くのが苦手な私と体力がなく速く歩けないゴウちゃんが二人でいると、段々と人混みから置いていかれる。
歩きスマホをしながらもぶつかることなく群れて動く人混みは、何度見ても不思議だ。
学校に着く頃には、たくさんいた人数はまばらになっている。
グラウンドに、朝の練習を終えたであろう生徒たちが談笑している姿が見えた。
私が普通であったなら、きっとあそこで混ざっていたのだろうか。
一瞬そんなことを思ったが、それはないだろうなと首を振る。
だって、私はクラスでも浮いているのだから。
(今日は、ありませんように!)
昇降口に着いて、一呼吸入れてから自分の下駄箱の蓋を開ける。
パラリと落ちた一枚の便箋を見て、吸った息を深く吐いた。
願いは届かなかったようだ。
「またラブレター? 摩那っちはモテるねぇ、髪バッサリ切ってから何通目?」
「わかんないけど、嬉しくないなぁ。断るのも大変なんだよ?」
「わはは、告られたことねぇから分かんねぇ悩みだ。いつも断る前提なのはなんでなんだ?」
「だって、よく知らない人と付き合うの怖いもん」
「うぶだねぇ」
スマートフォンが当たり前の今の時代に、どうして人目につくようなラブレターを書くのだろうか。
いや、ボタン一つで気持ちが伝わる今だから、逆に手間暇をかけたいのか。
うーん、私はあまり恋愛感情がないから、分からない感覚だなぁ。
差出人を見ても、話したことのない男子の名前が書いてあるだけであった。
「今度は誰よ?」
「三組の今井君だって」
「あー、あの人気者の」
「知ってるの?」
「知らん人のが少ないだろ。バスケ部のエースで、学年一のモテ男だよ。ご愁傷様、また敵が増えるな」
「うぅ、私は皆と仲良くしたいのになぁ」
「顔が良いのも考えもんだなぁ」
貰った情報に顔を歪める。
私がクラスで浮いている理由は一つだ。
他の女子からの嫉妬だ。
自分では欠点にしか思えない運動音痴も、男子からしたら愛嬌に見えるらしい。
ゴウちゃん曰く、『顔が良くて家柄が良くて運動が苦手なちょっと抜けてる女の子、モテる要素ばっかだな、あざとい』らしい。
抜けてるつもりはないのだが、ゴウちゃんが言うのだからそうなのだろう。
クラスの男子はけん制し合っているのかあまり仲良く話してはくれないし、女子は敵意の目で見てくるから行事以外で会話をすることはない。
なにしろクラスで一番カーストの上にいる女子から嫌われているのだ。
「残念なことに姫井も好きだったな。元カノが三年の先輩だって言うし、上級生にも目を付けられるかもな」
「......なんでゴウちゃんは私と同じで浮いてるのに、そんなに人のことを知ってるの?」
「わはは、摩那っちが知らなすぎるだけだよ。教室にいたらいくらでも聞こえてくるだろ。あいつら声大きいんだから」
「私、教室ではずっと本読んでるからなぁ、何も知らないや」
姫井さんは、同じクラスの陸上部の女子だ。
私が運動音痴を発揮して備品を壊している横で、将来のエースとして顧問から直接声を掛けられていたのを覚えている。
かたや入部拒否、かたや全国大会出場。
どうして同じ人間でここまで差がつくんだろうなぁ。
高校生にとって、全国大会出場という肩書はとても大きい。
本人の勝気で明るい性格もあって、姫井さんはクラスの中心人物になっている。
遠足や文化祭などの行事には積極的に参加し、どのグループにも顔が効く女子。
そんな相手に、私は目を付けられているのだ。
私が何かしたならいざ知らず、一方的に嫌われるのは少し心にくるものがある。
朝の楽しかった気分はどこかに消えて、憂うつな学校生活が始まろうとしていた。
(早く、コーチと練習したいなぁ)
頭上で響くチャイムを聞きながら、もう一度大きくため息をつく。
私にはため息をつく癖はなかったはずなのに、今は自然と出てくる。
コーチからうつったのかな。
告白を断ることや周りからの視線を考えると嫌な気分になるが、それでも姿勢だけはピンとして教室のドアを開ける。
せっかくもらったアドバイスを、無駄にはしたくない。
できることは、精一杯やろう。
それがきっと、楽しさと結果につながると思うから。
評価、感想、誤字指摘等していただけると嬉しいです。




