楽しむと勝つということ
「ひっーひっひ! ハジメお前、金に釣られてOK出したのかよ!」
「なんというか、真面目な割には俗っぽいよね。鍋島君」
「......まだ了承はしてません。塾長の許可が必要だと思ったので。それに、家庭教師なのに勉強じゃなくてスポーツを教えるってありなんですか?」
「向こうが望んでいるんだからいいんじゃない?」
「雑ですね......」
摩那への訪問を済ませた後日、鍋島は一度塾長に相談をしようと塾に足を運んだ。
今日は授業がない日だから、塾の二階に自室を構えている塾長以外はいないはずなのに、なぜか立花がいた。
こんがりと日焼けした肌に、耳の上まで刈り上げたベリーショートの髪型、コロコロと変わる表情を持つ鍋島の一つ年上の女性だ。
鍋島をこの塾へと誘った人間でもある。
立花をのけ者にするわけにもいかず、昨日の顛末を二人に話す。
鍋島の話を聞き終えると、塾長は苦笑し立花は腹を抱えて笑っている。
「それで、鍋島君は受けたいのかい?」
「正直に言って、受けたくはないです」
「なんでよー、二倍も金くれるんだろー。アタシが変わってもいいんだぞー」
「立花さんは黙っててください」
「ぶーぶー」
立花さんは抗議の声を上げながらも、飽きたのか自分の机に戻ってプラモデルの制作に勤しみ始めた。
……休みの日に、どうして塾でプラモデルを作っているんだこの人は?
そう疑問に思ったが、塾長の声で我に返った。
「どうして受けたくないんだい? こう言っちゃあれだが、おいしい話だと思うよ?」
「金額に不満があるというわけではないんです。ただ単純に、陸上を教えられる気がしません」
「鍋島君は確か、高校までは陸上部に入ってたんだろう? それなら指導できるんじゃないか?」
「アタシの後輩でーす」
「部活レベルの指導力で、お金を貰うのは気が引けるというか。勉強なら教科書に沿って教えていけばいいですけど、スポーツは違いますから」
「全国まで出ておいて、自信のないやつだなぁお前は」
横から飛んでくる立花の声を無視しながら、鍋島はあまり乗り気になれない理由を考える。
競技のキャリアだけでいえば、鍋島はベテランと言っても過言ではない。
初めて陸上のトラックで走ったのは小学校三年生の時だ。
仲の良い友人が、大会に出たいが一人だとつまらないと言うから一緒にエントリーしたのだ。
土ともコンクリートとも違うトラック特有のゴムの感触を、初めて足裏が捉えた日は今でも鮮明に思いだせる。
それから中学高校と陸上競技部に所属し、卒業するまでの十年間毎年大会に出続けてきた。
ただ、言ってしまえばそれだけのことだ。
中学も高校も、野球とバレーの強豪校ということで陸上部は常に少人数しか集まらなかった。
やる気のある教師が顧問になるわけでもなく、鍋島の練習は常に自分で考えたメニューをこなす日々であった。
誰かの指導を受けたわけでもない自分が、適切な指導を他人にできる自信がなかった。
お金を貰う価値のある、コーチングができるかどうか。
一度陸上競技を捨てた自分に、教えるだけの資格があるのかどうか。
面談した時に見た、摩那の笑顔が脳裏に浮かぶ。
家庭教師に頼んでまで走りたいと願うのだ。
何かしらの事情があるのだろう。
それに、応えられる自分であるとは、鍋島には到底思えなかった。
塾長は少し考えるそぶりを見せてから、首をひねりながらこちらを見た。
「んー、そんなに悩む必要はないと思うけどね」
「どうしてでしょうか?」
「君がいいと向こうが望んでいるからだね。多分、陸上を教えてほしいという願いは本当だろう。ただ、相手が誰でもいいというわけじゃない。鍋島君じゃなきゃダメな理由があるから、相場よりも出して君に教えてほしいと言うんだ。それ以外の理由は、求められていないと思うよ」
「......」
「ま、こちらとしては無理強いはしないよ。そもそも、家庭教師自体この塾ではイレギュラーなことなんだ。鍋島君が嫌なら、私から断りを入れようか?」
「……いえ、それは結構です。もう少し考えたいので」
深くため息をついて、天井を見上げる。
受けるにしろ、断るにしろ、もう一度摩那と話す必要がありそうだ。
ひどく力の入った摩那の顔が思い浮かぶ。
あれだけ緊張していた理由を、自分はまだしっかりと聞いてはいない。
判断はそれからでも遅くないだろう。
そう考えていると、笑みを浮かべた塾長が一枚の紙を引き出しから取り出した。
「はい、これ。契約書ね。相手の保護者と本人のサイン、印鑑だけもらってくれればあとはこっちでやるから」
「契約するとは一言も言ってませんが?」
「鍋島君は契約するよ。断れなさそうな顔をしていますから」
「どんな顔ですか、それ」
「ははっ、押しに弱い人間の顔だよ。優しいと言ってもいい」
「最初から優しい顔って言ってもらった方が嬉しかったですね」
そう言われてから自分の顔にぺたりと触れる。
可愛げのない顔だの目つきが鋭いだの言われたことはあるが、押しに弱いと言われたのは初めてであった。
「話終わったー? 飯行こうぜ、飯。ハジメが運転な」
「おや、それは私もご一緒してもいいものですか?」
「持ちのロンっすよ。美味しいラーメン屋見つけたからさぁ、斉藤さんも気に入ると思うぜ」
いつの間にか席を立っていた立花が鍋島の肩を組んでくる。
背中に当たる柔らかい感触に少し鼓動が跳ねるが、彼女の距離感の近さは今に始まったことではない。
後ろを振り向くと、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべた立花が立っていた。
こういったいたずらをしかけては、反応を見て楽しむのが彼女の癖だ。
これは、何を言ってもからかわれる流れだ。
鍋島の嫌そうな顔を見て、立花の顔が楽しそうに歪む。
何か言おうとして口を開いたが、結局ため息しか出てこなかった。
「お、なんだなんだハジメちゃんよ?」
「......はぁ、ラーメン代、出してもらえるなら行きます」
「いいよいいよ、って斉藤さんが言ってる」
「まぁ、それぐらいなら全然出しますよ。普段から塾の力になっていただいてますから」
「塾長は少し立花さんに甘すぎますよ」
「ハジメもアタシを甘やかしていいんだぜ?」
「死んでもお断りします」
「ひっひっ、相変わらずつれないなぁお前は」
立花に肩を押され、塾長が笑いながらその後ろを付いてくる。
……この人、最初から塾長にご飯をたかるつもりだったんじゃないだろうか。
車のキーを手元でいじりながら、そう思った。
***
後日、鍋島はまた上條宅へと足を運んでいた。
時計を見ると、もうすぐ16時になるところだった。
指定された時間より、少し早い。
鍋島には、約束の時間より十分は早く行動する癖がある。
これは、鍋島が真面目な性格だからというわけではない。
決められた時間に集合場所にいないと失格になる陸上競技に、長年身を置いていた時の癖が抜けていないだけである。
(どうしたものか)
手持ちぶさたにGPSウォッチのディスプレイを叩きながら考える。
予定より早い時間に家に上げてもらうのは迷惑な気がするし、かといって家の目の前で立っているのも不審者だと勘違いされかねない。
適当に、辺りをぶらついていようか。
そう思った時に、だんだんとシャーッとチェーンが回る音が大きく聞こえてきた。
「あれ、鍋島コーチ! 早いですね!」
「すみません。思ったより早く着いてしま──」
摩那の声がした方を向いて、言葉が止まる。
スラックスを履いた制服姿の摩那が、自転車に跨ったまま鍋島の横に止まる。
二の句が継げない鍋島を見て、小首をかしげて顔を見つめてくる。
姿勢が良く、女子にしては背の高い彼女がサドルから腰を上げる。
ズボン姿だからだろうか、スラッとした起伏の薄い体つきの摩那は、プリンスといった雰囲気を醸し出している。
顎のラインで切りそろえた明るい茶色の髪が揺れる。
「どうしました、コーチ?」
「あの、髪、どうしました? 短くないですか?」
「切りましたよ! 普段のランニングの時は後ろで結っていたんですけど、さすがに長いから切った方がいいかなって! 教わるなら、しっかりしたいですから!」
「そ、そうですか......」
「運動用の服とか靴とか、色々新調したんですよ! あとで、見てくださいね!」
摩那の発言に、冷や汗が背中を伝う。
つい先日まで腰まで伸びていた髪ははるかに短くなり、うなじが春の日差しを直に浴びている。
大人しそうに見えた令嬢は、どうやらお転婆な性格のようだった。
今、家庭教師の件はなかったことにしたいと言えば、摩那はどんな顔をするのだろうか。
それを切り出す自分の顔は、どれだけ歪んでいるのだろうか。
……とても、その姿を想像することはできなかった。
「今日からもう走りますか?」
「......今日は、方向性の決定と、座学にしましょう」
「わかりました。あ、先にリビングまで上がってください! 私はお茶入れてくるので!」
「はい、お邪魔します......」
結局、自分はNOと言えない日本人らしい。
塾長の言葉を借りれば、押しに弱い人間だ。
全身で熱意をアピールしてくる摩那に対して、鍋島は圧倒されるだけであった。
軽やかに歩く摩那の後ろに続いて玄関を上がる。
話を聞いてから、自分の手に余るようであれば断ろうと思っていたのに、すっかりその気は無くなってしまった。
前回案内されたリビングに足を運び、誰も見てないことを確認しソファに深くもたれかかる。
体を包み込むように柔らかいソファが、抜け出すことのできない底なし沼のように鍋島には感じられた。
依頼を頼むくらいだ、意欲は十二分にあるのだろうとは思っていた。
ただ、甘く見ていた。
ここまで本格的に陸上競技に取り組む姿勢があるとは、露ほども考えていなかった。
それゆえに、余計に不思議だ。
どうして、部活動に所属していないのか?
家の様子や報酬の気前の様子から、金銭的な問題があるわけではない。
摩那のハキハキとした性格からして、なにかしらのスポーツコミュニティに所属していた方が自然に思える。
(いじめとか暗い理由じゃなきゃいいけど)
学校ではいじめられて居場所がない、想像力に欠けた脳みそはそれぐらいしか思いつかなかった。
ぼんやりと虚空を見つめていると、お盆にお茶を載せた摩那がキッチンから出てきた。
湯気の立つ湯のみを鍋島の前に一つ置くと、もう一つを持って対面に摩那が座る。
「おかわりが欲しかったら言ってくださいね!」
「ありがとうございます」
「それで、座学はなんとなく分かるんですけど、方向性の決定って何をするんですか?」
湯のみを両手で握った摩那が尋ねる。
熱いお茶をゆっくりと啜り、思考を切り替える。
どんな理由があるにしろ、給料はいただくのだ。
自信がなかろうと気乗りしなかろうが、その分の仕事は果たさねばならない。
オフになりかけていた気分を、仕事中のものへと切り替える。
教えるのが勉強だろうがスポーツだろうが、やることは変わらない。
目標に向けて、正しい努力を。
それを支えるのが鍋島の仕事だ。
まずは、適切な目標設定からだろう。
「摩那さんは、何かしらスポーツの経験はありますか? 体育とか普段の運動ではなく、競技としてのスポーツです」
「それはありません。体を動かすのは好きですけど、順位がでるようなスポーツはしてないです」
「そうですか。ではまず、そこから決めていきましょうか。競技として取り組むか、レクリエーションとして取り組むか」
「と、言いますと?」
「簡単に言ってしまえば、楽しくやりたいか、順位を目指したいかの違いですね。自分のタイムを速くすることに集中するか、大会で順位を狙うか、どちらの方が摩那さんのやりたいことに近いでしょうか?」
「うーん、どちらかと言えば、コーチみたいに競技には出たいですけど......」
鍋島の質問に対し、摩那は眉間にしわを寄せて考え込む。
難しいことは聞いていない。
楽しくやるか、本気で取り組むか、それだけだ。
悩んでいた摩那が、おずおずと小さく手を上げる。
「あの、分からないんですが。タイムを速くすることと、順位を狙うことは一緒じゃないんですか? 速くなるから、大会でも勝てるようになるんですよね?」
「違いますよ。タイムを速くすることはそれ単体で完結しますが、順位を目指すにはタイムが速くなるものを選ぶ必要があります」
「えぇっと……すみません、よくわかりません」
「勝つためにつまらないことでもできるかどうかです。適性と楽しめることが一致するとは限りません。競技の世界は結果が全てですから、結果の為に己を投げ出す必要が出てきます。短距離がやりたくても、長距離の方が体が向いている。そういった場合、どちらを優先するかということですね」
陸上競技に限らず、スポーツではよくある話だ。
本当は投手がやりたいが、優れた守備のセンスと打撃の才能がある。
本当はストライカーになりたいが、抜きん出た反射神経と恵まれた体格はゴールキーパー向きである。
楽しみたいだけなら、投手でもストライカーでもやりたいものをやればいい。
ただ、勝ちたいとなると話は別だ。
好きなことよりも、勝てるものを選ぶ。
求められることを淡々とこなし、自分を磨く行為。
それはとても息苦しく、果てがない。
報われるとは限らない努力を、どれだけ積むことができるか。
競技の世界は、そういう世界だ。
楽しみながら勝てる人間など、一握りの天才たちだけだ。
それならば、最初から楽しむことに意識を向けていた方が精神的にはいい。
「自分のやりたい種目を、楽しみながら順位を目指すというのはダメなんですか?」
「ダメとは言いませんが、辛いですよ?」
「辛いんですか?」
「楽しみたいと思っていれば結果が出なくても気にならない。勝ちたいと思っていればきつい練習も耐えられる。だけど、両方を求めるとなると、精神が追い詰められる。楽しくもないし、勝てない。そういう日が必ず来ます。楽しみながら勝つというのは理想ですが、現実はそう甘くない」
「へぇ、シビアですねぇ。鍋島コーチもそうだったんですか?」
「……いえ、自分は勝つことにしか興味がなかったから、そこまで苦しくなったことはないですね」
「ストイックなんですね」
「そんな高尚なもんじゃないですよ。一位になりたいから、それ以外のものを切り捨てただけです」
過去の自分が脳裏をよぎる。
順位だけにこだわっていたあの頃の自分。
結局、負けて終わってしまったあの日の自分。
練習を苦しいと思ったことはない。
それが順位に、結果につながることなら辛い練習でも耐えられた。
楽しい、そう思ったことはなかった。
……あれ、自分はなんで、走ってたんだろう?
結果も出ず、楽しくもない行為に、何の意味があったんだろう?
思考の渦に囚われた鍋島の耳に、摩那の明瞭な声が響いた。
「うーん、やっぱり私、楽しみたいです! でも、走ってる途中で勝ちたいって思うようになると思います!」
「......」
「私が憧れた人たちは、そういう姿だったから。きっと、私もそうなると思います!」
「そういえば、前に私の走りを綺麗と言ってくれましたね。会ったことがありましたか?」
「いえ、一方的に見てました。一昨年のインターハイは、うちの県で開催されたじゃないですか。兄が出てたんですよ。鍋島コーチと一緒に走ってましたよ」
「......覚えてないですね」
「兄は予選落ちでしたからねぇ、印象には残ってないかも。鍋島コーチは決勝まで進んでましたよね。格好良かったです」
じゅぐと胸が痛む。
決勝には進めたが、自分は一位にはなれなかった。
競技において、一位以外に価値はない。
一位以外は、等しく敗北者だからだ。
負けた過去は、未だに胸の奥で癒えない傷となっている。
かさぶたを剥す痛みに、自然と表情が硬くなる。
「あの日見た皆の、鍋島コーチの走りがずっと頭にあるんです。私もああなりたいって、ずっと思っていたんです」
「それなら、部活に入ればいいのでは? 家庭教師より安上がりで、競い合うライバルもいる」
「そうなんですけどぉ、その、笑わないでくださいね」
ずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
高校生ならば、わざわざ金を払ってまで人に教わらずとも部活に入ればいい。
教えてくれる顧問に当たり外れはあるかもしれないが、競い合う仲間や指導してくれる先輩がいる環境は貴重だ。
自分に頼むより、よほどいい。
そう思っていると、ソファから立ち上がり机に身を乗り出した摩那が、鍋島の耳元で小さく囁いた。
「私、運動音痴なんです」
「......はぁ」
「部活、体験入部で追い出されちゃいました」
「............はぁ」
摩那のカミングアウトに、頭がくらりとした。
追い出されるほどの運動音痴、それは、一体どういったレベルなのだろうか。
鍋島の周りには極端な運動音痴はいなかったから、あまり想像がつかない。
逆上がりができないとか、そういったレベルではないのだろう。
「そんなわけで、部活やクラブには入れないんです。なんとかなりますかね?」
「できる限りの力は尽くします......」
「そんな重症患者みたいに扱わないでくださいよ!」
「部活から追い出されるのは重症ですよ。なにしたんですか」
「うっ......黙秘権を行使してもいいですか?」
「本当に何したんですか......」
「こほん! それは置いといて、私、楽しく速くなりたいです! これが私の目標です!」
そう宣言した摩那は力強く立ち上がり、鍋島に向かって手を差し出す。
活気に満ちた、透き通るような琥珀色の瞳が鍋島を捉える。
「よろしくお願いしますね! 鍋島コーチ!」
「......えぇ、頑張りましょうか、摩那さん」
鍋島はためらいがちにその手を握る。
楽しく、速く走る。
それを教えられる自信は鍋島にはない。
順位を目指す以外の走りを鍋島は知らない。
勝つための努力はいくらでも分かるが、楽しむための努力とは何をすればいいのだろうか。
途方に暮れる鍋島の手を、摩那が力強く握り返してきた。
「そういえば、太一にしているみたいに、私も呼び捨てでいいですよ」
「いや、気安くないですか?」
「いいじゃないですか、私とコーチの仲ですよ」
「まだ会うのは二回目なんですが」
「あ、敬語もやめてほしいですね。太一にはもっと砕けた口調で話すんですよね?」
「......善処しますね」
「もう、硬いですって!」
やはり、自分は押しに弱いらしい。
グイグイと押し迫る摩那に対して、強く否定することはできなかった。
脳内で鍋島を笑う塾長と、腹を抱えて転がる立花の姿が浮かんだ。
握られた手が上下に振られ、気を抜いていた鍋島の体が揺れる。
脳が揺れたせいか、目の前に映る摩那がやけにキラキラと輝いて見えた。
「楽しみですよ、私! コーチと力を合わせたら、どれだけ速くなるんでしょうね!?」
摩那の顔は、子どものように未来へ思いを馳せる楽しみで満ちていた。
それに釣られて、鍋島も少し笑う。
部活から追い出されるほどの運動音痴なのに、速くなれることに疑問はないらしい。
(不思議な子だ......)
それが面白かった。
不安や過去の痛みは、摩那の笑顔の前ではどこかに消えてしまった。
上手く教えられる自信は、未だにない。
それでも、できることをしよう。
この少女が、笑ってトラックを走り抜ける日が来るまで。
評価、感想、誤字指摘等していただけると嬉しいです。




