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黒い水  作者: 楓 海 (ザ ご老体ズ)
5/5

5 愛憎

 3000文字、かなり長くなってしまいましたが、読んで戴けたら倖いです。(o´▽`o)ノ


 気付くと和生はバスルームで倒れ裸のままだった。


 和生は身体を見回した。


 あれ程がんじがらめに絡み付いていた髪の毛は消えていた。


 現実ではなかったのか?


 和生は自分の記憶を疑うがバスルームの床には無数の髪の毛が貼り付き、身体のあちこちに痣が残っていた。


 和生は起き上がると慌てて脱衣場に置いてあったバスローブを掴みリビングへと避難した。


 何が起こっているのか解らない。


 和生はソファに座ると頭を整理しようと試みた。


 和生は超常現象などを信じる方では無かった。


 あの体験をどう判断するべきか迷った。


 確かに認めれば辻褄が合う気がする。


 勘のような不確かな思い付きだが、あれは瑶羅の仕業ではないかとも思い始めていた。

 

 瑶羅は死しても尚何をしようと云うのか?


 喉が酷く乾いている事に気付く。


 キッチンに行き冷蔵庫からペットボトルの水を取り浴びるように飲んだ。


 少し冷静さを取り戻した気がした。


 ヒタヒタと水が滴る音がきこえる事に気付く。


 またあのような事が起こるのかと身構えた。


 願望としてはあのような体験を再びするのは勘弁願いたい和生は、そこから意識をそらすように窓から外を覗き込んだ。


 雨など降っている様子では無かった。


 シンクの蛇口を見てみるが、水漏れしているようでは無い。


 水が滴る音は次第に近付いて来る。


 和生は何かの気配を感じて警戒しながらゆっくり後ろを振り返った。


 キッチンの入り口にびしょ濡れで、哀しげに目を潤ませた瑶羅が立っていた。


 和生は驚きに目を見開き、顔を横に振りながら後退りして行く。


『瑶羅が生きている筈が無い.........』


 瞳孔を調べ、心音も完全に停止していた。


「そんな筈が無い..........」


 これは罪悪感が見せる幻覚かもしれない。


 和生は怪訝な表情を浮かべ今目の前にいる瑶羅を観察した。


 水の雫なのか瑶羅の涙なのか、瑶羅の頬を水滴が伝った。


 哀しげに潤む瑶羅の目は慈しみに満ちていた。


 『愛しているのに.....』


 そんな言葉が聞こえそうなほどに。


 だが次の瞬間、瑶羅の様相はみるみる変わり、渾身の憎しみを籠めて和生を睨み付けた。


 人ならざる者となった瑶羅の憎悪が籠る目は、こちらの心臓でさえも貫くのではないかと思われるほど鋭く、和生はかつて無い恐怖を感じた。


 瑶羅の強い愛情は裏切りを知った瞬間深い憎悪へと変わっていた。


 5年の結婚生活は瑶羅にとって倖せそのものだった。


 和生の言葉そのままに自分は和生に愛されていると信じていた。


 だが一本の電話が総てを一変させた。


 五年間嘘で固められた倖せはボロボロとうすぺらい外装が剥げ落ち殺意がむき出しになった。


 和生はなんの躊躇も無く置物で瑶羅の頭を砕き、なんの躊躇も無く瑶羅を溺死させた。


 その行為に愛情など欠片も存在していないのは明白だった。


 瑶羅の絶望は計り知れない。


 瑶羅は片手を頭上に掲げる。


 台所に置きっぱなしになっている包丁が宙に浮く。


 その刃先がゆっくりと和生を狙う。


 和生は包丁を恐れおののきながら見詰めた。


 自分は恨みによって殺される。


 そう思うとこの場をなんとか逃げ出さなければと思う。


 だが身体が恐怖でかじかんでしまっていた。


 瑶羅はなんの躊躇も無く手を振り下ろす。


 包丁は何かに弾かれたように目にも止まらないスピードで和生の太腿に突き刺さった。


 和生の口から獣を思わせる悲鳴が上がる。


 激痛に呼吸を乱し言葉にならない声を発して喘いだ。


 思う存分喘いだ後、止血の為に和生は自分の動脈が走る足の付け根を押さえた。


 しかし、止血は思うほど上手く行かずバスローブの裾を赤く染めて行った。


 瑶羅が引き出しに視線をやると、引き出しは開かれ中からアイスピックが宙に浮き上がった。


 幻覚では無いと充分思い知った和生は喘ぎながらその場に正座し頭を垂れた。

 

「瑶羅、済まなかった

 オレはキミを裏切って来た

 済まないと思っている

 だが、聞いてくれ

 亜沙美はとても弱い

 キミのように強くはないんだ

 オレがいないと生きては行けないほどオレに依存している

 亜沙美にはオレが必要なんだ」


 瑶羅は険しい形相で和生の言葉を遮るようにアイスピックを飛ばす。


 アイスピックは和生の肩に突き刺さる。


 和生は正座を崩し床に倒れ、奇声を上げながらのたうち回った。


 瑶羅は次に果物ナイフを宙に浮かせ、和生を狙った。


 瑶羅の顔は狂気さえ感じるほど、怒りに目を見開き和生を睨んでいる。


 和生は自分が間違えた事に気付き謝ろうとするが、あまりの痛みに起き上がることができなかった。


 次こそ息の根を止められると和生は思う。


 それと同時に死にたくないと強く思った。


 なんとしてでも瑶羅を説得しなければならない。


 痛みに堪えながら和生は頭をフル回転させ、この状況を好転させる言葉を必死に探した。


 そして思い出す「愛してるよ、瑶羅」と言うと瑶羅はいつも決まって恥ずかしそうにそれでも嬉しそうに「バカね」とはにかんでいたことを。


 この状況で試してみる価値はあった。


 和生は喘ぎながらも呼吸を整えて、できるだけ感情が籠るように言った。


「愛してる

 愛してるよ、瑶羅」


 和生は注意深く瑶羅の表情を伺がう。


 瑶羅の表情が一瞬変わる。


 だが自分をなんの躊躇(ためら)いも無く殺した男の愛の言葉ほど間抜けな物は無い。


 瑶羅はにやりと冷たく微笑んだ。


 和生は半狂乱になって、命乞いをする。


 しかし実際は訳の解らないことを喚きちらしているだけだった。

 

 瑶羅は無情に手を振り下ろした。


 果物ナイフは一瞬で和生の腹に命中した。


 和生は再びのたうち回るが、激しい痛みに意識が遠退き気を失った。


 しばらくの間、瑶羅は気を失った和生を見詰めていたが、ゆっくりと歩みを進め、和生に近付くとそこに屈んだ。


 自分を裏切り殺した憎い夫の筈なのに、瑶羅は和生の髪をなで、両方の手のひらで和生の頬を包む。


 その時の瑶羅の目は愛しい者を見る慈しみに溢れていた。


 しかし(おもむろ)に立ち上がった瑶羅はまるで蛆でも見るかなように蔑み、冷たく和生を見下ろしていた。


 瑶羅が放った包丁やアイスピックで傷付けたどの傷も急所からずれている。


 それは未だに愛する者への優しさなのか、それとも簡単に死なさず、この先もじわじわといたぶる為なのか、それは瑶羅にしか解らない。


 玄関の呼び鈴が鳴った。


 瑶羅は2、3歩後退りして、霧のように消えて行った。


 玄関では警官が2人、家の外観を見上げながら会話していた。


「あの遺体は、どう見ても殺しだろ」


「靴が見つからなかったそうじゃないか

 案外、犯人は夫だったりしてな」


「お前、ドラマの観過ぎだろ」 


「さあ、どうだろうな

 大の大人が一晩帰らないだけで捜索願い出しにくるか?

 しかも尋常な取り乱し方じゃ無かったらしい」


「なんだ、そりゃあ...........」

 

 この後二人の警官はカビ臭い悪臭のなか、血まみれの気がふれた和生を保護することになる。






 亜沙美は退屈そうにクッションを抱え、スマホを見詰める。


 不倫を瑶羅にリークしたのは亜沙美だった。


「和生が悪いんだよ

 5年も待たせるんだもん

 もう待ちくたびれちゃったよ」


 亜沙美は飾られた亜沙美と和生のツーショットの写真に話し掛ける。


「憎い恋敵は死にました

 やっと、やっと、日陰の亜沙美は和生と結ばれます

 早く来てね、和生

 フフ、フフフフフフフ............」


 亜沙美は軽やかに笑い続けた。


 閉め方が緩かったのか風呂場から水の滴る音がしている。


 やがて滴る水は黒く変わり、蛇口には黒い髪の毛がぶらさがっていた。






             fin


 最後までお付き合い戴き有り難うございました。<(_ _*)>


 一度消えてしまったりと受難もありましたが、こうして完結できて嬉しいです。

 やっぱり、小説書くって楽しいですね。(人´▽`*)♪

 久々に書いた小説なので、お見苦しい処もあると思いますが、そこは生温かい目で見守って戴けたら嬉しいです。

 こんな底辺作家なのに、ホラー部門で日間1位、すべてで3位を戴きました。

 それでいつもでは考えられないほど沢山の方に読んで戴けたのですが、有りがちな設定とストーリーで目新しい処がひとつもない作品なので、なんだかとても申し訳ない気持ちです。

 でもランクイン履歴の導入、嬉しいですね。


 こんな私の作品ですが、また読みにいらして下さったら嬉しいです。

 その時はまた宜しくお願いいたします。<(_ _*)>

 

 

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― 新着の感想 ―
恐かったです。
投了お疲れさまでしたm(_ _"m) なにか言いようのない寂しさを感じます。 和生が好きなお嬢様育ちの我儘娘の瑶羅は、餌で釣って和生を手懐けた。 最初、瑶羅にとって和生は可愛いペットのようなモノだっ…
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