3 プロポーズ
内容にリスカの表現が在ります。
精神状態に自信の無い方はご遠慮下さい。
湯船に浸かると身体の疲労が和らぐ気がした。
天井を見上げ、足をバスタブの縁に預ける。
瑶羅が言った。
「副院長の椅子を用意してあげるから、私と結婚しない? 」
瑶羅とは院長のバースデイパーティーで何度か顔を合わせたことはあったが、いきなりプロポーズされ和生は面食らった。
「今付き合っている女性はいるの? 」
和生は不愉快になり顔をしかめて答える。
「そんな事、あなたには関係無いでしょう」
「あるよ!
私は貴方と結婚したいの!
付き合っている女性はいるの、いないの? 」
「どうしてボクなんですか? 」
瑶羅はイタズラっぽい笑みを湛え言った。
「一目惚れよ
貴方、魅力を感じない?
副院長よ、父が引退すれば黙っていてもこの病院は貴方のものになるんだよ」
和生は知っていた。
自分が医師として才覚の無い事を。
おそらくこのままこの病院で勤めていたとしても、せいぜい田舎に個人病院を開業し老後を過ごすのが関の山だろう。
亜沙美と一緒ならそんな人生も悪くは無い。
和生は言った。
「つきあっている女性が居ます
だからあなたとは結婚はできない」
「即答? 」
瑶羅は目を大きく見開きおおぎょうしく言った。
「あなたバカなの?
私の機嫌を損なったらこの病院には居られなくなるんだよ! 」
和生は不快感を隠そうともせず、瑶羅を睨んだ。
瑶羅は肩を竦める。
「オーケー、解った
あなたに考える時間をあげるから、もっとよく考えなさい
私はね、欲しいものは総て手に入れるの」
瑶羅は踵を返すと、見送る和生に背中を向けたまま手を振り去って行った。
和生は嫌な女だと思った。
だが確かに瑶羅の申し出は魅力的だった。
子供が好きな和生は将来小児癌専門の病院を造るのが夢だった。
自分のようなうだつのあがらない医者でも、瑶羅と結婚すれば、その夢は簡単に手に入る。
諦めていた夢が実現に向けて動き始めるだろう。
降って湧いたようなチャンスだった。
しかし、その為には亜沙美と別れ、好きでも無い女と生涯を供にしなければならい。
亜沙美にその事を話すと亜沙美は長い間黙って考え込んでいたが、やがて徐に口を開いた。
「和生の倖せはアタシの倖せだよ
だから和生の夢が叶うならアタシは身を引く」
亜沙美がそう言うだろ事は解っていた。
亜沙美はいつもそうだった。
亜沙美の中心には必ず和生がある。
自分に全く関心を持たない親の元で育った亜沙美にとって、こんな価値の無い自分を愛してくれる和生の倖せは何より重要なのだ。
和生はいたたまれなくて亜沙美を抱き締める。
亜沙美の腕にはいくつものリスカの痕がある。
自分の存在理由を見出だせない亜沙美の苦悩の痕だった。
和生がいくら言っても亜沙美は自分への価値を見出だしたりはしない。
それでも和生が涙ながら説得すると、リスカの痕はそれ以上増える事が無くなった。
亜沙美の依存するものがリスカから和生に変わっただけなのだが。
和生は気付いていた。
和生が瑶羅を選び亜沙美と離れたら亜沙美は生きては行けないだろう事を。
そんな亜沙美が哀しくて愛おしくて、とても亜沙美を放って自分の夢を優先させることなどできない........。
............いや、ひとつある。
夢を叶え亜沙美を倖せにする方法。
それは、結婚した後瑶羅に死んで貰う。
抱き締める亜沙美の感触は何処か儚く頼り無い。
亜沙美の為なら、自分にできない事は無い。
そう、信じられた。
「亜沙美、オレは瑶羅をいつか殺す
そして亜沙美を迎えに来るよ」
亜沙美は顔を上げ和生の目を見据えた。
その瞳は動揺に震えている。
「そんなのダメ!
和生が犯罪者になるなんて、絶体ダメだよ」
和生は一層強く亜沙美を抱き締め、うなじに口唇を近付け囁くように言った。
「亜沙美がオレを一番に思うようにオレにとっても亜沙美は一番なんだ
亜沙美の為にオレはなんでもするよ、例えそれが犯罪だったとしても」
亜沙美は和生の肩に顔を押し付けたまま動かない。
次第に和生の肩がじんわりと温かい感触が広がる。
亜沙美は泣いていた。
「和生はそれが倖せなの? 」
「ああ、それが最高の倖せだよ」
あれから5年の年月が流れた。
和生はこの生活に慣れ過ぎて瑶羅を殺すタイミングを完全に失っていた。
誰がリークしたか知れないが、瑶羅を殺すタイミングを与えられ、和生には感謝しかなかった。
この後妻を亡くした傷心の夫を演じ、それを癒すナイチンゲール亜沙美の存在を周りに浸透させれば、誰も亜沙美との再婚に異義を唱えるものはいないだろう。
読んで下さり有り難とうございました❗m(_ _)m
最近映画は邦画ばかり観てます。
私が住んでる街にはたった一軒しかないレンタルショップも潰れ、映画難民生活です。。゜(゜´Д`゜)゜。
なのでAmazonでDVDを買って見なければならないのですよお。
今年は観たい映画が目白押しでホクホクしております。
それも邦画ばかり。
なんといっても外せないのは「国宝」。
国宝級イケメンのお二人の演技、とても楽しみです。
綾野剛くんの「でっちあげ」も外せないですし、「ババンババンバンバンパイア」、超観たいです。
シェシーの「お嬢と番犬くん」も楽しみ。




