1 殺人と2人の女
約10000字強、全5話です。
最後までお付き合い戴けたら倖いです。m(_ _)m
男の名前は久世和生。
彼は妻の瑶羅を今正に殺そうとしていた。
バケツに汲んでおいた淀みの川の水の中に瑶羅の頭を突っ込み押さえつけた。
何故殺そうとしているのか。
答えはあまりにも安易だ。
妻への裏切りがバレた。
それは非常にマズイ。
ポスト病院長が危うくなる。
和生はいわゆる婿入りだ。
病院長の久世駿介の娘久世瑶羅に見初められ、逆玉の輿で副院長の座に着いた。
降って湧いた幸運。
和生はそれに飛び付いた。
幸運をくれた瑶羅に愛情を感じたこともあった。
ただその愛情は、今は腐敗し悪臭を放つほど殺意に貢献している。
瑶羅はわがままな上に嫉妬深く、和生はその二つの性質で強い束縛を受けた。
息の詰まるような結婚生活は和生の忍耐の元に成立し、何処へ行くにもおしどり夫婦と呼ばれるほど完璧なものだった。
和生は言った。
「愛しているよ
だから、オレの為に死んでくれ」
瑶羅は急に暴れ出した。
手をバタバタさせ、生に必死にしがみつく瑶羅。
死に物狂いで和生の腕を掴み、ありったけの力で引き離そうとする。
週に3回はジムに通い、フィットネスクラブにも通っている瑶羅だったが、男の力にはかなう筈も無く、和生は余裕で押さえつけ、瑶羅が息絶えるのを待った。
ごぼごぼと水を飲む音がしている。
次第に瑶羅の力は弱まり、動かなくなった。
和生は完璧に死ぬのを充分過ぎるほど待った。
いつもは人命を救う和生だが、今自分のしている事を考えるとあまりにも皮肉が効いているので、思わず笑ってしまった。
絶命した瑶羅を床に寝かせる。
濡れた長い髪が顔に張り付いているのを避けてやり、このわがままで小うるさかった我妻の死に顔を改めてまじまじと見詰めた。
目をむき苦悶の表情で固まっている瑶羅の死に顔を和生は醜いと思った。
瞼を開き光を当て瞳孔が開いている事を確認した。
胸に聴診器を当て心音も停止している。。
完璧に死んでいる事を認識すると、張り詰めていた何かが体内でプツンと音を立てて弾け、身体から力が抜けて和生は絨毯の上にへたりこんだ。
気持ちがみるみる晴れやかになり、和生は鼻歌をハミングしながら用意しておいたキャリーバッグにまだ死後硬直していない瑶羅の身体を折り畳んで詰め込むと車の後部座席に乗せ、淀みの川へと走らせた。
三途の橋という縁起でもない名前の橋から十メートルはあろうかと思われる淀みの川へと瑶羅の死体を放り投げた。
大きな生ゴミを処理した和生は晴れやかな気持ちで車のハンドルを握り、その足で亜沙美のマンションへと向かった。
呼び鈴を鳴らすと少しして亜沙美が鍵を開け、恋人に向ける媚態を帯びた笑みを浮かべ和生を迎え入れた。
瑶羅との結婚生活は5年になるが、亜沙美との関係は7年に渡る。
つまり和生は瑶羅と結婚する以前に亜沙美と付き合っていたことになる。
亜沙美はドアが閉まる前に和生のうなじに手を伸ばし口唇を押し付ける。
和生は亜沙美の身体を抱き締め熱い口付けに応えた。
亜沙美は和生の股関に自分の太腿を割り入れ和生を刺激した。
和生は慌てて亜沙美の華奢な身体を引き離した。
絡み付くようにこちらを見詰める亜沙美の瞳を覗き込んで和生は言った。
「殺ったんだ
今淀みの河に沈めて来た」
亜沙美は目を大きく見開き、和生の顔に穴が空きそうなほど強い視線を送る。
「本当に? 」
亜沙美の声は驚きに小刻みに震えている。
「嘘を吐く理由が無いだろ」
亜沙美はありったけの力で和生の首に腕を絡め抱き付いた。
「もう、嫉妬しなくていいんだ!
和生は私だけの和生になったの? 」
「そうだよ、でも聞いて
オレは明日警察に行く
瑶羅の捜索願いを出すために
亜沙美との関係がバレては後々厄介なことになる
しばらく自粛しないとならない」
亜沙美の顔から笑顔が消える。
「今までだってワタシはとてもいい子だったてしょう?
だから待つよ、いつまでだって待つ」
和生のうなじで繋いだ手を軸に亜沙美は身体を揺らす。
「オレはもう行かなくちゃ」
「そうなのね」
亜沙美は密着していた身体を離し、乱れた和生の服装を整えた。
和生は何かを断ち切るように言った。
「じゃ、行くよ」
「うん」
亜沙美は縋り付くような上目遣いで頷く。
いじらしい恋人の柔順さに抱き締めたくなる衝動に駆られたが、和生はそれを堪え部屋を出た。
読んで戴き有り難うございます❗<(_ _*)>
どうやら、間違えて削除してしまったようです。
バックアップされていたので、先に投稿したのとはちょと表現とか変わってしまっているかもですが、なんとか再投稿できました。
凄く焦りました。。゜(゜´Д`゜)゜。