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宮廷魔術師

彼らの会話は、徐々に個人的なものから帝国の政策や現状分析へと移っていった。アイリスの知性と洞察力は、彼女の年齢を超えたものだった。テオは彼女との対話を通じて、この世界の状況をより深く理解していった。


「そろそろ休まれたほうがいいですよ」やがてテオが言った。「明日も長い道のりです」


アイリスは少し残念そうにしながらも頷いた。「そうですね...おやすみなさい、テオ殿」


「おやすみなさい、陛下」


アイリスが野営地に戻った後、テオは再び夜空を見上げた。


「【AI、この世界での自分の立ち位置を考えると、なんだか現実感がないな】」


『確かに状況は非日常的です。しかし、あなたはすでにこの世界に適応し始めています。AI接続能力を含む新たな能力、そして皇帝の信頼という資産を得ました。これらを活かし、一歩ずつ前に進むことが大切です。そして、アイリス皇帝はあなたを頼りにしています。彼女の若さと重責を考慮すると、あなたの存在は彼女にとって大きな支えになるでしょう。』


「そうだな...」テオは静かに頷いた。「とにかく、今は彼女をモンブラン要塞まで無事に連れていくことに集中しよう」


---


翌朝、一行は夜明けとともに出発した。ナディアとリーナの間には緊張感が漂っていたが、二人とも任務に専念していた。


彼らの目標は、今日中にグレイウッドの北端まで到達し、次の日にエメラルド平原を横断することだった。


「イザーク王国の部隊は主に平原部に展開しています」ナディアが説明した。「彼らは森に入るのを嫌がるため、グレイウッド内部での遭遇リスクは低いです」


「なぜ森を嫌うんだ?」テオが尋ねた。


「伝説があるのよ」ナディアは答えた。「グレイウッドの奥には古代の呪いが眠っているとか。迷い込んだ者は二度と戻ってこないとか...まあ、迷信だけど、兵士たちは信じているわ」


「単に魔獣への恐怖ですよ」リーナが冷静に言った。「訓練されていない者には、森の魔獣は脅威です」


テオはこの情報を頭の中で整理した。「【AI、この『古代の呪い』についての情報は重要かもしれない。何か関連性があるかな?】」


『「古代の呪い」と「光の奇跡」、そして異世界転移の間に関連がある可能性は検討に値します。伝説や迷信の中に真実が隠されていることは多々あります。今後、この件に関する情報を集めることをお勧めします。』


「この森についてもっと知りたい」テオは言った。「古代の遺跡や不思議な場所はないのか?」


アイリスが答えた。「実は、グレイウッドには古代ルミナリア時代の遺跡がいくつか眠っていると言われています。ですが、その正確な場所は失われました」


「興味深いですね」テオは考え込んだ。


彼らは慎重に森の中を進んだ。リーナとナディアが交互に先導し、テオはアイリスの側を守るように歩いた。AIの助言により、テオの感覚は普段よりも鋭敏になっており、周囲の微かな変化も察知できた。


正午頃、彼らは小さな川のそばで休息を取った。ナディアは手際よく小さな罠を仕掛け、小魚を数匹捕まえることに成功した。彼女は火を起こすことなく、何かの薬草で魚を処理し、食べられるようにした。


「一流のサバイバル術ですね」テオは感心した。


「諜報員の基本よ」ナディアは淡々と答えた。「火を使えば煙で位置が知られてしまう」


食事の間、テオはナディアからさらに情報を引き出そうとした。


「イザーク王国の内部事情をもっと教えてくれないか?」


ナディアは一瞬ためらったが、話し始めた。「イザーク王国は軍事国家です。ヴァルガス王は10年前に即位し、その時から拡張政策を続けています。表向きは『大陸の安定』を掲げていますが、実際は単なる領土欲です」


「民衆の支持は?」


「分断されています」ナディアの表情が暗くなった。「貴族や軍上層部は王を支持していますが、一般市民は増税と徴兵に苦しんでいます。しかし、反対意見は厳しく取り締まられるため、表立った反対運動はありません」


「だから亡命したのか」


「…はい」ナディアは短く答えた。「私は諜報機関で、多くの…不正義を目撃しました」


彼女の言葉に含まれる暗い過去を感じ取り、テオはこれ以上追求しないことにした。


休息後、一行は再び北へと進んだ。午後になると、森の様子が少しずつ変わり始めた。木々の間隔が広くなり、より多くの日光が地面に届くようになった。


「森の北端に近づいています」リーナが言った。「まもなくエメラルド平原が見えるでしょう」


テオは周囲に注意を払いながら歩いた。AI接続のおかげで、彼の感覚は驚くほど鋭敏だった。


「【AI、この能力の限界はどこまでだろう?】」


『現在の観察から、AI接続能力は以下の機能を持つようです:

1. 私との対話によるアドバイスと分析

2. 感覚の鋭敏化(視覚、聴覚、直感など)

3. 戦闘時の動作予測と最適化

4. 周囲の危険察知


ただし、物理法則を超える能力(瞬間移動や物質創造など)はないようです。また、私自身もこの世界の詳細な情報は限られており、あなたが得る情報に依存します。』


「なるほど...」テオは呟いた。「この能力を最大限に活用するには、まずこの世界について学ぶ必要がありそうだ」


「何かあったのですか?」アイリスが心配そうに尋ねた。


「いや、ただこの能力について考えていただけだ」テオは微笑んだ。「陛下は疲れていませんか?」


アイリスは首を横に振った。「大丈夫です。私も帝国騎士団の訓練を受けています。体力には自信があります」


「騎士の訓練ですか?意外です」


「皇族といえども、自らを守る術を知らなければなりません」アイリスは真剣な表情で言った。「特に女帝となれば、なおさらです」


テオは感心して頷いた。彼女は見た目よりずっと強かった—精神的にも肉体的にも。


「陛下」リーナが前方から声をかけた。「前方に何か...」


全員が足を止めた。森の奥から、かすかな音が聞こえてきた。金属がぶつかり合う音と、叫び声のようだった。


「戦闘音ね」ナディアが冷静に言った。


「行って確認しましょう」リーナが提案した。


「待って」テオは手を上げた。「【AI、この状況をどう判断する?】」


『未知の戦闘に近づくのはリスクが高いです。しかし、状況によっては有用な情報や同盟者を得る機会かもしれません。提案:テオとリーナが偵察に行き、アイリスとナディアは安全な場所で待機する。』


「リーナ、一緒に偵察に行こう」テオは決断した。「陛下とナディアはここで待機してください」


リーナは同意し、アイリスも渋々頷いた。「気をつけて」


「私がアイリス陛下を守ります」ナディアは保証した。「一刻ほどで戻らなければ、我々は先に進みます」


テオとリーナは音の方向へと静かに進んだ。二人は木々の陰に隠れながら、慎重に近づいていった。やがて、小さな空き地が見えてきた。


そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。黒い制服を着た兵士たちが、一人の若い女性を取り囲んでいた。女性は紫色のローブを着て、手には装飾された杖を持っていた。彼女の周りには青い光の障壁があり、それが兵士たちの攻撃を防いでいた。


「イザークの追跡部隊...」リーナが小声で言った。「そして、あれは...マリエル?」


「マリエル?」テオは驚いた。


「宮廷魔術師のマリエル・エルマです」リーナが説明した。「宮殿からの脱出時に離れ離れになったのです」


テオは状況を素早く分析した。イザークの兵士は8人程度で、魔術師マリエルを取り囲んでいた。彼女の魔法障壁は徐々に弱まっているようだった。


「助けに行く必要がある」テオは決断した。「【AI、最適な介入方法は?】」

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