9話
じいさんが死んで6年が経った。
長いようでいて、あっという間の6年だった。
あれから俺とハルカは『魔星』の部下になった。まぁ部下といっても仮採用のようなものだ。
基本的には私生活を優先。時間があるときに仕事をこなす。そんな生活を送っていた。
そして今も仕事の途中。
「腹減ったぁ……」
「ごちゃごちゃうるせぇよ!!」
あまりの空腹に小言が出てしまった。
目ざとく気づいた見張りの男が唾を飛ばしながら怒鳴ってくる。
時刻は真夜中。
俺は今馬車に繋がれた檻に入っている。ボロボロの布切れを着て、顔は泥にまみれている。
あと数刻で俺はどこぞの貴族に売られるのだろう。
檻の中には俺と似たような身なりの少年少女が10人ほど。檻の外には顔を隠した男が5人、周りを囲んでいる。
彼らは山賊。王都から人をさらい貴族に売りつける犯罪者だ。
今回の任務は山賊のアジトの特定、そして殲滅。さらに山賊を使って人身売買をしている貴族の特定だ。
山賊は商人になりすまし王都に入り、足がつきにくい貧民街から子供をさらう。
そのため、奴らのアジトを特定するために貧民の子供に成りすます必要があった。
わざわざボロきれを服にし、栄養失調に見せかけるために一週間断食した。
おかげで最近は腹が鳴りまくっている。
(さっさと帰ろう……)
空腹を紛らわせるように軽く寝ていると、馬車が止まった。
「降りろ!!」
檻が馬車から外され、鍵が開けられる。
手錠同士で繋がれた子供たちが檻から降りていく。
「おらッ!さっさと歩けや!!」
山の麓に空いた洞窟。入口は深い森に隠された、山賊のアジトにするならばぴったりの場所だろう。
一列に並んで無駄に長い洞窟を進んでいくと、先の方に光が見えた。
かすかに騒ぎ声のようなものも聞こえてくる。どうやら酒を飲んでいるらしい。
「はぁ、あいつらもう飲んでんのかよ。こっちは仕事してるってのに」
先頭を進む男達が愚痴をこぼす。
気持ちは分かる。めちゃくちゃ分かる。俺だって近づくたびに匂う肉の香りによだれが止まらない。
空腹を我慢しながら歩いていくと、ようやくそこにたどり着いた。
端から端まで15メートルほどの大部屋。その中に山賊約20人がテーブルを囲み、肉を貪り酒を煽っていた。
「おうてめぇらぁ、よく帰ってきたなァ!!」
その中の一人が、先頭の山賊に気づいてジョッキを掲げた。
「うっす、頭。指示通りガキを10人ほど連れてきました」
「おう!あの貴族は金払いがいいからなぁ!今夜は全員で宴会だぜ!」
どうやらこの男がここの頭らしい。しかもありがたいことに全員集合と来た。
こりゃ今夜の仕事は早く終わりそうだ。
「そいつらも牢屋に放り込んで、てめぇらも飲むぞぉ!」
よく見れば大部屋の端に、入ってきた時とは別の通路があった。おそらくそこが牢屋だろう。
「うっす!おら、さっさとしろ!!」
酒の魅力にあてられた山賊は強引に子供を引っ張っていく。
俺はその姿を見送った。
「あん。なんだぁてめぇ」
「ただの腹減り魔法使いだ」
ひょいと大ぶりの骨付き肉をテーブルからとってかぶりつく。
うっま。山賊の割にはいいもん食ってんだな。
よっぽど例の貴族は太っ腹らしい。
「あぁん?おめぇみたいなやつは見たことねぇなぁ……」
じろじろと俺を見つめる山賊の頭。だいぶ飲んだのか、顔は赤くその眼は焦点が定まっていない。
「まぁ食えよ!そんなひょろがりじゃ剣も振れねぇぞぉ!?」
「おう。ありがとよ」
がははと笑う山賊の頭。
油断しすぎだろ。
◇
「あれ?なんだこれ」
最後の子供を牢屋に入れ終わったとき、ふと鎖の端が切断されていることに気が付いた。
もしや逃げられたかと、牢屋の中にいる子供の数を確認する。
「1,2、3……9、10、11。あってるな」
洞窟に入る前に確認した数と一緒。逃げられた可能性はない。
「……まぁいいか。俺もさっさと酒飲もう」
通った通路を戻り大部屋に戻る。
「はぁ、俺の分の肉は残ってるかなぁ。せめて酒はのみてぇなぁ」
うちの奴らはみんな大食いだからなぁと心配をしながら道を引き返す。
やがてランタンの光が見え始め大部屋にたどり着く。




