58話 思わぬ大金
ハルから噂話のことを聞きながら、牛歩のような歩みで学園にたどり着いた。
「じゃあ、僕は教室いくから」
「おう」
目印のハルがいなくなったので一度目隠しを外していつもの泉へ向かう。
「あ、シンさん!」
背後から名前を呼ばれる。俺をシンさんと呼ぶのは学園ではルシェルしかいない。
「なんだ、教室行かなくていいのか?」
「今日は魔法の基礎講習なので」
「いや、なので、って……いいのかよ、公爵令嬢がサボって」
「シンさんから教えてもらった方が何倍も有意義ですから。それに授業に出なくても卒業は出来ますし」
実のところ、ルシェルはあまり教室にはいたくなかった。ちょうど今朝ハルカがシンに語ったように、今学園ではシンに対する悪評が流れている。尊敬する師匠のいわれのない噂にルシェルも辟易しているのだ。
だが無理に訂正するようなことはしなかった。シン本人が気にするそぶりも見せないのに自分が騒ぎ立てて今以上に目立ってしまうのは、彼は嫌がると分かっているから。
「前から思ってたんだが、お前って貴族らしくないよな。喋り方とか雰囲気とか」
「そう、ですね。自分でもそう思います。以前話した通り、私は昔から戦いばかりでしたので社交の場にはあまり出てなかったんです」
あまり詳しくはないが貴族の女は髪の毛の手入れで財力とかの余裕を周りに見せつけるとか。そのために長い髪の方が美しいとされるが、ルシェルは肩上で揃えている。
服だって煌びやかなものじゃなく動きやすい服装だし、喋り方も俺の嫌いな遠回しの話し方じゃない。
「アルカード公爵は何も言わないのか?」
「はい。ただ自由にすればいいとだけ。私はそんな父と……それに兄に甘えてこうして自由にさせてもらっています」
「兄妹だったのか。あんま話は聞かないな」
「兄はいま国を離れているんです。王国にいたのはずいぶん前のことなのでシンさんの耳には入らなかったのかもしれません」
「国を離れてる?冒険者か商人とかにでもなったのか?」
「いえそういうわけではなく、数年前に学園を首席で卒業して城勤めの文官になってすぐに『剣星』様の補佐になり
、今は国王陛下の護衛についた剣星様と一緒にディルムット亜人国にいるんです」
ディルムット亜人国。今は竜人が統治する亜人たちの国。王国の建国当初から亜人国とは国交を持っており、王族が遊びに行くほど関係は良好である。
ちなみに今のアルフェスト国王は6年前、じいさんが死んだ少し後からその亜人国に滞在している。王族の血は訳ありで今の王族は国王一人しかいないのだが、たった一人の王族であり国王である彼が国を空けて他国へ行けるのは、先々代の国王の時から『魔星』として国を支えたメルヴィスを信用しているからである。
まぁ、いくらそんな『魔星』を信用しているといっても、たった一人の王族が何年も国を空けるというのは肝が据わっているというか、思い切りがいいというか……国王としては大分おかしい。
「『剣星』の補佐って……めちゃくちゃ優秀じゃねぇか」
「えぇ。『公爵家は自分が何とかするから、ルシェルは好き生きてくれ』と兄も言ってくれて……なので父と兄には頭が上がらないんです」
公爵家は皆ルシェルのことを愛しているようだ。
そんなルシェルから公爵家の事情を聴きながら泉に到着する。
「シンさん。実は今朝ルークさんとグリンドさんに会って伝言を預かっているんです」
「あいつらから?」
「はい……『この前のリリスティアの件で渡したいものがあるから一度ギルドに顔をだせ、と冒険者ギルドが言っていた』らしいです」
つまりギルドからの伝言をグリンドたちが預かってそれをルシェルに伝えたということか。
「ギルドが渡したいもの?面倒だな……分かった。行けたら行く。覚えてたら」
どうしても渡したいなら通りで名前を呼ぶなりするだろ。もう二週間近くたって何も聞かないということはあまり重要ではないということだ。つまり行かなくてもなんの問題もない。
「…………。『と、シンの野郎は言うと思うので俺がそのブツを預かっている。嬢ちゃんからあいつに渡しといてくれ』とのことです」
そういってルシェルが懐から一つの袋を取り出した。
「なんだ、分かってるんなら最初からそう言えって」
ルシェルから受け取った麻袋を開けて中を出す。
「金貨……それも結構な大金だな。100枚ぐらいか」
リリスティアとの戦いでギルドから金貨100枚の大金。話が見えてきたな。
「リリスティアのやつ懸賞金かかってたのか……」
そういえばメルティと会った時にそんなことを言ってたような気がする。
「ルシェル、放課後は訓練中止だ。用事ができた」
この金額なら目標まで一気に近づく。
『剣星』……魔星と対を成す、このアルフェスト王国を建国当初から存在する地位。四星のうち剣星と魔星だけは襲名制で他の二星はそのときの人物になぞらえて名がつけられる。『他の二星は建国後しばらくしてから設けられた地位のため)例コルヴェートは水の魔法を使うので『水星』




