57話 噂
活動報告に私のこの小説に対する執筆スタンスのようなものを書きました。ご確認ください。
場所は王都を離れ大龍山脈の麓、山脈に沿うように広がる森の前。
目隠しをしたシンと、その背後から魔法を放つルシェル。それを呑気に欠伸をしながら眺めるハルカ。
「もっと殺す気でやってくれ」
「は、はい!」
シンの一言でルシェルの魔法は僅かに苛烈さを増すが、目隠しをしているはずのシンがまるで見えているかのように放つ雷に容易く撃ち落とされる。
5分ほど続けたのち、シンがおもむろに立ち上がり目隠しを外したことでその訓練は終わった。
「やめやめ。お前相手じゃ俺の訓練にならない」
「……ですが、訓練で師匠相手に殺す気でやれと言われても」
「別にお前が本気でやったとしても俺を殺すことなんてできねぇよ。それを使わない限りはな」
シンは自分の頭をトンとついた。ルシェルがつられて自身の頭を触る。その手には銀の髪飾りが触れる。
「シルフィ……でも」
「あぁ、まだ使わせない。魔法使いとして未熟な今のお前じゃ振り回されるのがおちだからな」
シンが許可を出す時は、ルシェルが一流に成ったと認めた時だ。すなわち、精霊の遺贈物という強力すぎる力を持つに値すると感じた時。
「そもそも、それなんの訓練なのさ」
暇つぶしにと読書をしていたハルカもやってくる。
「それは……」
2人に対し、シンは先程の訓練の解説をしだした。
まず、俺はこの前のリリスティア戦で掴んだ感覚を完全に自分のものにしようとした。だがあれは感覚的なもので、俺の技術でどうこうできるものじゃなかった
あれ、とはシンがリリスティアとの戦いで至った、自身の限界以上の魔力の制御・感知を可能とした超感覚状態のこと。
その感覚を自分でコントロールできるようになればと、試行錯誤してみたが俺が苦手とする感情に大きく依存していたため、すぐには不可能と判断。
ならばと切り替え、リリスティアの攻撃の悉くを無効化したあの『領域』から習得しようとしたのだ。
「あれの仕組みは単純だ。魔法にしろなんにしろ、攻撃には使い手の意思が乗る。それを読み取って反応するだけ」
「単純……」
「呆れた……」
話し始めて数分、すでに話は2人の常識の外になった。
「なにも全部の感情が分かるとは言ってない。自分に向けられた悪意とか敵意とか、それだけに絞れば素の俺でも何とかって話。それもだいぶ近い距離の魔法じゃないと捉えきれないしな」
それが今の俺の魔力感知のレベル。これを何倍にも引き上げて、魔法構築前の空間の魔力の揺らぎにすら反応できるような状態になるのが例の超感覚状態。ゾーンとでも言うべきか。
「だからまずは俺の魔力感知のレベルをあげようとしたんだが、コイツじゃ無意識にセーブして悪意も敵意も全く感じない。ただただ魔力に反応して撃ち落とすだけ。俺の訓練のついでにルシェルの訓練にもなればと思ったが糞の役にも立たない。時間の無駄だったな」
「うぅ……すいません」
「まぁまぁ」
肩を落とすルシェルの背中をハルカがとんとんと叩く。
「そういうことなら僕が相手しよっか?」
「お前相手じゃほんとに死ぬからダメだ」
「うわぁ……超絶我儘ぁ……人に訓練付き合わせといて何様だよ」
「ちょうどいい難易度ってもんがあるだろ。こいつじゃ低すぎでお前じゃ高すぎんだよ」
「それにしたって人にものを頼む態度ってものがあるでしょ。自分に付き合わせるだけじゃなくてルシェルさんにも何かしてあげるとかさ。具体的には新しい訓練とか。いい加減基礎訓練以外もしてあげれば?」
「基礎のきの字も出来てないお前にとやかく言われたくない」
ルシェルの面倒を見始めてだいぶ時間が経ち、ルシェル自身も魔法使いとしては大きく成長した。冒険者で言うなら魔法の実力だけでもC~B級、もしかしたらA級くらいの実力はあるはずだ。
だがいまだにシンは魔物相手の実戦と瞑想しか具体的な訓練としては教えていなかった。
「ま、まぁまぁ」
次第にヒートアップしていく兄弟喧嘩を、今度はルシェルが宥めていく。
ルシェル自身基礎訓練しかやらされないことに多少なりとも不満を抱いていたりはするのだが、シンの魔法技術が基礎の積み重ね、その極地であると悟っているため、その不満を口に出して言うことは無かった。シンがまだだと考えているならそれに従うのが弟子としての態度だろう。
「何はともあれ、訓練の仕方を考えなくちゃな。誰かに魔法で攻撃してもらうのが一番楽だったんだが……」
今後、いつ再びあの魔人たちと戦うことになるかは分からないが、早いうちに習得はしておきたい。欲を言えばあの超感覚状態にも自分の意思で入れるようになれれば御の字だ。
◇
「あの……本当にソレで行くつもりですか?シン様、恐れながら言わせてもらいますと、だいぶ不格好ですよ」
朝、支度を整え学園に行く前にマーサが作った朝食をいただき、いざ出発というところで、いつも見送ってくれるマーサに止められた。
「知ってるよ。自分でも間抜けな姿だと思う」
今の俺は布で目を隠し視界を閉ざしている。移動の時はへっぴり腰になりながら手で空間を探り、亀のような速度で歩いている。せめて杖でも使えばへっぴり腰にはならなくて済むのだが、俺はそれを拒否した。
「そう思うなら僕のためにもやめてよね。周りの人の兄さんを見る目が痛いのなんの」
「周りなんて気にしてどうすんだ。それより早く行くぞ。お前が先を歩いてくれないと道に迷う」
いつも通る道とはいえこの状態では学園に着くまでにどれほど時間がかかるかわかったもんじゃない。屋内ならまだしも長距離の移動はハルの魔力を目印にして進まないとキツイ。
これはあくまで他人の感情を勉強するための訓練であって、見なくても道を歩けるようになる訓練ではないのだ。
「はいはい分かったよ。じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
◇
周囲に魔力を広げていく。薄く王都中にいきわたるように。
感情とか意思とかは大きく分けて2つに分けられる。すなわち『善』か『悪』か。
この訓練では『善』の方は考えなくていい。戦いで人を殺すのに一番に『楽しい』と思う奴はいないからだ。仮に殺人を楽しむようなやつだとしても、その攻撃に最初に宿る感情は『敵意』か『殺意』だ。だからこの訓練中は『悪』だけをフォーカスして拾っていく。
ひとまずは『善』か『悪』かの色分けだけでいい。それ以上の細かい感情を王都中から拾うとなると、脳みそがいくらあっても足りない。
街中に広げた魔力を通して脳内に作り上げた超大雑把な地図がところどころぼんやり黒色に染まってく。
「ねぇ兄さん。最近学園で流れてる噂知ってる?」
「……」
「その噂ってのがなんと兄さんに関してのことでね。なんでも『腹の中に才能を置いてきて弟に取られてしまった』『あいつは無能、ハルカと比べて魔法が巧く使えない』『シンは弟と比べられるのが耐えられず授業には全く顔を出さない』。大体そんな内容だったね」
「……2つ目以外はどうでもいいな。勝手に言わせとけばいい」
「それがさ、中には『シンは人殺し。悪魔に憑りつかれている』みたいな噂もあったんだよ」
前半は事実と言えるな。任務ではもう忌避感も出ないくらい人を殺してきた。後半も右腕の惨状を憑りつかれていると例えるのならあながち間違いではないだろう。
「……それで?」
「なーんか他のとはちょっと違った内容だったから妙に気になっちゃって」
他はハルと比べて劣等感を煽るような内容だが、これは確かにちょっとベクトルが違う。まるで群衆の中にいる俺に向かってピンポイントで投げられたナイフの方な『悪意』を感じる。
「噂を流した誰かが兄さんにちょっかいをかけようとしてるのかもって思って。大丈夫だろうけど一応忠告しておくよ」
なんとびっくり2章突入!ここまで読んでくださりありがとうございます!!
私の溜まりに溜まった妄想がこうして形にできて嬉しいです。




