56話 語らおう、友よ
『私、コルヴェート様のファンだったのよ』
メルティはそう言いじいさんのファンであると明かした。
『コルヴェート様の水魔法に一目惚れしたのよ!!』と続けたメルティは、それからじいさんのどこがすごい、どこがすごいと目を輝かせて10分ほど喋った。
それに共感した俺はさらに1時間ほどじいさんのことを語った。
魔法が美しい、魔力が洗練されている、教え方が上手い。そんな魔法に関することから、洗濯物は畳まない、脱いだ外套がそのまま床に落ちている、部屋が汚いなど懐かしい日々の日常に関することまで。
じいさんのことで意気投合した俺たちは夜が明けるまで聖堂で語り合った。
「じゃあなメルティ。暇な時にまた来る」
「えぇ!いつでも歓迎よ!また語り合いましょう!!」
別れ際、俺たちは熱いハグをした。彼女のパワーに負けないくらい俺も力いっぱいに心の友を抱き返した。
「見かけによらず良い奴だった。誰だよ曲がり角であったら腰抜かすとか言ったやつ。殺すぞ」
そんな熱い夜を過して、俺は部屋に戻るのだった。
◇
「ふむふむ……問題なさそうですね。おめでとうございます。無事退院です!」
翌日、再びイリスの診察を受け晴れて正式に退院となったので、とりあえず家に帰ることにした。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
洗濯物を持ったマーサが出迎えてくれた。
「ハルは?」
「学園です。任務があるとの事で帰りは遅くなるかと」
「また魔物でも出たか?まーいいや、暇だし俺も出てくる。帰りは……明日の朝には戻る」
「かしこまりました。病み上がりですので程々に」
「おう」
マーサの表情はいつも通りぶっきらぼうだけど、どこか吹っ切れているように思う。この前は変な事で悩んでるみたいだったから少し安心した。
◇
「じゃあなメルティ。暇な時にまた来る」
「えぇ!いつでも歓迎よ!また語り合いましょう!!」
思いがけず心の友ともとなったシンの背をメルティは感慨深く見送った。
「にしても、あんな小さな子供がたった6年で……これだから世の中っていうのは」
上級神官であるメルティには服を着ていてもシンの身体が視えていた。
(ボロボロ……あの歳の子がしていい体じゃない。特に酷いのは下半身。原型を留めているのが不思議なくらいガタが来ている)
メルティならいくらかマシに治療は出来る。だがそれも一時しのぎに過ぎない。治療してもすぐに元に戻るだろう。それほど根本的にシンの体は弱っているのだ。
「ま、あの子の戦い方にも理由があるんでしょうけど……まったくあの御方も不器用ね。心配なら素直にそういえばいいのに」
アルフェスト王国が誇る最強の魔法使いは誰かを案じることに慣れていないらしい。
「大事にするなら城にでも閉じ込めておけばいいのに」
シンの限界は近い。それは本人も分かっているだろう。理解した上で自ら戦禍に身を投じている。そこまでする理由が彼にはあるのだろう。
「ま、あの子はしっかりしてるし、自分のことは自分でどうにかするでしょ。何せあのコルヴェート様の子なんだもの」
実の所メルティの一番の心配事はシンの身体以外にあった。
6年前、メルヴィスの魔法により城に連れてこられたシンとハルカを治療したのち、一足先に目覚めたハルカにも、先のシンへの忠告と似たようなものを伝えていた。
シンの右腕に巣食う黒が闇属性に位置するものなら、ハルカの身に宿るそれは聖属性のものに近い。それも途方もないほどに強い気配だ。人一倍その気配に馴染み深いメルティからすればむしろ、聖の魔力が人の形をしていると言ってもいいほど。
だから6年前、メルティはハルカにも『教会には気をつけろ』と忠告をしていた。
「弟くんの方は何とかして抑えようとしてるみたいだけど……」
どれほど意識して努めようと、あれほどの力を完全に抑えるのは無理がある。
シンほどの魔力制御があればともかく、とりわけそれが苦手なハルカだ。ボロが出るのはハルカ自身が思っているよりも早いかもしれない。




