48話
木の上からその戦いを眺める。
「はぁぁぁっ!!」
金髪の剣士が隙のない動きで距離を詰める。俺と比べ遥かに洗練された本物の剣士の動きだ。
対してそれを迎え撃ったのは金の髪と紅の三白眼をもつ黒いドレスの女。
その手で無造作に周囲に浮かぶ赤い塊を掴むと塊h次第に形を変えて、やがて一本の血色の長剣を創り出す。
ドレスの女は金髪の剣を受け止め、さらに赤い塊を操り血の棘を創り出し追撃を加える。
「くっ」
金髪は棘の攻撃を避けるが、女はさらに距離を詰め、いつの間にか剣から姿を変えた大斧を薙ぐ。
「ルーク!!」
盾を持った大男がその身長を上回るほどの大盾でルークと呼ばれた金髪を守った。
(あの女、吸血鬼か。それも相当力が強い。血の扱いも前に一度見た吸血鬼とはレベルが違う)
「強いね。あの吸血鬼」
何よりも目立つのはその魔力量だ。
さすがにハルの足元には及ばないが、確実に俺以上はある。
冒険者と思われる集団は7人。
ルークと呼ばれた剣士。盾持ちの男が2人。後衛に魔法使いが3人。そして距離をとった森の中に1人。ついでに瀕死の20数名。
俺はフードをとり距離をとっている1人に近づいた。
「おいおい、ルークもいてA級のタンクもいてこれかよ!!」
グリンドは右腕に嵌ったリングの力で傷ついた味方を癒し手であるイリスの場所へ転移させる。
「おいグリンド」
「ぬぅぉあ!!」
戦場を俯瞰できる位置に隠れていたグリンドの背後から声がかかり、思わず変な声が出る。
「って、シン!?なんでここにいる!!?」
「こっちの話はいい。それよりはやく全員退かせろ。お前も分かってるだろ。あれだけやられて向こうは無傷。ジリ貧だ」
「そりゃそうだが、誰があいつを止める。そう簡単に逃がしてくれる相手じゃないぞ」
「そうだよ兄さん」
遅れてハルが姿を現す。
「兄さん⋯⋯?」
ハルもフードをとり素顔を出しているで、これでグリンドには双子であることがバレたことになる。
ついでルシェルも追いつきグリンドと顔を合わせる。
「どうする?僕が出ようか?」
「⋯⋯いや、俺がやる」
確かにあの吸血鬼は強敵だ。いつもの俺なら無理せずハルに任せて支援に徹していた。
だが今回は違った。
あの吸血鬼の戦いを見てから、なぜだか気持ちが高揚して挑んでみたいと思ってしまう。
「いいのか、お前が戦えばエルフだって気づく奴もいるんじゃないか?」
ここにはグリンド以外にも瀕死の冒険者も含めれば30人近くいる。無事なものでも10人弱。
たしかに俺の正体がバレるリスクは高い。
だがそれでも、そんなリスクを犯してでも、今俺は彼女と戦いたくてしょうがなかった。
◇
「あら?」
鬱陶しい剣士を殺そうとした時、今まで散々戦いを妨害してきた光が戦場を包んだ。
これまでは傷を負ったものだけを対象にしていた光が、今度は7人すべてをどこかへ連れ去った。
代わりに現れたのは紫の男。油断なくこちらを睨む紫紺の目はこちらのすべてを見透かそうとし、口元まで隠す大きな黒い外套のせいで彼の動きが読みにくい。
「悪いな吸血鬼。役者交代だ」
ほとんど体外に漏れることの無い魔力は極限まで洗練され無駄がない。
吸血鬼は大斧を剣に戻し周囲に無数の棘を展開する。
「⋯⋯ふふ」
相まみえる“同種”の気配に、久方ぶりに吸血鬼の胸が高鳴る。
彼女の血の棘に合わせるように、こちらは水魚を広げる。体には魔力と雷による二重の強化。懐から短剣を取り出し逆手に構える。
吸血鬼から放たれる魔力は毒のようにねっとりとした感触で、辺りの空気が丸ごと腐ったかとすら思うほど濃い。
「いくぜ」
最初の数歩で体は最高速へ至り吸血鬼に急襲する。
血の剣と短剣が鍔ぜりあい一瞬の静寂、次の瞬間には秒間30に至る剣戟の押し合いが始まっ。。
単純な押し合いでは速度も合わさりこちらが上。だがそれを補うように血の棘が鍔迫り合いに加勢し、あまった棘は俺への反撃に来る。
「硬さ比べといくか」
血の棘を水魚が迎え撃つ。




