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黒と白  作者: 魚卵の卵とじ
始まり、宿る
46/55

46話

「それでこんなに機嫌が悪いってわけ」


 翌日、いつものように学園の秘密の泉で瞑想しながら、ハルカとルシェルの会話を聞く。


「別に四階から外に放り出されたから怒ってる訳じゃない」


 メルヴィスは魔人のことに関して確実になにか知っている。その説明もなく俺を遠ざけたことに腹が立っているのだ。


「ハル。前に城の図書館にいっただろ。神話関連の書物はなかったのか?」


「ん〜、何冊かあったけどどれも一般的なものしか書いてなかったよ。メルヴィスさんが調べ物をするなら禁書とかじゃないかな」


 禁書。王国中のあらゆる書物が集まる王立図書館のなかで、とくに禁忌とされた魔法や伝承が記された書物のこと。禁書は王族でも閲覧が制限されるほどのもので、俺もどこに保存されているのかすら分からない。


(ある程度の場所さえ分かれば忍び込めるか……?メルヴィスの感知を抜けられれば他はどうとでも……)


「とてつもなく悪いことを考えている気がします」


「おー。ルシェルさんも兄さんのこと分かってきたね。ちなみにこれは王族を人質にとって禁書の在処を聞こうとしている顔だね」


「んなことしたら読む前に処刑だろ」


 ため息をついて瞑想をとく。

 忍び込むにしてもメルヴィスを躱せる気がしない。やはり禁書については諦めるしかないか。


 食堂でもらったパンをいただきルシェルに向き直る。


「それで俺らの仕事はなんなんだ?メルヴィスから聞いたんだろ?


「あっ……と、少しお待ちを」


 同じく昼食を食べていたルシェルはハンカチで軽く口元を拭くと、ポケットから1枚の手紙を取り出した。


「こほん。『東にあるテレス山に異変が起きている。周辺の村にも多大な影響が予想されるため早急に解決せよ』とのことです。テレス山というと月と湖の伝説が有名ですね」


「伝説?」


「テレス山の山頂に大きな湖があるのですが、大昔そこに月の妖精と湖の精霊が住んでいたそうです」


 ルシェルの話だと、妖精と精霊はとても仲が良かったが、ある時月の妖精が悪者に捕まり湖の精霊と離れ離れになってしまったそうだ。湖の精霊は酷く悲しみ、その影響で湖は荒れ果て、山を伝って流れていた川もすっかり枯れてしまった。


 その川を利用していた村も途端に水不足に陥る。しかしその現状と湖の精霊を不憫に思った通りすがりの剣士が悪者を懲らしめ、月の妖精を助け出し山頂の湖に戻してあげた。


 精霊は親友との再会に喜び剣士に感謝した。お礼に力を与えようとするが剣士は断り、代わりに村を守って欲しいと願った。


 そして湖はもとの美しさを取り戻し、村は妖精と精霊に守られ魔物が一切寄り付かなくなった。



「ちなみにその湖は湖面に月がとても綺麗に映ることから観光地としても有名なんです」


「妖精族か。興味あるな」


「そっち?」


 妖精族とエルフはともに精霊の子孫だとされている。精霊は純度100%の魔力体であり物理的な体は持たない。神話では人間が精霊を酷使したことに腹を立てて姿を消したとある。

 その中にも人間と関係を築こうとした精霊がいたが、怒った他の精霊が力を奪い追放した。その際に物理的な体を得たのが妖精族。その後人間に馴染むように体を変え、生まれたのがエルフという訳だ。


 体の割合で言うと妖精族が60%、エルフが20%が魔力になるらしい。


 そんな関係を知ってからか、俺は昔から妖精族や精霊に興味があったのだ。


「テレス山っていうと馬車で5日くらいかな。夜通し全力で走れば2日ぐらい?」


「ルシェルに合わせるならもっとかかるぞ」


「うっ。ご迷惑おかけします……」


 どのみち一週間は学園は休みになりそうだ。


 ◇


 彼はご機嫌だった。

 主から命じられた捜し物をついに見つけたのだ。力の奪取、もしくは生け捕りという目標は達成出来なかったが、数千年の時を経てようやく見つけ出したという喜びで十分プラスであった。


「『白き子』……予想よりも力を取り戻していたが、全盛期には遠く及ばない。権能は厄介だが今ならやりようはある」


 ボロきれのようなフードを下ろし顔を露わにする。

 その顔は右半分が硬い角に覆われており、その角はカーブを描き前に大きく突き出す形をしていた。


「それにしても、まさか黒の力までも揃っているとは……あれは眷属か?いや、あの神が力を失ってからそこまで時間は経っていない。白の力もない彼女がこの短期間で眷属を作れるほど回復したとは思えない」


 魔人は拠点としている地下室で木の椅子に座りキィ、キィと鳴らせながら思案する。


「我々が動き出したことは彼女も気づいているはず。であれば眷属を作るよりも自らの回復に務めた方がいい。にも関わらず自分の力を貸し与えている。いったい何を考えている……いや、なるほど。彼女の権能か」


 クククと不気味に笑う男はフードをかぶり直し立ち上がると、地下室に入るための階段の向かい側につけられた鉄の扉を開ける。


 扉の先にはさらに地下へと続く階段があり、男は壁に掛けられていたランプを片手に闇の中その階段を下って行く。


 しだいに地下深くになるにつれ徐々に何かの悲鳴が聞こえ始める。


「本命は『白き子』ですが、できれば黒の力も奪いたい……アレの準備にはまだ当分時間がかかりそうですし……」


 階段を降りきった先にあったのは3つの巨大な檻。

 その中には元の姿とかけ離れた3匹のワイバーンがいた。


 ワイバーンたちは身体のいたるところから邪悪な結晶を生やし、まるで生気を吸われているかのようにぐったりとしていた。


「君たちは副産物にすぎませんが、どうせなら役に立ってもらいましょう」


「Gyaauuu……」


 男はワイバーンの一体に触れると大量の瘴気を流し込んだ。

 ワイバーンは途端に暴れだすが、瘴気に体が持たなかったのか、ピシリとひびがはいる。


「とはいえこれだけでは『白き子』と黒の力には及ばない。あの2つは相性がいいですからね。せめて彼らに強い憎しみを抱きそれなりの実力を持つ誰かがいれば良いのですが」


 そうつぶやく間も男の手はワイバーンから離れることはなかった。


 ◇


 シンたちが王都を発って3日後、冒険者ギルドでは1つの報せが冒険者たちを賑わせていた。


「緊急依頼!テレス山にて吸血鬼リリスティア・ヴァレンタインを確認しました!!直ちに討伐隊を編成します!条件はB級以上、期日は1日。なおA級パーティ『錆翼の剣』を中心に編成、整い次第グリンド様の転移ですぐにテレス山へ向います!!」


 A級賞金首『紅薔薇姫(スカーレット)』、リリスティア・ヴァレンタイン。

 かつて一夜にして国を血に染めた紅の姫が彼らを向かいうとうとしていた。




今更ですが、3人の戦力差


ハルカ>>>シン>ルシェル(シルフィ使用時)


耳飾り無しの全力だと

ハルカ>>>>>シン>>>>ルシェル


ぐらいの差が出ます。

ハルカくんは強すぎです。

ハルカくんの全力時は白魔力も使用。ただしシンは黒魔力は基本使いません。


ハルカくんを強くしすぎてあんまり出番を作れない……

でもシンとハルカの戦力差にはちゃんとした理由があるんです。中盤で明かす予定です。お待ちを

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