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黒と白  作者: 魚卵の卵とじ
始まり、宿る
45/55

45話

「行ってしまいましたね。グリンドさん」


「あれが『運び屋』。あの腕輪見ただろ。あれは古代遺物(アーティファクト)で効果は転移。その効果でギルドからこき使われてる」


 前にも軽く話題に出たが、神話の時代、この世界は二つが一つに重なった。その時に異なる文化が混ざり合い進化・発展し今の世界になったわけだが、その影響で解析不可能となった技術や魔法が刻まれた魔道具などが稀に見つかることがある。それが古代遺物(アーティファクト)である。


 ちなみに古代遺物(アーティファクト)は同じく世界が合わさったことにより地中に埋まってしまった神代の建物や遺跡から発見されることが多い。そういった建造物は人の手が入りづらく、魔力が溜まり魔物が産まれダンジョンと化す。

 ダンジョンを探索し古代遺物を見つけ出すのも冒険者の一つの憧れとなっている。


「古代遺物ですか。シンさんも憧れたりするんですか?」


「俺?まぁ転移は便利だとは思うけど、当たりはずれ多いからな。憧れるってほどでもない」


 あるか分からない道具を探すより魔法を磨いて強くなった方が早い。

 それに道具だよりの戦士はいつか痛い目を見る。俺はじいさんにそう教わった。


「……そうですね。私もシルフィに頼りきりにならないよう気をつけます」


 ルシェルが銀の髪飾りを撫でる。

 古代遺物も精霊の遺贈物(フェアリーギフト)も人に大きな力をもたらすが、結局最後に頼れるのは自分の力だ。


「悪いが今日はもう帰るぞ。一応メルヴィスに報告しに行く」


 あいつのことだ。俺が知るよりも前から大龍山脈での異常に気付いていてもおかしくないが。これでも部下なので一応。


 巨大な水球を作りその中にワイバーンの死骸を二つとも入れる。

 傷つけない程度に水を凝縮し死骸を固定すればこうして物の運搬もできる。水魔法も転移におとらず汎用性が他の属性に比べて桁違いだ。


 ◇


「黒蛇の穴で見た右目から角が生えた魔人。それが関わっている可能性がある、と」


 場所は王都。中央にそびえ立つ白亜の城の一室。『魔星』メルヴィス・アーケインに与えられた執務室。


「倒したワイバーンには瘴気は感じられなかった。多分あの二体は番で消えた三匹はその子供だ。親が巣を離れてた時に魔人が子供をさらったんだと思う」


 すでに死んだ魔物を瘴気で化け物に変えて蘇生までしたあの魔人の力ならワイバーンの数体攫うなんて造作もないだろう。

 痕跡を残さずに消えたことも俺が地下で見たときの穴のようなもので移動できると考えれば納得できる。


「分かった。この件は騎士団で預かる。しばらく大龍山脈には近づくな」


「近づくな?つまり、俺に魔人と戦うなって言ってんのか」


 シンの魔力は少しの乱れもなく、しかし明らかに怒りを含んでいた。


「そうだ。魔人の存在はまだ不明なことが多いが、我々の予想以上に危険である可能性が高い。対応は騎士団に任せお前たちは関わるな」


「……関わるな?ふざけんなよ。俺はじいさんを殺したあいつらを根絶やしにすると誓ったんだよ。なんで人を襲うのか、どこから現れるのか、目的は何なのか、全部暴いて全員殺す。そのためにあんたの下についてここまで鍛えてきたんだ。やっと奴らの手がかかりがつかめるかもって時に……なんで俺を魔人から遠ざけようとする」


「……」


「黒蛇の穴の戦いの後、アンタ神話について調べるって言ってたよな。一体何を知った」


 メルヴィスは目をつむり手を組んだまま微動だにしない。

 これ以上何も言うことは無いということか。はたまた言葉を選んでいるのか。


「あんたに比べればどれだけ強くなったところで俺じゃ役不足なんだろう」


『魔星』。この国、いや世界で最も強い最強の魔法使い。その他大勢の天才強者が束になってもかなわないほどの壁がこの男との間には存在する。


「だがな……」


右腕に力が入る。そう、この右腕だけは唯一その壁を崩せるのだ。あらゆるエネルギーを呑みこむこの力なら―――


 瞬間、強力な重力で俺は床に叩きつけられた。


「このッ……」


 抗おうとするほど重力は力を増し、俺は顔すら上げられず完全に地に伏した。


「調査の間貴様には別の任務を与える。詳しくはルシェル嬢から聞くように。以上だ」


「ま―――」


 体は何かに包まれ宙に浮かび、メルヴィスは見えない力で執務室の扉を開くとそのまま俺は外に放り出された。


 ◇


「……ふぅ。報告も終わったことし先に一杯やるとするかね」


 男の名はグリンド。『運び屋』の二つ名を持つA級冒険者である。


 ギルドから依頼を受け(押し付けられ)、大龍山脈の調査へ向かい、そこでワイバーンの番が様子がおかしいことを確認。事前に受けていた報告から、どうやら子供がいなくなったことに怒っており、その犯人を殺そうと山を下りて行ったところを目撃。


 非戦闘員の自分ではかなわないと自覚していたグリンドはせめて被害を最小限に抑えようと、ワイバーンの向かった方角を確認するため追って山を下りたところシンたちと遭遇したのだ。


 ギルドに併設された酒場で安酒とボアの肉をたのみ空いている席に座る。


「にしても、あれがD級ね。一撃でワイバーンを丸焼きにする魔法使いがD級ってなんの冗談かっての。お、あんがとな」


 小さくぼやく彼の目の前に給仕の少女がオーダーを届ける。気前よくチップを渡し早速酒に口をつける。


 グリンドはA級パーティー『錆翼の剣』に所属している。

 A級のパーティーともなればさまざまな依頼を受け王国各地を飛びまわることが多いので、実力は当然、見識も相当に広い。


「お。グリンドじゃないか。帰ってたんだね」


「ルークか。おうよ。さっきな。そっちは休みを満喫できたのか?」


 グリンドの背後から声を掛けてきたのは端正な顔立ちをした金髪の男。優しい顔立ちとは真逆の隙のない立ち振る舞いはA級冒険者のそれ。


「……まぁ、ね」


 途端にげっそりとやつれる優男に笑いながら、グリンドは先ほどの給仕に追加の酒と肉を3つずつ注文する。


「その顔じゃあまたアンネに搾り取られたんだろ。あいつ自分の金すぐ使い果たすからな」


「でもすっごく楽しかったです。今度はグリンドさんも一緒に行きましょう」


 ルークの後ろからひょっこりと顔を出したのは純白の修道服を身に纏う少女。流れるような金の長髪を持ち上げる大きな胸と彼女を見た周りの男の視線を奪うその美貌。ルークと並ぶと兄弟のように見えるほどお似合いに見える。


「遠慮しとく。俺まで金欠になっちまう。アンネから金をせがまれないのはイリスの嬢ちゃんだけだぜ」


「そうだよイリス。僕たち男はアンネみたいな女の子に逆らえないんだ……」


「こうしてダンジョン踏破の祝勝会も開けなくなるしな。……そんでその金食い虫はどうした」


 今日は先日踏破したB級ダンジョンの祝勝会だったのだ。疲れをとるため一日休みにし、せっかくだからどこかへ出かけようとしたところグリンドだけギルドに呼び出されたのである。


「買った魔道具を早速いじってるよ。もうすぐ来るんじゃないかな」


 ルークの発言と同時にギルドの扉が開いた。遠目からも分かる眠そうな目をして大きな杖をつく魔法使いの少女。

 あの目はダンジョン踏破の疲れから、というわけでなく、昔からそうなのだと幼馴染の仲間は知っているが、それとは別にどこか不機嫌そうな気配をにじみ出しこちらに歩いてくる。


「機嫌悪そうだな。大金はたいて買った魔道具が爆発でもしたか?」


「爆発はしたけどそれとは別」


「爆発したのか……僕のお金……」


 まぁまぁとイリスがルークをなだめるのを横目に魔法使いの少女はグリンドの横の席に座る。


「魔法使いの力量を測る魔道具。簡単なパズルかと思ったけどめちゃくちゃムズイ。難易度調整失敗してる。ベニムスにいったら製作者をぶん殴る」


 A級『不朽』のルーク

 A級『運び屋』のグリンド

 そしてB級の魔法使いアンネと癒し手のイリスを含めたこの4人がA級パーティー『錆翼の剣』である。


 アンネの話を聞くにベニムス王国から流れてきたというその魔道具は、パズルのような凹凸のある側面を持つ板が複雑に絡み合った球状の魔道具らしい。板には魔力の回路が彫られており一枚の板につき3つほどのチェックポイントのような箇所がある。回路に沿ってそのチェックポイントすべてに適切な量の魔力を込めるとパズルが解かれ板がバラバラになるらしい。


「チェックポイントの適切な魔力量は全部違う。少しでもあふれると最初から。どれかを強くすると他も強くなる……逆もまた然り。これはムリゲー」


 彼女はB級の魔法使いだが実力はA級と遜色ない。贔屓目ではなくギルドからもそう評価されている。そんな彼女をして「無理」といわせる魔道具は確かに難易度が高すぎるだろう。


「あんなのはエルフでも無理」


 前にも言ったが彼らは見識が広い。数年の活動で滅多に人前に出ないエルフにもあっている。そしてそのエルフと張り合える実力を彼女は持っているのだ。


「エルフ、ね」


 エルフといわれグリンドが思い出すのはやはりあの男の姿。

 紫がかった髪と鋭い紫紺の瞳。剣に魔法を付与しワイバーンの首を両断。剣には一切の刃こぼれは無く

大理石のような切り口は滑らかさ。魔法を撃てば一撃でワイバーンを瀕死にし、かといって高値で売れる臓器にダメージを与えない絶妙な魔力操作。グリンドたちが見てきたエルフとは比べ物にならないほど魔法の扱いが巧い。


 美形が多く魔法の扱いに長けたエルフが狙われやすいというのは有名な話で、彼が姿を隠すのはどこもおかしな話ではないが、あの男には何か別の事情がありそうだとグリンドは考える。


「なに」


「いんや、そのパズル知り合いならもしかしたら解けるかもなって」


「私より腕の立つ魔法使い……A級?」


「さてな。よくわからん……ほろリーダー。さっさと乾杯しようぜ」


 あれだけの実力を持ちながら目立った話はまったくない。唯一といっていいのが半年前のワイバーン事件。


 D級から上を目指すようなそぶりは一切なく、たまにギルドに来たかと思ったら薬草採取から魔物討伐まで何種類の依頼を受け、数日後にはまとめて報酬を受け取りに来る。

 どうやらその依頼は一定の地域内で解決できるものにまとまっているらしく、ギルドは別の用事のついでに依頼を受けていると考えているらしい。


「こほん。では、みんな無事に帰ってこれたことを祝して、乾杯!!」


 ルークの掛け声に合わせ3人が彼のジョッキに己のをぶつける。


 何はともあれと、グリンドはあのエルフに関して考えるのは一旦やめて仲間との饗宴を楽しむことにした。


シンは小遣い稼ぎに冒険者をやっています。


メルヴィスからの仕事で各地へ行く際、ギルドでその地域の依頼をまとめて受け、王都に帰還した際にまとめて報酬を受け取っています。


また、ランク制限で依頼は受けれないものの、高値で売れそうな強い魔物の情報を依頼掲示板で仕入れ、勝手に倒して売り捌いています。


ランクの制限はあくまで依頼の受注だけで、ギルドの知らないところで勝手に戦って素材を売るのは可能だからです。(自己責任)


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