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黒と白  作者: 魚卵の卵とじ
始まり、宿る
18/55

18話

「おい!止まれ!!」


 夜の闇に紛れて王都を走っていると、城門にいる騎士に止められた。まぁこんな不審者が夜の街を爆走してたら、誰だって止めるか。


「こんな時間に何の用だ⁉」


 城門は決まった時間に閉じられる。当然王都に住む人はそんなことは分かってるので、この時間に城門に来る人は滅多にいない。


「……外に出たい」


「怪しいな。何か身分を証明できるものは?」


 俺は懐から出した一枚の手紙を渡す。これは俺が『魔星』メルヴィス・アーケインの部下であることを証明するもので、こういう時はこの手紙を出せば何とかなる。


 だが今回はそうはいかないらしい。

 手紙を受け取った騎士は封も開けず、ただ一点をじっと見つめていると思ったら急に噴き出して腹を抱えて笑い始める。


「おいおい、こりゃ魔星印(ませいいん)かぁ?だめだろ坊主、こういうのは犯罪だぜ?まぁその恰好でこんな時間に来たところを見るに、街で何かやらかしてるみたいだし、今更一つ増えたところで変わらんがな」


 どうやらこの騎士は俺が犯罪をして夜逃げしようとしているように見えているらしい。すぐに捕まえようとしないところを見るに、賄賂でも強要し、そのうえで捕まえて成果を上げようとしているのか。


 今更だが、この騎士には見覚えがない。毎日通っているわけではないので、門衛のすべてを把握しているわけではないが、ある程度は見覚えがあるはずなんだが。


「……メルヴィスから伝達があったと思うんだが」


「伝達ぅ?聞いてねぇなぁ。なぁ!お前らもそうだろ!?」


 俺たちのやり取りを離れたところで見ていた他の騎士が頷く。

 普段はメルヴィスからの伝達を受けた騎士がさっさと門を開けてくれるのだがどうしたものか。


「だとよ。まぁどうしても通りたいんなら……分かってんだろ『クロ』」


「……なるほどな」


 突然だが現在城に努める騎士たちの間で広まってる噂について話そう。

 曰く、6年前『魔星』が秘密裏に二人の部下を雇った。

 曰く、その二人は『魔星』が育てた弟子である。

 曰く、『魔星』は二人のどちらかを、現在空席となる「星位」に推薦するつもりである。


 星位とは国から認められた4人が就くことのできる、このアルフェスト王国の重要ポストだ。当然その地位に就こうとする者は多い。だがここ数十年間その椅子に空きは無かった。


 そんな中60年に渡り国を守り続けた『水星』コルヴェート老が亡くなった。

 ようやく空いた星位。地位を望む者は王に認められようと、ここぞとばかりに成果を上げ始めたのだ。


 そういうやつらにとっては、どこからともなく現れ、魔星という強力な支援者を持つ俺とハルは、星位を横取りしようとする敵になる。


 俺たちは顔を隠してはいるが姿は隠していない。メルヴィスに会うために何度か城に行ったことがあるので、その時に噂を知る騎士に見つかり、今も来ているコート姿からクロとシロというあだ名で呼ばれている。


 つまりこの騎士は俺を排除しようとする誰か、もしくはその誰かの子飼いといったところか。


「今ここで捕まるか、金を払ってから捕まるか。好きな方を選べ」


 騎士は俺に詰め寄り顔を近づける。大人でガタイのいい騎士と13歳のガキだ。当然俺は見上げる形になる。


 数歩後ずさる。周りの騎士から見たら圧に負けたように見えるかもな。だがいまさらチンピラごときでビビる俺ではない。


 視線を上に向けたことで騎士の後ろに王都を囲む高い壁が見えた。


「……15メートル弱ってとこか」


「あん?」


 さらに数歩後ろに下がり助走を確保する。


「まさか!!お前ら、こいつを止めろ!!」


 男は手を伸ばし俺を捕まえようとするが、数瞬遅い。


「じゃあな」


 たった少しの助走で騎士たちを飛び越え壁に着地。その足でさらに真上に跳躍し一気に壁を飛び超えた。


 ◇


「だ、だれか……たすけてぇ」


 今日は5歳の誕生日だった。昼間は村中から祝ってもらえて楽しかった。友達もみんなが私の誕生日を喜んでくれた。

 夜にはおかあさんがご飯をたくさん作ってくれて、おとうさんの暖かい腕の中でねむる。

 いつも通りでいつも以上に幸せな日になるはずだった。


 急に村が炎に包まれて大きな魔物におとうさんが食べられた。私はおかあさんと一緒に森に逃げたけど、追いかけてきた魔物に私を庇ったおかあさんが捕まった。


 大きな豚の魔物はおかあさんの服をビリビリに破いて、汚く嗤ってる。

 魔物は私に気づくと右手に持つ斧を振りかぶる。


 次は私の番。もうすぐ私も殺される。

 恐怖で顔はぐちゃぐちゃで、足も喉も震えて上手く動かせない。逃げることも悲鳴を上げることもできない。


「い、いやぁ……」


 かろうじて少女が絞り出した小さな声は、果たして―――




「―――『雷鎚』」


 雷鳴に搔き消された


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