15話
やってきたのはハルカとルシェルだ。あの後すぐに解散した俺たちは、今日の昼に魔法を教えるという約束をしていた。
いつもなら友人と昼飯を食べてるハルもついてきたらしい。
「こんにちは。よろしくお願いします。シンさん」
「……おう」
居心地悪すぎるだろ……!!
一度断った上にあんな恥を晒した相手と昨日の今日でどうやって魔法を教えろってんだよ!
「……はぁ」
「あの、やっぱり……」
「いや、いい。一度受けた仕事は最後までやり通す。結果がどうあれな」
そう。これは仕事だ。やらなければいけない任務。ならごちゃごちゃいってても仕方がない。
「うし。やるぞ」
「はい!」
◇
まずは実際に魔法を使おうとする時の魔力の動きを見る。
「魔力は動いてるな。でもそれが魔法に変換されていない。そもそもお前の適性はなんだ?調べたんだろ?」
人の内に存在する魔力は魔法に変換する際に色を変える。俺の場合、水魔法を使う時は青色に。雷魔法なら紫に。そして魔法に変わる際の色の変化を調べ適性となる魔法を絞り込む魔道具がある。
「適性は風と。母も風の魔法を使っていたので間違いはないかと」
「へぇ⋯⋯ちょっと触るぞ」
右手を前に出して魔法を発動させようとするルシェルの背中に触れる。
俺の魔力をルシェルのそれと繋ぎ、構築されない魔法に介入する。
本来異なる魔力が1つの魔法を構築しようとすると、使い手の意識の違いから魔法は暴走する、とてつもない危険行為だ。
だが、俺はそんな危険行為を強制的にされた側の人間なので、ある程度の感覚は知っている。
加えてルシェルの場合は彼女1人では発動しない魔法への介入だ。俺の時のソレとは難易度が雲泥の差である。
もちろんルシェルの方が泥だが、そんなことを言えば公爵家に消されるので言わない。
「⋯⋯んっ」
「悪いが我慢してくれ」
魔法を使う時に最も大事な要素。それはイメージ。どれだけ鮮明なイメージをできるかで、その魔法がどれだけ精巧に構築されるか、どれほどの威力になるかが変わってくる。加えてその人にあったイメージを浮かべることも重要となる。
すなわち魔法を使うということは、イメージ、つまり幻想を形にするということである。
風魔法と言えばイメージするなら「鎌鼬」や「旋風」。もっと言うと「嵐」といったところか。
うーん。どうもルシェルに「嵐」は似合わない気がする。
そもそもルシェルはまだ魔法使いではない。魔法を構築出来ない未熟者だ。けれど母という「風」に追いつきたいと願い焦がれ、憧れる。幻想を想い、形にしようとするその姿は間違いなく魔法使いといっていい。
魔力を通して彼女の思考に沈んでいく。
母を殺した魔物を殺すために魔法を使いたいという願い。復讐の道具だった魔法が美しく見えたあの瞬間。
どれも今のルシェルを創る大事な要素。けれどそれらは後付けの理由に過ぎない。
もっと深くへ沈んでゆく。
その先にきっとある。
ルシェルが魔法を使いたいと思う、真の理由が。
それがきっとルシェルにとっての「風」になる。




