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黒と白  作者: 魚卵の卵とじ
始まり、宿る
14/55

14話

ちなみにメリストン学園は12歳から入学が許可されています。12歳以上なら試験合格で誰でも入学可能です。


ついでに年齢公開をしておくとシン・ハルカと今回出てきたルシェルはまだ13歳です。三人とも誕生日は冬。

「ちょっと待った!!」


 話を終わらせて帰ろうとしたら、ハルがわざとらしく手を広げて道を遮った。

 きっとこいつには俺が断ることはお見通しだったのだろう。


「……なんだよ」


「兄さんの価値観とルシェルさんの思いが相容れないってことは分かった。そのうえで言わせてもらおう!」


 ハルは俺のことをよく分かってる。ずっと一緒だったからか双子だからか知らないが、言葉に出さなくてもこいつは俺の本心に気づいている。


 そのうえでハルカは不敵な笑顔で俺を否定する。そうするべきではないと、真正面からぶつかってくる。


「僕はルシェルさんの力になるべきだと思う、とね」


 ハルカの笑顔は太陽のように優しく相手を包み込む。だがこういう時のハルカの笑顔は、同じ太陽でも全くの別物に見える。

 お前は間違っていると、自分が絶対に正しいと、真っ向から突き付けて叩き潰す。何人をも焼き殺す、灼熱の炎。


 俺はこの笑顔が少し苦手だ。弱みも間違いもすべてを照らし曝け出す太陽。

 俺は自分の意思で相談には乗らないと決めた。この判断に最善も最悪も存在しない。そのはずなのに、この笑顔を見るだけで、自分の判断が間違ったのだと思いそうになる。


「……仮に受けたとしても、教えるのはお前じゃなく俺だ。俺には断る権利がある」


「それはもちろん。だから僕は兄さんを納得させる『言葉』を示さなければならない」


 そういうハルカは俺の方へ歩き出し、そのまま横を通り過ぎた。俺もつられて体を反転させ、目線で追う。

 ハルはこのやり取りを呆然と見ていたルシェルの横まで行くと、再び俺に向き直る。


「その『言葉』は君が言うべき……いや君にしか言えないんだ」


 兄弟喧嘩?を眺めていたら急に話を振られたルシェルは、当然その『言葉』に心当たりがない。けれど、諭すように語り掛けるハルカの言葉を聞いて、何かを思い出す。


「僕は正直、君をこの森に連れてくるまで、この話がどうなるのかは分からなかった。魔法を復讐の道具としてみる君があの()()を見て何を思うのか、予想出来なかったから」


 俺は二人がこの森に姿を現した時、泉の方に体を向けて瞑想をしていた。だから彼女が何を見たのかは知らない。


「でもあれを見た君の瞳を見て、きっと大丈夫だと思ったんだ。兄さんがどんなに拒んだとしても、君の想いを素直に口にすれば、それでいい」


 何を見たかは分からない。けど、何があったのかは予想がつく。ゆえに、ハルが彼女に言わせようとする『言葉』の正体に一足先にたどり着く。


「さぁ、ルシェルさん。言ってやるといい。君はあの光景(まほう)を見て、何を思った?」


 やめろ。それは、それだけは言うな。


 それを言われたら、俺は……


「……私は、あの光景を」


 絶対に……


「『()()()』と……そう、思いました」


 ……断れない




 俺はガクリと項垂れた。


 ◇



 今日も今日とてほとんどの授業をサボった俺は、食堂から貰ったサンドイッチを頂きながら、魔法で作った魚の群れを眺める。


 この学園、まともに参加しない俺のような不良生徒でも、ちゃんと卒業出来る仕組みな所が俺的には高ポイントだ。何せ、論文なり高ランクの魔物の討伐なりで学園に認められれば、それで卒業が認められるのだ。


 魔物の討伐はBランク以上と決まっているが、それなら魔力を制限された俺でも何とか勝てる。

 最終学年である5年生になってから学園側に申請し、それが認められれば無事卒業という仕組みなので、その時まではこうしてサボり放題という訳だ。


 ちなみにBランク以上の魔物の討伐に五体満足で成功する生徒はほぼ居ないらしく、その危険性から、大多数の生徒が論文の提出での卒業を目指すらしい。


 どうせ授業に参加しないのならば学園なんて休んしまえばいいと思うだろうが、それはうちの鬼メイドが許さない。


 あのメイドと来たら、『私は構いませんがコルヴェート様が悲しみますね』とでも言いたげな軽蔑の目をするのだ。そして実際に休んだ日には、『仕事をしない人に用意する飯はない』と無言の圧を出してくる。


 俺もハルもマーサも、家族の中心であったじいさんの言葉は心に刻んであるし、教えてくれたことは一言一句覚えていると言っていい。その中でもマーサはある言葉を気に入っている様子だった。


『人にはみな役割がある。どんな些細なものだとしても、自分の役割を見失わないことが大切である』そんな言葉だ。


 この言葉を信じるが故にマーサは人が自分の役割を放棄している事が嫌いなのだ。だから俺がじいさんの言葉を無視して学園を休むことを許さない。


 まぁその時は、5連続徹夜でさすがに学園に行く気になれなかっただけで、別に俺もじいさんの遺言を蔑ろにする訳では無い。この言葉は俺も気に入っているしな。

 だからこうして一応は学園には通っているのだ。


 ところで、瞑想とは心を無にして行わなければならない。心を無にし、そのうえで残ったものを形に表す。それが瞑想だから。


 ではなぜ今俺の思考は雑念だらけなのか。それは今日という日が13年の人生の中で、一番憂鬱な日だから。あーくそ。今からでもバックレてやろうか。


 死んだ目で野菜と肉がパンに挟まったサンドイッチを食べていると、魚達が形を失い、小さな雨を振らせて泉の中へ還って行った。集中が切れていたらしい。当たり前だな。

 いい加減な訓練をしたことに溜息をつき軽く伸びをしていると、軽い足音を鳴らして誰かが近づいて来たのに気がついた。


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