12話
午前の授業が終わり、中庭のベンチに座り食堂でもらったパンを頂く。
いつもは友人の誰かが話かけてくるのだが、今日は誰もくる気配がない。
久しぶりの一人を満喫しながら昼食を進める。
「さすがはメリストン学園。パン一つとっても上等だね」
日光を浴び、そよ風に当たりながら一つ目のパンを食べ終わる。
2つ目のパンに手を伸ばそうとしたその時、薄緑の髪の女生徒が近づいてきた。
「あの……お食事中すいません」
「構わないよ。ルシェルさん」
彼女の名前はルシェル・アルカード。大貴族アルカード公爵家のご令嬢。直接話すのはこれが初めてだが、魔法の授業でよく見かけるので名前は知っている。
広げていたパンを片し、彼女にベンチの横を空ける。
失礼しますと断り、腰を掛けるのを待ち話を切り出す。
「それで、何か話があるのかな?」
「……はい。ハルカさんに相談があり、お話をしに来ました」
「相談?僕でいいならいくらでも聞くよ」
ぺこりとお辞儀をしながら感謝を述べるルシェルさん。
大貴族の娘とあって礼儀作法はきっちりしている。
兄さんならさっさと本題を話せって思うだろうなぁ。とそんなことを思いながら、彼女の相談事を聞く
「ありがとうございます。それで、相談というのは……」
コクリと唾をのみ、何かを期待するような表情で僕の目を見る彼女。
「私に……魔法を教えてほしいのです」
◇
「そういうわけで、兄さんに会わせにきたんだ」
魔法を教えろ、か。なるほど。たしかにハルに相談したのははたから見れば正解だろう。。
なにせ、魔法の授業で成績のよく、面倒見がいいで有名なハルカである。こころよく問題を解決してくれると思ったのだろう。
「兄さんも気づいてると思うけど、ここの住民もルシェルさんのことは嫌いじゃないみたいだし、彼女を助けられるのは兄さんだけだと思ったんだ」
瞑想は解かずそれとなく気配で観察する。ハルの後ろで何かに呆けた様子のルシェルとやら。たしかに、この泉に棲む彼らからは好意的な印象を持たれているらしい。
何やら彼女を仲間だと思っているような、そんな反応をしている。
これなら大丈夫そうだと、ハルが不用意に人を近づけたことに納得する。
「まぁそれは分かった」
瞑想を完全に解き魔法を解除する。まるで大貴族相手にする態度では無いが、座ったまま上半身だけを彼女に向ける。
そこでルシェルというらしい女生徒はようやくこちらに向き直り口を開いた。
「ルシェル・アルカード申します」
彼女は礼儀正しく一礼しながら名を告げる。
ふわりと肩上まである、薄い翡翠色の髪が揺れる。
控えめな胸と細い体。強い意志を宿した薄緑の瞳、整った顔をしている彼女は、決して豊満な体とは言えないが、性的なことに興味を持たないエルフから見ても十分美少女といえる。
「魔法を教えてほしいって?」
「はい。ハルカさんには断られてしまって……でもあなたなら力になれるだろうと」
確かにハルに魔法を教えろというのは無理な相談だろうな。
なにせあいつは魔法に関して天才肌なとこがある。昔からそうだった。
一緒にじいさんから魔法を教えてもらってる時も、教えられたとおりに魔力を扱うよりも、自分の感覚に頼った動かし方をした方が上手く魔法が使えていた。
あいつは魔法を感覚で使っているから教える事が苦手なのだ。
「そもそも魔法を教えろって、どういうことだ」
よくよく考えればよく分からない話だ。
魔法を教える。この言葉を単純に受け入れるのならば、魔法の技術を教えるということになる。
だがそれならこの学園の教師の方が適任だ。なにせ過去に騎士団に所属していた魔法使いや有名な冒険者だった者もいるのだ。
いくら成績がいいからって同じ学生に相談するべきではない。
「私は……」
少女はまるでそんな自分を恨み殺すようにこう口にした。
「魔法が使えないのです」




