エルの日常④
オラの名は…面倒なのでそろそろ全部割愛するべ。
オラは今、城の門番をしていた。
門番と言っても、ただ立っているだけでやる事はなんもない。
通行証を出せとか、怪しいヤツは引き止めるとか、そんな事も一切しない。
老若男女、怪しいヤツからいい人そうな者まで、全部スルーである。
いる意味ないじゃんと、思わなくもないけど、門番のいない城は、なんか格好良くないので、いる意味はあるらしい。
景観というやつだべ。
「暇だ。くそ、昨日あのターンで、聖獣グリフィンのカードを引けていたら…」
おらと一緒に門番をしている先輩兵士が地団駄を踏む。
門番は各隊に日毎で割り当てられているのだが、バレリオン隊では門番係前日に門番を賭けて、カードゲーム大会が開かれる。
敗者は先輩兵士のように門番係にされるわけだべ。
ちなみに、おらは全勝した。
そして、勝利の褒美として門番係りが与えられたべ。
不条理この上ない。
「逆にお前は調子に乗り過ぎたな。負けの美学ってのも学べよ新入り」
「学んだべ」
勝ち過ぎても負け過ぎてもババを引く。
調子に乗って勝ち過ぎたおらは反省した。
「隊長は相手をノせて操るのがうまいからな」
「まんまとやられたべ」
先輩兵士の言う通り、おらはきっと、勝利に気持ちよくなってしまっていた。
「さて、無駄話はやめて門番の仕事だ。お前も今日中に、立って寝る事くらい覚えろよ」
「ふふっ。先輩あめーべ。おらは既に立ったまま寝られるべ」
「なにぃ!」
「ではな先輩。おやすみなさいだべ」
おらは口を閉じ、目を閉じた。
ポカポカの陽気も相まって、おらは目を閉じて3秒で眠りに落ちた。
退屈を飼いならしているおらからすれば、門番なんて苦ではなかった。
ロストの国はあまりに平和で、兵士は皆退屈をしている。
退屈過ぎるせいで、アルコールに逃げる兵士もいるし、ギャンブルに狂う兵士もいる。女にどっぷりとハマってしまう兵士だっている。
ただ如何せん、ロストは平和な国である。
退屈から逃げた兵士が向かうのは、依存や破滅ではなく、退屈だった。
ロスト国を護る兵士には、王家の印と呼ばれる指輪が配られるのだが、この指輪が曲物であり、混乱や錯乱を完全に中和してしまう。
しかも呪われているので、はずす事もできない。
ロスト兵士が退屈から逃れるには、退屈を飼い慣らすしかなかった。
この事もあって、兵士の中には無駄に体を鍛えたり、無駄に町中をパトロールする者もいて、ロストはますます平和になっていた。
「中々帰ってこんと思ったら、こんな所で寝ておったか。帰るぞエル」
「ほあっ、…寝すぎたべ…おんぶ」
「仕方無いやつめ」
「おっとうの背中、冷たい…すぅすぅ」
エルはこのまま翌日の朝まで眠り続けた。
ロスト王国は今日も平和だった。